第149話 飛行船基地へ攻撃

「忠弥が引きつけている間に私たちは飛行船基地に向かうわよ!」


 忠弥がベルケを引きつけている間に昴とサイクスは、飛行船基地に向かった。

 下駄履き――巨大なフロートを付け、爆弾を搭載した昴達の機体では、ベルケ相手に空中戦など無理だ。

 ならば忠弥が相手をしている間に、昴達が飛行船基地を攻撃し破壊すればよい。


「陸地が見えてきた」


 低空で海上を飛行していると前方に建物が、飛行船を収用する格納庫が見えてきた。

 山のない平地、水平線のように平らな地面で何処が海岸か分からない。

 そこから突き出て目立つほど格納庫は巨大で、格好の目印となった。


「予定通り襲撃する!」


 昴はサイクスと共に予定通り、爆撃針路に乗る。


「いいわ、飛行船が帰投して格納庫へ収めようとしている」


 昨夜爆撃から帰ってきたばかりなのだろう、格納庫へ船体を半分以上入れている。

 この状態で爆撃すれば大炎上は間違いなかった。

 昴は目標を格納庫に定め、機体を向けた。


「左後方上空より敵機!」


 その時、後席が大声で叫んだ。

 一瞬後ろを見ると、確かに三機の機体が見える。


「空中哨戒機!」


 情報によれば飛行船基地は襲撃に対して殆ど警戒していなかったはずだ。

 だが、ベルケは、忠弥の襲撃を予測し上空に空中哨戒の機体を上げていた。

 もし、襲撃があればすぐに迎撃できるよう戦闘機を上げていた。


「迎撃します!」

「頼みます!」


 後席の要員が機銃を準備しながら言い、昴は対応を任せた。

 爆弾を落とせば逃げられるかもしれないが、飛行船を破壊できず、本土への爆撃が続いてしまう。

 ジョンのような子を増やさないためにもなんとしても爆弾を落とし飛行船を破壊していきたかった。




「見つけたぞ。隊長の言ったとおりだ」


 空中哨戒部隊の隊長をしていたエーペンシュタインは、喜びの声を上げた。

 次の作戦のためとはいえ前線から離れ、戦闘から遠ざかっていた。

 ベルケ隊長から襲撃に備えて戦闘準備して離陸を命じられた時は、まさかと思ったが、久方ぶりの戦闘飛行に心を躍らせた。

 敵機が来なくても良いと思っていたが、敵がやってきてくれた。


「撃墜する!」


 獲物を見つけたオオカミのようにエーペンシュタインは上空から昴達に襲いかかった。

 だが、二機の水上機は高度を下げて殆ど海面近くまでさがる。


「くそ、上手いな」


 戦闘機は敵機上空から攻撃するのが最も効率が良い。

 上からだと翼や胴体、エンジンが大きく見えるので狙いやすい。

 真後ろからだと、同じ高度、速度で飛んでいるため、襲いやすく一見狙いやすく見える。だが実際には、飛行機は空気抵抗を少なくするため、細く作られており、見えにくく意外と弾が当たりづらい。

 だから上空から狙うのだが、降下しながら攻撃するため、攻撃後は機体の引き起こしを行うためある程度、敵機の下に空間的余裕が無ければならない。

 昴達の機体は水上機である事を利用し、海に触れても構わないほど低空を飛んでいる。

 これでは上空から狙いにくい。

 引き起こしが遅れれば海面に激突。離脱を考えて撃つと遠くからの攻撃になり、当たりにくい。

 僚機は血気にはやって、銃撃を浴びせているが、遠すぎて当たらない。

 仕方なく、エーペンシュタインは敵機と同高度まで落とす。

 僚機は、敵機の前方に銃撃を浴びせ、少しでも針路を妨害しようとする。

 お陰で余裕を持って敵機と同じ高度まで下がることが出来た。

 昴の機体は左右に振って照準から逃れようとするが、海面すれすれのため、下手に機体を動かすと、翼が海に接触し墜落してしまう。

 後部座席の銃撃が加わるが、機体を滑らせて射線を躱し、当てさせない。それでいて徐々に距離を詰めていき、照準器に昴の機体を収めた。


「貰った」


 エーペンシュタインが引き金に手を掛けた瞬間、爆発が起こった。

 上空にいた僚機が突然爆発したのだ。


「なっ」


 驚いていると、上空を車輪もフロートのない複座機が飛んでいた。


「あれは二宮忠弥!」


 パイロット席の人物を見たエーペンシュタインは叫ぶ。


「なぜ、今になって」




「間に合ったな」


 一機撃墜した忠弥は自分の判断が正しかったことに安堵した。

 ベルケと空戦をしていた忠弥だが、突然ベルケが進路を変えて飛び去っていった。

 何か罠だと思ったが、元は地上攻撃機のため速力は出ないし追いつけない。

 仕方なく、昴達を追いかけることにした。

 昴達のピンチを救ったことは良かった。

 進路を妨害していた敵機を見つけ、撃墜できた。

 昴を狙っていたエーペンシュタインは、機首を翻し忠弥に向かっていく。

 進路を妨害していた敵機もやってきて忠弥を囲もうとする。

 しかし、忠弥は、旋回と上昇を巧みに繰り返し、避け続ける。

 接近しても小刻みに揺らし狙わせない。

 そうしている内に忠弥の機体は高度が下がって海面に触れそうになり上昇した。速度が遅くなり撃墜のチャンスと思えば、失速反転して逃れた上に、反撃してくる。

 ムキになって近づけば、反撃を食らう。

 変幻自在でなかなか撃墜できず、エーペンシュタインは焦りを感じていた。

 撃墜しようと執拗に忠弥を追いかける。


「上手くいったな」


 それこそ忠弥の狙いだった。


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