第150話 再攻撃

「突っ込むわよ!」


 エーペンシュタイン達が忠弥の撃墜にかかりきりになっている間に昴はサイクスと共に飛行場へ侵入した。

 敷地内に入ると機体を上昇させ高度を取って目標を確認格納庫へ狙いを定めると突撃する。


「てっ」


 後席に合図し、爆弾を投下。

 切り離された爆弾は斜めに突進し格納庫のトタン屋根を突き抜け、飛行船の皮膜を易々と突破。

 内部のアルミ製の骨組みに命中し爆発した。

 銃弾やロケット弾とは比べものにならない爆発が起きて、飛行船は大炎上を起こした。

 サイクスも爆撃に成功し二つの格納庫は炎上した。

 しかも内陸から風が吹いており、炎上した飛行船の皮膜が火を点けたまま破片となって飛び、爆撃から帰ってきたばかりでエプロン――駐機場で待機していた飛行船に類焼した。

 炎上は激しく、とても鎮火できそうに無かった。


「作戦成功!」


 自らの爆撃を成功させた昴は喜びの声を上げた。

 一方エーペンシュタインは爆撃を阻止できなかったことに呆然とした。

 それが油断となった。

 忠弥が動きを止めたエーペンシュタインへ反撃を行った。

 残った僚機が撃墜され、我に返る。

 慌てて、反撃するが、爆撃を終え駆けつけてきた昴達も参戦してくる。

 フロート付きの水上機だが、爆弾を落として身軽になっていた。

 後席に機銃もあり、後ろに付こうとすると銃撃される。

 しかも操縦の天才である忠弥がいる。

 身軽な忠弥が、エーペンシュタインを昴達の方へ追い詰め後部座席から銃撃を浴びせる。

 忠弥を追いかけようと後ろを取ろうとしたら、忠弥は昴達の方へ逃げ込み、エーペンシュタインに弾幕を浴びせる。

 こうした連係プレーでエーペンシュタインを翻弄した。

 油断できない時間が連続し、ついにエルロン――主翼の先端に付く左右の傾きを制御する補助翼が吹き飛ばされる。

 エーペンシュタインの機体は安定を失った上に、破口が空気抵抗となり、速力が落ちた。

 迎撃出来なくなったエーペンシュタインは引き返していく。

 追撃の手を払いのけた忠弥達は、若宮に向かって速力を上げていった。




 若宮に着くと昴達は次々と着水し若宮に寄せる。

 忠弥もフロートがないため胴体着水を敢行し、無事に降りた。

 若宮からカッターが出され救助される。


「忠弥! やったわね!」


 作戦成功に昴は喜ぶが、忠弥は渋い顔をしていた。


「エンジンの整備工場は仕留めた?」

「え、それは忠弥の……」


 そこまで言って昴は気が付いた。最重要目標であるエンジンの整備工場は忠弥の担当だった。

 だが、昴達を守るためにフロートを切り離し、発艦するとすぐに爆弾を投下したため、忠弥は攻撃できていない。


「ゴメン、自分の目標に精一杯で」

「いや、昴達は目標を爆撃してくれたんだ」


 分担を決めていたし、自分の役目を果たすように手はずを整えていた。昴達はそれを見事に達成してくれた。


「僕が果たさなかっただけだ」

「でも私たちを助けるために」

「いや、自分で決定した作戦を自分で破った僕が悪いよ」


 忠弥は昴に言い聞かせた。


「再出撃する。準備を頼む」

「攻撃したらすぐに離脱でしょう」

「ああ、だから若宮はすぐに離脱するように。僕だけで行くよ」

「そんな、危険よ」

「飛行船が爆撃を行ったら多くの人が危険にさらされるよ」

「でも」

「飛行船が来れないようにすれば、迎撃で無茶をする事も無くなる」

「……ずるいことを言うわね」


 昴は忠弥を睨み付けた。


「行くなら私を連れて行きなさい」

「ダメだ。若宮と一緒に退避するんだ」


 忠弥と昴の口論は白熱したが、時間を浪費した。


「敵機接近!」


 突然見張りが大声で叫んだ。

 海面すれすれの超低空を飛んで、一機の戦闘機が来襲した。


「ベルケ!」


 パイロット隻に座ったベルケの姿を忠弥は認めた。ベルケは一直線に接近すると、カタパルトを狙って銃撃を加えた。


「畜生! 発艦不能だ」


 銃撃を受けたカタパルトは点検しないと使用できない。

 発艦の手立てを奪われたも同然だ。

 だがベルケは攻撃の手を緩めず、引き返してくると今度はクレーンを狙って銃撃した。

 巻上装置が打ち抜かれたのかアームが音を立てて崩れ落ち収容した水上機一機の上に倒れ込む。


「迎撃せよ! 対空砲火! どうした!」


 艦長が命じてようやく若宮に取り付けられた機銃が火を噴く。

 飛行機に襲撃された船など殆ど無く、乗員も対応になれていない。

 忠弥の提案で機関銃や対空砲が取り付けられていたが、運用、飛行機を狙ったり、目標の指示が不十分で効果的に出来なかった。

 何とか対応できるようになった時には、ベルケは射程外に逃れていた。


「やられたね」


 水上機による技術的な奇襲攻撃を加えたつもりだったが、相手の反撃を考えていなかった。

 しかも相手があのベルケであり、悪かった。

 ベルケは的確に水上機母艦の長所と特徴である水上機運用能力――カタパルトと収容用のクレーンが根幹であり、ここを破壊されたら機能喪失の最大のダメージになると見抜き、攻撃してきた。


「このまま離脱するしか無いか。艦長! 早く離脱するんだ!」

「諦めるの?」

「相手はベルケだ。絶対に何かある」


 忠弥も飛行船基地への攻撃を続行したい。

 しかし、ベルケの動きが気になり、嫌な予感しかしない。

 あの、ベルケが、闘争心が強いベルケが、先ほどの空戦ではやけにあっさりと引き返していった事が気になっていた。

 何か仕掛けてくると忠弥は考えていた。

 だから空に目をこらしていたが、予想外の場所からやってきた。


「敵水雷艇接近!」


 マストの見張りが大声で叫んだ。


「そっちか!」


 水雷艇の出現でベルケの狙いが分かった。

 ベルケが先ほど逃げていったのは忠弥から逃げたのではなく、味方に知らせるためだった。

 周囲を哨戒中の水雷艇を呼び寄せ水上機母艦若宮を撃沈させるためだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る