第110話 空襲下の出撃
「出撃する!」
掩体壕にたどり着いたベルケは命じる。
掩体壕の中は暖機運転中のエンジン音が咆哮してうるさかったが、ベルケは大声でねじ伏せ命令を伝える。
「整備員は準備しろ! 空襲の間隙を突いて離陸する! 燃料は最小限で良い! どうせ基地の上空しか飛べない! 機体を少しでも軽くしてくれ!」
「了解しました」
若い下士官がすぐに行動に移る。
航空隊が出来て間もなく、飛行機を整備できる人間は若い人間しかいない。
しかし、伝統ある帝国軍の将兵訓練法で規律と精神をたたき込まれていた下士官は、ベテラン下士官のような動きと指示を下し、ベルケの機体を準備していく。
「皆、機体を掴んで抑えてくれ。加速して離陸する。合図と共に離せ!」
ベルケは機体に乗り込むとフットブレーキを全身で踏み込み、部下達が機体を抑えるのを確認しスロットルを開く。
プロペラの回転が速まり、機体は今にも飛び出しそうになる。
だが部下達が機体にしがみついて抑えているため、機体は発進しない。
まるで放たれる寸前の弓矢のように力が拮抗し、エネルギーをため込んでいるようだった。
「敵機が引き上げていきます!」
外を見張っていた部下が大声で報告する。
「離せ!」
ベルケが命じた瞬間、機体を掴んでいた者達が手を離した。
鉄砲玉のように勢いよくベルケの機体は掩体壕から戦場の空に向かって地獄の駐機場に飛び出した。
「上空制圧は成功。敵の飛行場へも攻撃を続行中だ」
制圧した帝国軍飛行場の上を忠弥は愛機を操って飛んでいた。
初撃こそ前方飛行場からの出撃だったが、その後は前線飛行場へ下りて燃料と弾薬を補給してすぐに再出撃する。
前線に近くにあるが、敵の飛行場にも近いため、戻ってくるまでの時間が短いので反復攻撃を行いやすい。
最初に敵の航空機を飛ばせないようにしたお陰で、上空を飛んでいるのは連合の航空機のみだ。
完全なる制空権を連合は手に入れた。
「うん?」
飛行場上空を通過した後、飛行場の一角から飛行機が飛び出してきた。
「離陸するつもりか」
勢いよく飛び出てきたのはフットブレーキを使って限界まで機体を止めていたからだろう。機体は加速して離陸しようとする。
穴だらけの滑走路へ行かず、駐機場から直接離陸するつもりだ。
流石に広い駐機場を全て破壊できるだけの爆弾は投下出来ないが、針の穴のような隙間を縫って飛び立つことは出来るだろう。
そして忠弥の予測通り、機体は爆弾の跡や破壊された機体を巧みに最小限のカーブで避けて進んでいく。
カーブで加速が落ちないようにするため、緩く曲がっている。
「上手く離陸していくな」
回りを見たが、自分を含め他の機も攻撃に間に合いそうにない。
飛び出した敵機の近くに居た二機が気がついて攻撃態勢に入るが、離陸前に捕らえられそうにない。
忠弥の予想に違わず、掩体壕から出てきた機体は直ぐさま離陸し低空飛行を行った。
離陸直後は速度が遅いため、そのまま上昇し高度を取ろうとすると、余計にスピードが落ちて仕舞い、敵機の的になる。
この場合、超低空を飛び、加速してから上昇するのが基本だ。
そして、上空から超低空の敵機を攻撃するのは非常に難しい。
上から攻撃するのが基本だが、降下しながら撃つことになり、超低空で飛ぶ敵機の近くで撃とうとすると、攻撃後、地上にぶつかる可能性がある。
だから攻撃に向かった二機は遠距離から銃撃を始めた。
だが、敵機は銃撃を見ると瞬時に横滑りさせ、銃撃を躱した。
一度旋回して同高度から再び攻撃しようとするが、地上に接触しないか気になって、狙いが付けられない。
しかも、真後ろというのは狙いが付けにくい。
接近して銃撃を行ったが、またも横滑りで逃げられていく。
そして、敵機は地面を這うような低空飛行で速度を稼ぎ、十分に加速したところで高度を上昇さてきた。
攻撃しに来た連合軍の戦闘機を躱し、最小の旋回半径で後ろに回り込み、銃撃を加え撃墜していった。
しかも二機。
一機は銃弾を食らって戦闘飛行不能、もう一機は揚力が無くなり墜落した。
その二機を援護していた同じ小隊の他の二機が攻撃を仕掛けてくるが、その帝国軍戦闘機は同じように旋回戦で、返り討ちにして撃墜した。
「見事だベルケ」
忠弥は呟き、笑みを浮かべる。
あのような飛行技術を持ったパイロットは帝国側にはベルケしかいない。
他のパイロットではベルケ相手には荷が重すぎる。
自分が相手にするべきだと忠弥は考え、機体を旋回させてベルケの機体に向かった。
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