第240話 飛行船激突

「やはり夜間だと見つけにくいか」


 飛び出したベルケの正面に広がったのは、墨のような闇夜であった。

 敵機が出てきているはずだが、見つけられない。

 味方艦隊近くの上空を旋回していると、南側の大艦隊直上で味方の飛行船が照明弾を投下した。

 大艦隊の艦影が浮かび上がり、味方の外洋艦隊に所属する水雷戦隊が大艦隊へ突撃していく。


「馬鹿が! 照明弾を投下するのを止めろ!」


 ベルケは叫んだ。受信のみの無線機で発信できないのは分かっていたが叫ばずにはいられなかった。

 大損害を受けた外洋艦隊が大艦隊を相手に襲撃しても撃破出来ないだろう。

 襲撃のために艦隊が散らばり無事に帰投することが出来ない。

 味方主力を逃がす時間を稼ぐことが出来るが、外洋艦隊が、特に水雷戦隊に致命的な損害が生まれる可能性がある。

 そして、照明弾を投下した飛行船が危険だ。

 ベルケ達は連合軍の飛行船を撃墜したが、照明弾を投下していたからだ。

 連合軍が同じ事を帝国軍に出来ないわけがない。

 自らの安全の為にも照明弾は投下してはならない。

 だが、飛行船は照明弾をと投下し続けている。

 ベルケは、操縦桿を操り、機体を飛行船に向かわせる。

 そして、照明弾の余光に照らされる連合軍の戦闘機、疾鷹を見つけた。


「忠弥さん!」


 暗い上に遠くてパイロットの顔は見えない。

 だが飛行機の優美な動かし方、闇夜でも恐れず目標へ向かって一直線に向かっていく飛行からベルケは忠弥であると確信した。

 スロットルを押し、全速で向かっていく。

 しかし、急接近したのが拙かった。

 排気口から出た排気炎が夜空に浮き上がり、ベルケの存在を忠弥に知らせた。

 十分に接近してから発砲の瞬間、回避運動をした忠弥は簡単にベルケの攻撃を避けて向かう。


「くっ」


 避けられたベルケは機首を翻し再び接近する。

 忠弥の機体の下翼に搭載されたロケット弾がベルケの焦りをより強くする。

 旋回して再び射線に忠弥を入れようとするが、忠弥は巧みに避けて当てさせない。

 やがて飛行船に接近してきて真後ろから狙うと飛行船に当たってしまう恐れのある距離まで接近してしまった。


「これでどうです!」


 ベルケは忠弥の後方上空から狙いを付けた。

 だが、その時、飛行船から何かが落ちた。

 次の瞬間、それは強烈な光を放った。


「うわっ」


 飛行船から投下された照明弾の強烈な光を纏めに見たベルケは目が眩んでしまった。

 光の作る闇に受けは呑み込まれ視界を失う。

 その間に、忠弥は光に映った飛行船に狙いを定め、ロケット弾を放った。

 四本のロケット弾は飛行船に伸びて行き、製造不良で明後日の方向へ飛んで行ってしまった一発を除いた三発が命中した。

 三箇所はいずれも水素の詰まった気嚢であり、ロケット弾に詰め込まれていた焼夷弾により過熱され炎上した。

 飛行船は巨大な火球となり、それまでに投下した照明弾より遙かに大きな光源となって海に墜落した。




「敵飛行船撃墜!」


 飛天のブリッジでも敵の飛行船が撃墜された光景が目撃され歓喜に沸いた。


「浮かれるな!」


 しかし草鹿が叱咤して止める。


「油断すると敵の奇襲を受けるぞ! 敵もまた我々を狙っている。警戒を厳にせよ!」


 艦長の指示を受けて見張り員達は周囲を警戒した。


「司令が敵機と交戦中です!」

「援護の機体を出すんだ。射出後は空戦に巻き込まれないよう右に回避! 灯火管制を厳にしろ」


 援護の機体を出した後、攻撃を受けないように、忠弥達が戻ってくる飛天を温存するためにも離脱を命じた。

 そして敵から見えないように、灯りが外に漏れないように警戒するよう草鹿は命じた。




「L46墜落!」

「敵機が出ているのか!」


 カルタゴニアの中で見張員の報告を聞いたシュトラッサー中佐は狼狽した。

 夜間の艦載機による攻撃はない――着艦が難しく、空中空母への合流が不可能に近いためだ。

 帝国側は陸上基地へ下りることが出来るが、連中には無理だ。

 出てきた機も少数だと高をくくっていた。

 だから照明弾を投下して外洋艦隊の援護を命令したが、飛行船は攻撃を受け撃墜されてしまった。


「ベルケ隊長と敵機が交戦中!」


 右舷側の見張り員が報告するとシュトラッサー中佐は血の気が引いた。

 自分たちも攻撃されると考えたからだ


「援護の機体を射出。その後左方向へ退避せよ!」


 戦闘機を射出すると右側にある空戦空域を避けるように左へ逃れた。


「見張り、周囲を警戒しろ。敵は居ないか」


 見張りは目をこらして周囲を確認する。

 動くものはなかった。しかし、夜空の中に星が消えている空間があった。

 見張りはその正体に気がついて叫んだ。


「正面に飛行物体!」

「敵機か!」

「違います! 飛行船です!」


 闇夜の中から飛行船が飛天が現れたのだ。

 北から南へ向かっている途中で右に舵を切った飛天

 南から北へ向かっている途中で左に舵を切ったカルタゴニア

 互いに同じ空戦域から逃れようと舵を切ったため、針路が重なってしまった。


「回避せよ!」

「無理です! 回避不能!」


 操舵手が叫んだ直後、激しい振動がカルタゴニアを襲った。

 飛天とカルタゴニア、ほぼ同じ大きさの飛行船が衝突したのだ。


「敵飛行船と接触!」

「離れろ!」

「無理です、骨材が絡まっているのか、離脱できません!」


 がっちりと船首情報が敵飛行船の船首下方へ食い込んでおり、離れる事gあ出来なかった。

 離れる事が出来ないと分かったシュトラッサー中佐は命じた。


「アポルタージュ!」

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