第277話 散々な初出動

「いざとなると見つけられないものですね」

「海は広いですから」


 飛天のブリッジで呟く忠弥に草鹿大佐は答えた。

 王国周辺で襲撃を繰り返す帝国の潜水艦を見つけようと上空から監視している。

 だが、潜水艦としては比較的大きい五〇〇トンクラス航洋型潜水艦といえど、海の広さに比べれば木の葉、いや点に等しい。


「潜水艦が居ない、なら構わないが、見落としているとなると気分が悪い」

「緊急通信です!」


 ブリッジに通信員が駆け込んできた。


「FG56海域で商船が襲撃されたとの事です」

「先ほど回ったばかりじゃないか」


 通過したばかりの海域で襲撃されたと聞いてブリッジに動揺が走った。


「まだ遠くには逃げていないはずだな。反転! 敵がいないか探しに行く」

「了解! 面舵一杯! 一八〇度反転」

「航空機の出撃準備。爆装して襲撃し潜水艦を見つけ次第攻撃。僕も出る」

「お気をつけて」


 草鹿に見送られた忠弥は、疾鷹に乗り込んで出撃していった。




「全く、海に沈んで消えるなんて臆病者ね。潜水艦って」

「沈むんじゃ無くて潜るって言うそうだよ」


 後席に乗り込んだ昴に忠弥は言う。

 空中戦の恐れは無い事と、広い海域を見回るために復座型のほうが良いと判断して、多めに乗せていた。

 そして潜水艦を攻撃するために爆弾を乗せている。

 役に立つかどうかは疑問だが。


「三時方向、何か海にいるわ」


 機体右側を見ていた昴が叫んだ。

 左を見ていた忠弥も振り向き確認する。


「確かに何かいるね」


 青い海の上に白いものが浮かんでいた。

 忠弥は、機体を右旋回させ、接近させる。


「帆船みたいね」


 船体の前後に三角帆を付けた船だった。

 内燃機関が生まれたばかりの世界のため、全ての船にエンジンが積まれているわけではなかった。

 燃費も悪いため、入出港以外は帆走で航行し燃料を節約する帆船や機帆船が多い。

 だから帆を張った船を見かけてもおかしくない。


「停船するように伝えよう」

「おかしくないでしょう」

「気になる。発光信号で停船するように伝えて」

「分かったわ」


 気にしすぎと思いながらも忠弥の指示に昴は従った。

 すぐに応答があり味方の船だと伝えてきた。


「やっぱり怪しいところはないわね」

「停船して臨検を受けるように伝えよう」

「海に着水できないわよ」

「近くの駆逐艦を呼び寄せて調べさせる」

「やり過ぎよ」


 と昴は言うがすぐに誤りであったことが突きつけられた。

 突然、帆船が帆を海に捨てた。

 帆を掲げていたマストは折りたたまれ、乾舷の低い船体が露わになる。


「へ? 何あれ」

「潜水艦だ!」


 忠弥は叫んだ。


「通信マストにあり合わせの布を縫い合わせて帆に擬装していたんだ」

「よく分かったね」

「まあね」


 ヘンテコな飛行機が好きな某アニメ監督のマンガに出てきた第一次世界大戦のUボートの戦術を覚えていたおかげで見破れたことは黙っている。


「攻撃する」


 忠弥は機首を翻し、潜水艦に向かって急降下した。


「それ!」


 狙いを定めて爆弾を投下、操縦桿を引いて機首を引き上げ上空へ戻る。


「やった?」

「だめ、潜られたみたい」


 忠弥の投下した爆弾は、潜水艦の真上に落ちたが、素早く潜航したため、海面に触れた瞬間、信管が作動し爆弾は爆発。潜水艦に損害を与えられなかった。


「追い払えただけよしとするか。位置を通報して帰投する」

「了解」




「さて、本日の成果は?」


 飛天に戻った忠弥は出撃した全員に尋ねた。

 重苦しい空気が流れていたが、パイロット達は報告を始めた。


「爆弾を落としましたが、すぐに潜られて命中しませんでした」

「監視を続行したいのですが、燃料が足りません」

「日暮れになると監視など無理です。怪しい船を見つけても母艦に戻ることを考えれば、長居は出来ません」


 飛行士達は次々と意見を出してくるが忠弥は黙って聞いて問題点を確認した。


「やはり、航続時間の短さか」


 航空機は空を高速で飛べる。地上や海面より遙か高く飛び素早く移動できるのが最大の特徴だ。

 そして機動力と集中攻撃。

 遠くの一点を多数の航空機で集中攻撃することに優れている。

 だが逆、特定の場所に長時間滞空するのは苦手だ。

 空を飛ぶ間は常に燃料を消費する。燃料が尽きれば墜落だ。

 空軍の航空機は平均三時間、予備燃料を含め五時間ほどしか航続時間がない

 空中給油で滞空時間を延ばしても、パイロットの疲労が激しい。

 なにより、一地点に留まることは、航空機の機動性を有効に発揮できない。


「爆弾を落としても被害を与えていません。撃沈したかどうか分かりません」


 戦果を上げられなかったパイロットが気落ちしながらも切実に訴えた。

 装備が不適切なのが原因だった。

 搭載しているのが爆弾だけでは無意味だ。


「ロケット弾で攻撃できませんかね」

「試してみるか」


 推進薬がない分、爆弾の方が炸薬量が多いとので爆弾を採用していたが、攻撃の機会が少ない。そもそも爆弾だと海面で爆発するため、水中の潜水艦にダメージを与えられない。


「潜水艦の事を知る必要があるな。一つ、勉強に行こうか。相原大佐、草鹿大佐。王国海軍に協力要請を」

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る