第296話 無くならぬ被害

「まだ被害が減らないな」


 王国にある皇国空軍の作戦司令部で忠弥は頭を悩ませていた。


「潜水艦による商船被害は多くなっています」


 忠弥達皇国空軍の活躍により飛行船による誘導は無くなった。

 だが、帝国が放った潜水艦の数は多く、潜水艦が直接船団に接触する事が多くなった。

 潜水艦側も警戒を強めているようで、飛行船を見つけるとすぐに潜航して隠れている。

洋上を長時間飛ぶには船体の大きな飛行船でなければ無理であり、潜水艦から容易に発見されてしまう。

 この時点での潜水艦の技術レベルは可潜艦、潜ることも出来る船というレベルであり、浮上して航行するのが通常。

 逃げるときか、隠れるときだけ潜航。他は全て浮上しなければならない。

 潜航すると極端に速力も航続距離も低下するため、船団を襲撃するには直前まで浮上航行する必要があるのだ。

 潜水艦に潜航を強要する時点で航空機、飛行船の哨戒は十分に戦果を挙げている。

 しかし、運悪く潜水艦が潜航して待ち伏せしている海域に踏み込んでしまい、船団の外から雷撃を受ける。最悪の場合、内部への侵入され、多くの商船が沈められた。


「さらに哨戒の飛行船や航空機を増やしたら」

「無意味です。性能が低すぎますし、数が足りません」


 昴が尋ねてきたが、相原は否定した。

 飛行船は確かに滞空による索敵効果は大きいが、目視で見える範囲でしか敵を見つけることが出来ない。

 船よりも高い位置から広範囲を見る事は出来るが、その範囲も広大な海の前には、点でしかない。

 そもそも大型の飛行船は数が少ないし、建造にも時間とコスト、何より人員が足りない。

 創設されたばかりの空軍には人員が少ない。採用しても、乗員が限られる飛行船の乗組員はいくつもの技能を習得する必要があり育成に時間が掛かる。

 そのため、飛行船の数を増やすことは難しい。

 飛行機を搭載する空中空母など飛行機の運用、整備が加わるため余計に人員育成のコストが掛かる。

 結果、数少ない飛行船は船団の針路前方を警戒する程度に限られることになる。


「大型飛行艇を使っているんでしょう」

「確かに使っているよ。でも思ったほど活躍できていない」


 戦争前から開発を進めていた大型飛行艇。

 洋上への不時着が可能なため、大洋間飛行に最適として旅客機として作っていたが戦争になったため洋上哨戒用として改造して投入した。

 しかし、実際に使ってみると海が荒れていて着水が難しくどうこうできる範囲は狭い。

 船団の護衛や潜水艦狩りに使っているが、思ったほど成果を挙げられていない。


「どうしようもないわけ?」


 苛立ち気味に昴は言う。

 帝国潜水艦船団への攻撃が激しく、王国へたどり着ける船の数が減ってきていた。

 そのため王国は食糧不足となり、配給制になっている。

 量も少なめで朝食のトーストの枚数が三枚から二枚になった。

 それでも削減努力が不十分だとして、このままだと一枚に減らされそうだ。

 影響は大きい。

 空戦が戦局に影響する上、非常にエネルギーを消耗するパイロットへ優先的に食料が供給されているにもかかわらず、昴が空腹で苛立っているのだ。

 他がどうなっているか考えるまでもない。


「いや、元から絶つ」

「元から?」


 忠弥の言葉に昴は疑問を浮かべ、尋ね返した。


「潜水艦は常に洋上に居るわけじゃない。出撃する港があり、帰って整備する港がある。その港を航空機で攻撃して、破壊する」

「飛行船基地と同じね」


 かつて忠弥と一緒に攻撃した飛行船基地の事を思い出した昴が弾んだ声で言う。


「けど、潜水艦の基地が何処か分かるの?」

「それなら大丈夫だ。サイクス中佐」


 忠弥が呼ばれて入ってきた、サイクスは書類を机に並べた。


「これは?」

「捕獲した潜水艦から押収した航海日誌の抄訳です」

「潜水艦なんて捕まえていたんだ」

「哨戒飛行で潜水艦を見つけやすくなり撃沈数も増えましたから。その中には捕獲した潜水艦もありました」


 王国近海を航行中の帝国潜水艦を航空機が発見。

 潜水艦は潜航したが、通報を受けて駆けつけてきた駆逐艦に一昼夜頭上に居座られ、堪らず浮上。逃げようとしたが、駆逐艦に追跡され戦意を喪失し、そのまま降伏した。

 長時間の追撃で憔悴しきっていた潜水艦の乗組員は自沈処置も行わず、投降したため無傷で捕獲することに成功。

 そのまま王国海軍の基地に潜水艦は運ばれ、船体を徹底的に解析。

 航海日誌などの重要書類も押収し、帝国潜水艦の性能を丸裸にして彼らの行動を解明する大きな一助となった。


「捕獲した艦内から装備と物品を押収。その中に母港の位置もありました」

「本土の母港じゃないの?」

「王国本土に近い、占領地の港ブルッヘに潜水艦基地を建設していました」


 サイクスは、海図を出して説明を始めた。 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る