第105話 三直制
「後方飛行場は? 襲撃を受けているか?」
「敵の空襲はありません」
通信員の返答を聞いた忠弥はホッとした。
空軍創設から、組織作りとドクトリン――どのように戦うかの指針を忠弥は策定していた。
その一つが飛行場の整備と分類による役割分担だった。
陸軍の最前線から飛行場を近い順に前線飛行場、前方飛行場、後方飛行場の三種類に分類した。
前線飛行場――最前線に近く、離着陸できる飛行場。弾薬補充と燃料補給、応急修理が出来る程度。万が一の不時着地として使う。
地面を整地しただけという場所が多い。
前方飛行場――最前線から三〇分程度の離れた場所にある飛行場で、作戦部隊の本拠地。通常はここから出撃していき寝泊まりする。整備、修理が可能。
ある程度整地され一部はアスファルトかコンクリートで舗装されている。
後方飛行場――敵の航空機が襲撃出来ない位置にあり、大規模修理、オーバーホールを行える機能を持つ。飛行隊の補充、休養、訓練に使う。
アスファルトもしくはコンクリートで舗装され、恒久基地に近い施設を持つ。
最前線に近い場所から離れるごとに規模を大きくして、航空部隊を支援できるようにしていた。
各飛行隊、あるいは飛行中隊はこれらの飛行場を行き来して作戦を行う。
最初に部隊が編成されると後方飛行場で訓練を施し、十分な技量に達すると前方飛行場へ進出。
作戦行動は前方飛行場で行い、夜明けと共に最前線へ飛んで行き敵と交戦。
燃料不足や不慮の事故、故障、被弾などで着陸する必要があるなら近隣の前方飛行場もしくは前線飛行場へ着陸。
補給や修理を終えると再び戦場へ飛び立つか、前方飛行場へ帰る。
全線での作戦行動で一定の期間、数日が過ぎたり、消耗が激しい場合は後方飛行場へ移動。後方飛行場で休養と補充を受けて部隊を再編成し、再び訓練して技量が高まったら、前方飛行場へ行き戦闘に再参加する。
これらを一連のサイクルとしてくる返すシステムを忠弥は作り出した。
元々は旧日本帝国陸軍航空隊の方式でありまねをするのは簡単だった。
日本陸軍航空隊と聞いて意外、より率直に言えば真似して戦えるのか疑問に思えるだろうが、帝国陸軍航空隊はこの方法をノモンハンなどで有効に活用していた。
負けたのは、ノモンハンを紛争で収めようと現地部隊に飛行禁止空域を設定するなどの縛りを設けたり、戦争への発展を恐れて補充が不十分だったからだ。
また、ニューギニアでは補給体制が整っておらず支援が不十分だったこと。
太平洋戦争では、戦場が広すぎて機数が足りなかったし、米国の投入機数が圧倒的だったことも関係している。
だが航空隊のシステム自体は有効だったので忠弥は取り入れた。
そして、皇国の航空産業によって送り出されてくる機材と補給によってこのシステムは十分に機能しており、比較的少ない損害で作戦を進めていた。
「しかし、このシステムですと遊兵が出来ていませんか?」
相原少佐は、忠弥に尋ねた。
このシステムの弱点としては、前方に展開する飛行機の最低でも倍は飛行機を保有しなければならない点だ。
もし、前線に一〇〇機の航空機部隊が必要なら、最低でも後方の飛行場に一〇〇機の航空機を揃えないといけない。
前線の部隊が消耗したとき代わりの部隊が無い状況を作らないためだ。
しかも補充、訓練を受ける期間が前線で戦う部隊の損耗――具体的には一割、最悪でも三割が失われるまでの期間より長いと、更に予備の部隊が必要になる。
そして前方と後方、時には攻撃を受ける恐れのある前線飛行場にも地上要員を配置しなければならない。そのため地上要員の数が多くなることだ。
地上の人員は機体を整備したり誘導する直接的な人員だけで一機につき最低一〇人必要、給食や基地の管理、防衛など行う支援要員がその倍の二〇人は必要とされる。三箇所に必要なら最低でも一機につき六〇人。他にも空軍全体の指揮、管理や物品調達、新兵の訓練、飛行場作りなどの人員が必要なので更に人員が必要になる。
因みに航空自衛隊の二〇一九年の装備機数は九四九機、人員は約四万二〇〇〇人で一機当たり四四人。
アメリカ空軍は約一万機、現役人員三三万人で一機当たり三三人。
平時で前線に人員を送り込む必要が無いので少なくて済んでいるが、戦時になると膨大な人員が必要になる。
「だからといって全機前線に張り付ける訳にはいかないだろう」
現在は指揮下にある航空機の内、三分の一を前線に送り作戦行動を取らせている。
残り三分の一は休養と再編成、残り三分の一が訓練だ。
言葉にすれば三直制、船の乗組員が三つのグループに分かれて交代で操舵と休憩を取るのに似ている。
前線で互角、あるいは損害が少ない状態で制空権を維持するためにもこの態勢は維持しなければならない。
「ですが現状はほぼ互角か、帝国の方が優勢です」
「ああ、勝負に出たんだろうね」
だが帝国、いや、ベルケは勝負に出ている。自分の保有する航空機を全て押しだし、忠弥達統合空軍の前線兵力を一時的でも圧倒し、前線の飛行場を叩いて制空権を確保しようとしている。
「このままでは制空権を取られ、帝国軍が勝ってしまうのでは? 後方に下がっている航空機も前線に投入しては?」
「いや、後方の部隊はまだ訓練中だし、この後の作戦に必要だ」
「しかし、敵は全てを投入しており、我々は劣勢です」
「だとしたら好機だ。勝負に出る時期に来ている」
「では」
忠弥の言葉に相原は期待を膨らませて尋ねた。
「ああ、全力で潰しに掛かる。そのためにも時期を見誤るわけにはいかない」
「本国より通信が入りました」
その時忠弥の元に伝令がやって来た。
電文を受け取って読むと忠弥はニヤッと笑った。
「諸君! 好機到来だ! 出撃準備を整えろ。数日後、全力で出撃する。後方に居る機体もだ。全機出撃させる」
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