第106話 ベルケの油断

 帝国軍の飛行場は喧噪の中に包まれていた。

 エンジン音が響き続き、航空機はひっきりなしに離着陸を繰り返す。

 着陸してもすぐに整備士が駆け寄り、機体を点検し、弾薬を補充、燃料を給油する。

 全てが終わると、再びエンジン出力を上げて離陸し空へ向かう。

 飛び立った機体は、戦場へ向かい連合軍の戦闘機――最近、強風と名付けられた戦闘機を相手に死闘を繰り広げる。

 幾分か数で帝国が優勢とは言え、戦闘機の性能は強風の方が上であり、油断できない。

 それでも帝国軍のパイロット達は何度も飛び立ち、勇敢に戦う。

 何度も出撃する羽目になっているが、その分経験も多くなり技量も向上している。

 しかし、一日に何度も出撃する過酷さ故に、耐えられるパイロットは少なかった。

 新人だと出撃してすぐに撃墜されたり、極度の疲労で飛行不能になり戦線離脱する事が多かった。

 整備員の方も同じで、降り立つ機体がある度に駆け寄り、整備するため休む暇が無かった。

 それでも彼らは文句を言わずに職務を遂行していた。


「もう一度出撃するぞ! 燃料弾薬の補給を急げ!」


 着陸したベルケは駆けつけた整備員に命令する。

 朝から既に二回出撃しているが、更に出撃する。

 機数の少ない帝国軍航空隊は前線近くに飛行場を作り、一日に何度も出撃することで戦場上空にいる機数を確保している。

 数が圧倒的に不足している帝国航空隊は何度も出撃して戦果を上げる以外に方法が無かった。

 だから極度の疲労状態でもベルケは出撃を命じざるをえなかった。

 しかし、一人後方で指揮を執る気にはなれず、自らも戦闘機を駆って出撃している。

 何度も落とされているが、そのたびに立ち上がり飛び立つ英雄であり、不屈の空の騎士と誰もが思っていた。

 そのベルケが、飛び立つのであれば自分も職務を遂行しようと文句を言わず、航空隊の全員がその職務を全うしようとしていた。

 着陸してもベルケに休む暇はなかった。

 指揮所に飛び込み、机の上に置いてあるメモや報告書に目を通す。

 整備の間に指揮下の部隊の報告を受けて命令を下さなければならない。


「爆撃隊、敵飛行場への攻撃を続けろ!」


 連合軍航空部隊が出撃出来ないように爆撃隊は継続的に敵飛行場を空爆するように命令している。

 幾ら航空機が多くても飛べないなら戦力ではない。

 近くの飛行場を破壊するだけでも、遠くの飛行場から来る手間を増やし、戦場上空での滞空時間を減らす効果がある。

 だから継続的に爆撃を実施させていた。

 そのための爆撃機も連合軍の明星あるいはヴィーナスという爆撃機を撃墜して解析し、製造した機体を利用しR1型と命名して使用している。

 大型爆弾を搭載し、滑走路や駐機場に穴を開けて使用不能にするのに役に立っていた。

 だが、穴は工兵隊が埋め戻せばすぐに使用可能になる。

 継続的に爆撃して復旧工事を妨害し、新たな穴を作って妨害する必要があった。


「他の航空隊の様子はどうだ?」

「はい、現在までの集計によると戦果は上がっています」


 撃墜機数の集計を持ってきた部下の書類を読んで撃墜数の上昇にベルケは顔をほころばせる。

 大本営に直訴し前線に航空隊を集結させた甲斐があって、戦果は上がっている。

 各地の軍司令官から反感を買ってしまったが、この成果を見せれば黙り込むはずだ。

 やはり航空機は集中投入した方が良い、とベルケは確信した。


「いいぞ。このまま攻撃を続けるんだ。これで要塞を落とせれば大勢は変わる」


 陸軍は攻略と周辺警戒、救援阻止に一〇〇万以上の兵員と一〇〇〇門以上の大砲を投入し要塞攻撃を行っている。ここで制空権を確保して要塞を上空から丸裸にし、敵の後方を航空攻撃で寸断出来れば要塞は陥落する。


「皆、苦労していると思うが、敵基地への攻撃を続けろ。要塞への攻撃が出来るようになれば我々の勝ちだ」


 ベルケが部下を激励しているとき、伝令がやって来た。


「司令、前線より報告で急速に天候が悪化しています」

「何だと。酷いのか」

「はい、急速に雲が発達しており、降雨も確認しています。前線の航空機は引き返すか、前線の飛行場に着陸しました。この辺りも間もなく雨が降るでしょう」

「くっ」


 ベルケは苦虫を噛みつぶした様な表情を浮かべた。

 雨が降れば視界はなくなり飛行は困難になる。しかも配備されている航空機の翼は布で出来ており、布は雨を吸って機体は重くなり墜落の危険もある。


「攻撃中止だ。後方へ下がれ」


 ベルケは命じた。

 雨で作戦行動は困難だし墜落する恐れも高まる。

 貴重な航空機を戦闘以外で失うのは避けたかった。

 全てを投入し、あと少しの所で無情の雨に阻まれた。

 本当は攻撃したいが雨では仕方ない。雨の間、部下の疲労を回復させ、次の攻撃を準備させるしかない。


「だが、それは敵も同じだ」


 降雨では敵もやって来れない。

 天候は双方に等しく作用する。雨の中、飛行する能力を忠弥は持っていない。

 どんな天候でも飛べる飛行機を開発しているところだが、まだ実用化されていない。

 実戦など不可能だ。

 雨の中飛び立てても、視界不良で墜落するのがオチだ。

 雨が止んだら、すぐに出撃して連合軍が動く前に叩けば良いとベルケは考えた。


「全員、今の内に休んでおけ。雨が上がった出撃だ」


 ベルケの言葉に全員が安堵した。

 連日の度重なる飛行で疲労が蓄積しており、休養を欲していた。

 ベルケも例外ではなく、最早眠ること以外、何も考えられなかった。

 そのため、ベルケは一つ見逃していた点があった。

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