第111話 ヴォージュ要塞戦の決着
「次から次にキリが無い」
ベルケは、離陸してから通算六機目を撃墜してから呟いた。
直ぐに離陸するために燃料の給油を最小限で済ませていた。お陰で機体重量が軽くなり、素早い加速と短い離陸距離を手に入れた。
発進の際にはフットブレーキだけで無く、整備員にも協力して貰ってスロットを上げて飛び出そうとする機体を限界まで掴んで抑えて貰う。
お陰で爆発的な加速で飛び出し、離陸することが出来た。
スピードを上げるため、機体が浮いても超低空を維持して加速を続ける。
迫ってくる敵機は、機体を横滑りさせて躱す。
一方的に攻撃される時間をベルケは、強靱な精神力で耐えきり、十分に加速すると上昇して、反撃に移る。
数の優位を行かすと言っても攻撃できるのは、後方に食らいついて至近距離に近づいた時だけだ。
接近してきた連合の戦闘機を、ベルケは優秀な旋回性能を生かして、後ろに素早く回り込み、銃撃を加えて撃墜した。
連合の戦闘機は忠弥の訓練の賜物か、二機一組で攻撃してくるため、上手く合わせれば二機同時に撃墜出来る。
これを何度も繰り返し六機も撃墜出来た。
「エース・イン・ア・デイですかね」
忠弥が始めたエースの称号制度。五機撃墜すれば、エースの称号が与えられる。
そして一日で五機撃墜を達成した操縦士のことをエース・イン・ア・デイと呼ぶ。
これを達成したのは、連合では忠弥と相原少佐と他に数名のみだ。
「我々はしょっちゅうですよ」
帝国軍航空隊は保有機数とパイロットが少ない。
そのため、パイロットは一日に何度も出撃しており戦闘の機会が多いため、帝国のパイロットは一日に複数機を撃墜することが多い。
ベルケも一日に五機以上撃墜したことが三回ほどある。
それだけ連合側の機体が多いと言うことだが、出撃しないわけにはいかない。放って置けば敵機の数が増えるだけだ。
今日の空襲で帝国航空隊は壊滅した。だが、まだ諦めない。
どんな状況になっても再び飛び立つ。その様を見せつけてやるつもりでベルケは飛び立った。
そして後ろから新たな戦闘機がやって来た。
同じように躱して撃墜しようとする。
「!」
だが、その機体はベルケの旋回を予知したように最初の一撃を加えた後、旋回して追撃をかけてきた。
ベルケは慌てて、垂直降下して躱すしかなかった。
「忠弥さん」
機体の動き方から忠弥の機体だとベルケは直ぐに分かった。
「本懐です」
再び相まみえたことをベルケは喜んだ。機体を立て直すと加速し再び上昇する。
互いに相手の動きを予測し、間合いを計る。
最初に仕掛けてきたのは忠弥だった。ベルケの機体に向かって再び一撃離脱を試みる。
ベルケは再び旋回して躱す。だが今度は降下の勢いを付けて先ほどまでとは違う軌道を描いて二回目を躱す。
そして忠弥の背後に付いた。
「貰いました!」
ベルケは背後にピッタリと付いたまま追いかける。
最小限の燃料しか積み込んでいないためにベルケの機体は軽く、スピードが出る。
お陰でスピード自慢の忠弥の皇国戦闘機にも追いつける。
スピードは互角、だが旋回性能も上昇能力はベルケが上。
忠弥の背後にピッタリと付いて追いかけることは容易い。
忠弥は右に左に上に下に、旋回を繰り返しベルケを離そうとする。
しかし、ベルケはピッタリと食いつきい攻撃の瞬間を待つ。
そして、忠弥が真っすぐ降下していく瞬間にベルケは引き金を引いた。
その瞬間、忠弥は機体を急上昇させた。
計っていたかのようなタイミングでの上昇、しかも降下していたため加速していた機体の上昇は早く攻撃のチャンスを逃した。
「逃がすか!」
ワンテンポ遅れてベルケも上昇し忠弥を追いかける
。ほぼ垂直に登っていった忠弥だったが流石に加速は弱まり減速している。
後はベルケが、機首を忠弥の方に向けて銃撃すれば撃墜出来る。
速度の遅くなった戦闘機の背後を捕らえて銃撃することなど簡単だとベルケが思った。
その時だった。
突然、忠弥の機体が、急速に背面を見せた。
まるでその場で主翼を軸にして回転し、機体の前後を入れ替えたかのような凄まじい方向転換したようだった。
見たことの無い機動にベルケは目を見開いた。
「!」
だが驚いた瞬間がベルケの命取りになった。
発砲が遅れて、忠弥の攻撃を許してしまい、忠弥の機体から放たれる発砲炎がベルケの視界いっぱいに広がる。
発砲炎から放たれた機銃弾は、ベルケの機体のエンジンに命中し、煙を噴いて地上に落ちていった。
「何とかなったな」
ベルケの機体が落ちていくのを見て忠弥はようやく安堵の溜息を吐いた。
後方に張り付かれてベルケに追いかけられてきたときは命が縮まった。
だが、奥の手ストールターン――急上昇して上昇の頂点で急旋回して機体を反転させて攻撃に移る空戦技で意表を突き反撃できた。
急上昇時と反転の瞬間が危険なために使いにくい技だが、初見のベルケ相手には効いた。
落ちていく機体を最後まで見ようとしたが地上の対空砲火が凄まじく、忠弥は途中で断念して、機体を旋回させた。
ベルケが地上に降りたかどうかだけでも見届けたかったが、出来なかった。
「他に離陸してくる機体はないようだな」
忠弥は周りを見て安堵の溜息を吐いた。
新たに離陸してくる帝国軍機はなく空は連合の物だった。
要塞上空の制空権は連合軍が完全に確保し、回りを飛んでいるのは連合軍機だけだった。
「よし、帰るか」
忠弥は大勝利を確信して、帰路に就いた。
忠弥の予想通り、戦いは連合の大勝利だった。
のちに大空襲と呼ばれた、この日の一〇波以上に及ぶ波状攻撃により、帝国軍航空隊の機材は八割以上を喪失。
滑走路や地上設備にも大損害が生じ、作戦能力をほぼ失い後退した。
ヴォージュ要塞上空は連合側の天下となり、大空襲翌日から包囲していた帝国軍に対する攻撃を開始。
包囲していた帝国軍の重砲群と後方補給基地に対して攻撃を敢行。
要塞を砲撃していた重砲群と、包囲していた将兵の食料を断った。
攻撃続行不能となった帝国軍はこれ以上の攻勢を断念。
撤退を開始した。
以降、帝国軍の進撃は止まり、両軍とも塹壕に籠もって先頭は膠着状態になる。
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