第178話 プリンツ・ハイドリヒ

 プリンツ・ハイドリヒ

 帝国が最初に作った装甲巡洋艦――装甲板を有し強力な大砲を持ち足の長い大型戦闘艦である。

 最初に作られただけあって就役して二〇年以上経つ古めかしい艦だ。。

 最新鋭艦が揃う王国海軍本国艦隊に対抗できないと帝国海軍上層部に判断されプリンツ・ハイドリヒは海外領艦隊に配備されていた。

 開戦後は通商破壊に出撃し多数の商船を撃沈。

 半年以上になるが未だに暴れ続けていた。

 旧式であるプリンツ・ハイドリヒが活躍できたのは、旧式だったからだ。

 プリンツ・ハイドリヒが建造された時代は、帆船時代から抜け出したばかりで、建造時に取り付けられた三本マストには帆走装置が付けられたままだった。

 当時は石炭が希少だったこともあり帆走で航続距離を稼ぐ狙いもあったが、そのアイディアは的に当たり、帆走を多用することで燃料である石炭をあまり消費せずプリンツ・ハイドリヒが長期間航行する事を可能にした。

 タービン機関ではなくレシプロ機関であったことも、燃費に貢献し速力は遅いが、足の長い艦となった。

 そして艦長であるミュラー大佐が慎重かつ大胆だったことだ。

 追撃の手が迫っていると考えると、すぐさまその海域を離脱。新たな海域で襲撃を行った。

 そうかと思えばまた舞い戻り、暴れ回る。

 連合軍は東奔西走し、捕捉できず、それどころか港湾への接近を許し、逆に艦艇を魚雷攻撃で沈められてしまった程だ。

 他の帝国艦艇を沈めていたが、残るはこのプリンツ・ハイドリヒのみであり、しゃかりきになって追いかけていた。


「海軍の要請に協力したいのはやまやまだが、ベルケを放っておけない」


 忠弥としてはベルケの飛行船と、その飛行船を支援する飛行船母艦を狙いたかった。


「実は、プリンツ・ハイドリヒを追いかけている巡洋戦艦部隊が帝国軍と思われる航空機の接触を受けたそうです」

「なんだと」


 巡洋戦艦とは、戦艦から装甲を外し、巡洋艦並みの速力を発揮する艦だ。

 防御力は劣るが戦艦の主砲で、巡洋艦以下を遠距離から攻撃して撃破出来る。

 速力も早いので、サーチ・アンド・デストロイ――捜索撃滅に役に立つ艦だ。

 装甲巡洋艦プリンツ・ハイドリヒを探すのに役に立つ艦だ。

 会敵――敵と出会うことが出来ればの話だが。


「プリンツ・ハイドリヒに通報されたらしく。逃げられたそうです。近辺に飛行船が居る可能性が」

「地図を」


 忠弥はすぐに味方巡洋戦艦部隊の位置を確認した。


「ベルケが支援している可能性が高い。直ちに捜索に加わる。艦長、飛天と回天を巡洋戦艦部隊に向けてくれ、雄飛型も集合し攻撃を加える」

「了解」

「援護するの?」


 昴は忠弥に話しかけた。


「接触を邪魔するベルケを排除する」

「装甲巡洋艦を追いかけるといって、ベルケを仕留めるの」

「航空機の援護が無くなれば装甲巡洋艦は海軍だけで破壊できるだろう。我々は航空機で邪魔するベルケを排除する」

「物は言い様ね。本命はベルケなのに」


 航空機に熱を入れる忠弥は目標を航空機に設定しやすい。

 単純な子供のようで昴は呆れた。だが本人は気にせずに言う。


「今後もベルケに邪魔されないよう。仕留めておく必要がある。結果的に援護になるよ」




「やれやれ、大変な事になったな」


 カルタゴニアのブリッジでベルケは呟いた。

 本国からプリンツ・ハイドリヒの援護を命令された。

 ベルケの本心としては搭載している航空機を使い、連合軍基地への襲撃を繰り返したかった。

 だが、フォルベック将軍と共に、国外で活躍するプリンツ・ハイドリヒを失うわけにはいかない。

 飛行船の人員の多くは海軍出身であり、仲間であるプリンツ・ハイドリヒを助けたいと考えていた。

 だから見捨てるわけにはいかなかった。

 ベルケ達は見つかりやすい、プリンツ・ハイドリヒに近づく事になる。

 互いに見つかるのを避けて、離れた場所にいるが、援護しやすい場所にいる。


「必ず忠弥さんも来るはずだ」


 自分たちの飛行船が来れば忠弥の飛行船もやってくるはずだとベルケは確信していた。

 航空機の優位を信じる忠弥であり、海外で活躍する貴重な戦力である飛行船を見逃すとは思えなかった。

 いや、必ず来ていると断じた。


「索敵を強化、海上だけでなく、空中も警戒するよう命令を」

「隊長! 索敵機が、敵機と接触しました!」

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