第281話 飛行船の機動力
「皇国軍の航空機を撃墜しました」
「まずは一矢報いましたね」
報告を受けたエーペンシュタインは喜びの声を上げた。
カルタゴニアのブリッジ内にも久方ぶりの朗報を歓迎する雰囲気が流れる。
「何を言っている。我々の活動はこれからだ」
だがベルケは冷静だった。
「勿論、敵の哨戒機狩りは重要だが」
帝国の起死回生策である無制限潜水艦作戦。
初めは上手くいっていたが、忠弥達皇国空軍の空中機動部隊が上空哨戒を行うようになってから旗色が変わった。
上空から監視という航空機の最大の利点を使って、潜水艦を捜索。
撃破していった。
潜水艦のため海に潜れば良いが、潜ってしまったら行動力は激減するし、商船を撃沈する以前に発見することが出来ない。
潜水艦は索敵能力が低いため、商船と遭遇すること自体難しい。
商船の撃沈数が多かったのは船の多い港の近くや王国沿岸の航路に潜水艦がいたからにすぎない。
商船の航路から潜水艦が追い出されれば、戦果など挙がらない。
「事態打開のために我々が来たのだ」
航空機によって封殺された帝国軍はベルケに泣きついてきた。
ベルケは、承諾し潜水艦を攻撃する連合国飛行機を撃墜する事にした。
カルタゴニアを王国本土を迂回させて大洋へ進出させ、潜水艦狩りを行っている哨戒機を搭載機アルバトロスで撃墜する作戦を立案実行していた
「我々の目的は他にある」
だが、哨戒機狩りはベルケの立てた作戦の一つ、朝飯前の準備運動にすぎなかった。
「かねてからの予定通り、作戦を実行する。沖合へ針路を変更、索敵機を発艦させろ」
「了解」
カルタゴニアから新たな索敵機が発進していった。
「ベルケが空中空母でやってきたか」
相原が渋い顔で言った。
索敵機が帝国軍機、それも空中空母艦載機であるアルバトロス戦闘機を出していることが確認さた。
足の短い艦載機では王国本土を超えて帝国本土から飛んでくることなど不可能。
空中空母が出てきたとみて間違いなかった。
「また大陸でやった空中機動戦を海上でやる事になるね」
忠弥は静かに話した。
分かっていた、あるいは確信していたようで静かだった。
むしろ昴には忠弥がベルケが出てきたことを楽しんでいるように見えた。
「ベルケが出てきたのが嬉しいの?」
「そうだね。彼は凄く上手く飛行機を使っているから」
航空機を作りたい空を飛びたいと忠弥は常々思っている。
自分で作るのも好きだが、他の人が作った飛行機を見るのも好きだ。
自分がもたらした技術にどんなアレンジをするのか、予想外の使い方をしてくれるのか、見せて貰うのが好きだった。
その意味でベルケは忠弥が一番注目している相手だった。
むしろ感謝していると言って良い。
敵ではあるが、空を飛ぶ者として、航空技術を発展させている人間としてベルケには誰よりも好感を抱いていた。
「それで? どう対策をとるの?」
嫉妬心の混じった呆れを滲ませながら昴は尋ねた。
「このまま近くを捜索する?」
「いや、王国沿岸から離れる」
「ベルケの飛行船が襲来しているのに?」
「味方の潜水艦の転進を援護するためにやってきたためだ」
「敵の潜水艦が撤退、退却すると?」
相原は嘲るような響きが混ざった声で言う。
転進とは、オブラートに包んだ軍事的表現で撤退、退却を意味する。
忠弥は首を横に振った。
「違う。本当に転進するんだ。沿岸だと陸上基地の戦闘機も相手にする必要があるからね」
現在王国には沿岸哨戒用の飛行場が多数建設中だ。
完成すれば潜水艦を捜索できる。
忠弥達、飛天型空中空母を送り込んだのは飛行場が完成するまでの間のつなぎだ。
搭載機数が制限される上に性能も一歩劣る艦載機より、陸上の質量共に上の陸上飛行場からの攻撃を耐えきるなど、飛行船には無理だ。
「陸上基地から飛ぶ飛行機の航続距離外、飛行機が飛べない遠い海へ逃げるはずだ」
「どうしてでしょうか?」
尋ねてきたのは副官で、戦闘機パイロットでもある春日律子中尉だった。
士官学校を卒業して配属されたばかりだが、戦闘機の操縦が上手く頭の回転が速いため幕僚候補として近くに置いている。
「沿岸の方が船が多いので王国沿岸で攻撃を行った方が商船を撃沈できるのでは?」
理由が分からない律子は尋ねた。
素質はあるが、その分才能に頼っている。経験が少ないために作戦面での立案がまだ不得手で現状を認識できていない。
だが忠弥は怒ることなく静かに説明した。
「王国は遠くの植民地から船で資源を輸入している。潜水艦が沿岸近くで行動していたのは見つけやすいからだ」
「遠洋へ向かっても見つけにくいのでは?」
「その通り。だが、ベルケが飛行船とその艦載機を商船の捜索に使ったらどうなる?」
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