第117話 聖夜祭休戦6

「さて、何から話そうか」


 ベルケと対面した忠弥は話そうとしたが、いざ話そうとなると何を話したら良いのか分からなかった。


「……航空隊の状況はどうだ?」

「……やはり航空機の能力不足が気になりますね。エンジンが貧弱ですし、機体もなかなか良いものがありません」

「全くだ。開発を進めているが、なかなか物にならない。機体もエンジンも」

「支援態勢や生産体制も思うように進みません」

「こちらも似たようなものだ。生産体制を整えているが、足りない」

「忠弥さんでもですか?」

「ああ、だが、今後のことを考えると整備しておく必要がある。増強を頼んでいるよ」

「ちょ、忠弥さん」


 軍事機密に関わる内容を話し始めた忠弥をサイクスが止めた。


「そんな事を話すなんて、機密漏洩罪で下手をすれば軍法会議ですよ」

「隊長! 話しすぎです!」


 ベルケの後を追いかけてきた帝国軍士官も言う。


「君は?」


 忠弥が尋ねるとその青年は敬礼して答えた。


「はい帝国軍航空隊所属! ヘルマン・フォン・エーペンシュタイン中尉であります!」


 金髪に青い瞳の彫りの深い青年将校は完璧な敬礼を決めて答えた。


「彼は我が帝国航空隊いや、航空の世界になくてはならない人材です」

「ほう、それほどか」

「ええ、歩兵連隊から飛び出してきて偵察員を務めていますが、パイロットとしても優秀です。現在パイロットへの転換訓練を行っており、いずれ空を飛びますが、人望もあり航空界を支える逸材となるでしょう」

「それは楽しみだ」


 ベルケの紹介に忠弥が賞賛をの声を上げるとエーペンシュタインは顔を赤らめた。

 戦闘機の神様に言われて嬉しいのだろう。


「隊長、我々は戦争をしているのですよ」

「ああ、だが、戦争はいずれ終わる。その時は他国と共に飛行機の開発を行う事になるだろう」

「ああ、あの素晴らしき日々の再来だ」

「また、飛行機の開発を行いたいですね」


 戦争前の日々を思い出して忠弥とベルケは呟く。

 その時上空を航空機が通過した。


「なんだあれは」


 忠弥とベルケは上空に顔を上げた。

 フラフラと酔っ払ったようにふらつく飛行機が上空を旋回していた。

 着陸しようと滑走路に進入するが姿勢が安定せず上昇し再度アプローチする。

 そんな事を何度も繰り返していた。


「何をやっているんだ」


 あんなに下手なパイロットはいない。少なくとも、後方で着陸のやり方はみっちり仕込んでから、ここに来るよう教育体制を整えている。

 あんなにふらつくのはおかしい

 何度も失敗したがやがて飛行機は大分傾きながらも滑走路への着陸を成し遂げた。

 下手な着陸を行ったパイロットは誰かと降りるのを待っていたが、降りてこない。

 仕方なく忠弥は降りてきた飛行機に駆け寄った。

 座っていたのはテストだった。


「テスト! 何をやっているんだ」

「うぃいい……」


 赤い顔をして息を吐き、呂律の怪しい声で話し始めた。


「酒を飲んで……着陸できるか試していました……」

「あほか! 飲酒して飛行機に乗るな!」

「いや、昴嬢が出来たんで俺たちも出来るんじゃないかという話になって。試してみようと」

「馬鹿をやるな!」


 忠弥朝県でテストを叱責した。


「全く、少しは真面目になったかと思えば、とんでもないことをする」

「ええ、変わりませんな。しかし」

「ああ、航空都市のようだった」


忠弥とベルケは苦笑しつつ、笑顔を交わしtあ。

 しかし、エーペンシュタインは二人を見つつ複雑な思いで言う。


「……ですが我々は戦争中です。今は」

「その通りだ。だから、なんとしても戦争を終わらせないとな」

「戦争が終わると忠弥は嬉しいのか?」


 隣にいた碧子が尋ねる。


「軍用の特需で航空産業が発展すると喜んでおったが?」

「まあ、航空機の生産体制や研究体制が戦時と言うことで大量生産体制が取られるのは良いことです。人材も資材も豊富に供給され航空機普及するのは嬉しいです。ですが、やはり戦争に航空機が使われるのは止めたいですね」

「そうか」


 頷いた碧子は、ベルケに向き直って尋ねた。


「のお、ベルケとやら。なんとか戦争を終わらせる方法はないか? 話し合いは出来ないか? お主の上官当たりに話を聞き講和に動いてくれる者はおらんか?」

「……残念ですが先日の反撃で帝国航空隊は大損害を受けまして、その損害を出した責任を負わなければならない立場で発言権と信頼がないのです」


 帝国軍から制空権を奪取するために作戦を敢行したが、ベルケの立場を悪い方向へ向けてしまった。

 あのままでは忠弥達が負けてしまったであろうとはいえ、和平の道筋がなくなったのは痛い。


「そうか……」


 講和の道筋がないと聞いた碧子はションボリと力なく頭を下げた。

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