第282話 空中機動戦再び

 飛行船の索敵情報を元に潜水艦が商船襲撃を行ったらどなるか

 忠弥の言葉にブリッジにいた人間、特に相原と草鹿は顔面を蒼白にした。

 潜水艦の弱点は乾舷が低いことによる見通し距離、索敵範囲が低い事だ。

 獲物を見つける能力が低いため思ったほど戦果を挙げられていない。

 だが、飛行船という空高くから見る事の出来る、航空機が、速度の速い飛行機が商船を加わったらどうなるか。

 艦載機に船を襲撃し撃沈する能力はない。

 だが、潜水艦に情報を伝えることは出来る。

 潜水艦は情報を元に予想ルート上で待ち伏せし攻撃できる。

 実際、酷いことになる。

 忠弥のいた世界、第二次大戦前に英国がドイツが空母を保有して潜水艦と共同作戦を行ったら、という想定で大規模演習を行ったことがある。

 防御側の英国側も海軍艦艇のみならず実際に商船を参加させて可能な限り現実的な想定と状況を作り行った。

 結果は、ドイツの勝利。

 空母艦載機によって商船団が発見されUボートに襲撃され壊滅。

 哨戒機も空母から飛び出した戦闘機に撃墜され、哨戒網が機能不全に。

 迎撃に出た艦隊も発見され、逃げ回っていったため捕捉できず取り逃がした。

 商船が破壊されたためシーレーンは壊滅。

 英国の通商網は寸断されるという最悪の結果で演習は終わった。

 幸い現実ではドイツは空母を保有しなかったが、第二次大戦初頭、長距離哨戒機コンドルFw200を投入し英国沿岸を哨戒させ多数の商船をUボートと共に沈めている。

 互いの短所を補い合い強みを生かし合う航空機と潜水艦の共同作戦、商船狩りほど厄介なものはない。

 相原も草鹿も英国の演習結果は勿論知るはずがない。だが、海軍で受けた教育から想像出来てしまった。


「それは酷いことになりますね」


 重々しく忠弥の意見に相原と草鹿は同意した。

 律子は経験不足、知識不足もあって事態を飲み込めず、事の重要性を認識できていなかった。


「ああ、酷いことになる」


 どうやって律子に認識させようか忠弥が考える間もなく、現実がやってきた。


「緊急電です」


 悪夢が現実となって押し寄せ、通信員が悲報を伝えた。


「近隣の商船から航空機の接触を受けたあと、潜水艦の攻撃を受け撃沈されました」

「早速、攻撃されたか」

「報告! 商船が飛行船の攻撃を受けています」

「なんだと! カルタゴニアが爆撃を行っているのか」

「いや、多分、王国本土空爆を行っていた飛行船を洋上襲撃に回したのだろう。空中給油を受ければ、洋上へ進出できる。二トンの爆弾を搭載できるから商船を撃破するだけの能力はある」


 二五〇キロ爆弾なら一〇〇〇トンクラスの商船を撃沈するのに十分な威力を持っているはず。

 長時間飛ぶために燃料を多めにして爆弾搭載量が一トンになったとしても、二五〇キロ爆弾を四発搭載できる。

 それだけあれば外れが出ても飛行船でも通商破壊の戦力になれる。


「忠弥」

「ああ、このまま、引き下がるつもりはない」


 昴の言葉に忠弥は答えた。


「此方も飛行船を見つけ出し、撃破する。索敵機、発艦始め!」

「報告! 近隣の商船より飛行機の接触を受ける。近くに飛行船あり、との報告です」

「カルタゴニアか」


 航空機を伴った飛行船と聞いて律子はカルタゴニアだと思い込んだ。

 そして食いつくように尋ねる。


「続報は」

「他の飛行船の攻撃を受けて、被弾。以降、通信途絶」

「敵情がわからないか」


 だがようやく見つけた敵の手がかりだった。


「司令官、直ちに全力で、飛天搭載の一個中隊を出撃させて攻撃に出ましょう」


 距離が近いこともあり、律子は忠弥に進言した。


「二個小隊八機のみ、ロケット弾は一個小隊。あとは護衛とする」

「ですが」

「これは命令だ。不満なら攻撃隊に参加し給え」

「了解しました」


 律子は敬礼すると格納庫へ向かっていった。


「よろしいのですか?」


 ブリッジから律子が消えたのを確認してから相原は尋ねた。


「実際に経験しないと分からないことはあるよ。それより、出迎える準備を整えよう。他の空中空母に集合の命令を」

「了解」




「まだ信頼されていないのね」


 攻撃隊の指揮官として出撃した律子は不満だった。

 敵の空中空母を撃破する機会を与えられたのは嬉しいが、片手間のようにたった八機のみ。

 それも攻撃隊は機動性の悪い復座四機のみで出撃する事になったのだ。

 護衛に単座戦闘機四機が付いているが指揮官はセクハラ大王で有名な赤松中尉だ。


「どう考えても司令官は舐めすぎている」


 人類初の有人動力飛行を成功させ大洋横断を果たした英雄。

 だが実際は十代前半の少年だ。

 それに男。

 男尊女卑の皇国の人間であり、女を見下しているようだ。

 不測の事態が起きたらロケット弾を投棄して引き返して良いと言われているのもいやだ。

 失敗していることを前提にしているような口ぶりだった。


「絶対に落としてやる」


 律子は見返してやろうと気合いを入れた。


「見えた」


 暫くして雲の峰の向こうに飛行船の船体が見えてきた。


「雲を盾にしながら近づける」


 律子は機体をバンクさせると、飛行船に向かった。

 予定通り雲に隠れつつ接近していく。


「攻撃は成功ね」


 律子は成功を確信していた。

 だが、その時赤松中尉の機体が律子の目の前を横切った。


「危ないっ」


 律子は咄嗟に機体を旋回させ衝突を避けた。


「何をするのよ!」


 律子が怒りを口にした時、その理由が分かった。

 律子がそれまでいた空間に上空から機関銃の銃弾が降り注いだ。

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