第140話 パレードと叙勲式典
「来たぞ! 皇国のパイロット達だ!」
王都の大通りへ入ってくる行列を見て、沿道に集まった群衆は手に持った皇国と王国の国旗を振り声を上げて歓迎した。
大通りの歩道は人で埋め尽くされ、道沿いの建物の窓という窓から人々が溢れるがごとく、顔どころか体を出して異国から来た空の英雄を一目見ようと、のぞき込んでいる。
その群衆の真ん中を、忠弥達の行列は大通りの中央を進む。
先を行くのは先導する騎兵隊。
ピカピカに磨き上げられた兜を被り、金の飾緒をぶら下げ、きらびやかな赤い騎兵服に身を包んみ、毛並みの立派な馬に乗った近衛騎兵十数騎だ。
数騎は王国と皇国の旗を、そして制定されたばかりの青地に金の翼をあしらった皇国空軍旗が翻る。
その後ろには四頭の馬に牽かれたオープンタイプの馬車が数台続き、叙勲者である忠弥や昴達が乗っている。
「まさか、パレードに担ぎ出されるとは」
いきなりの予定変更、パレードにかり出された忠弥は馬車の上で驚いた。
そして大勢の見知らぬ人達から声援を受けるのに戸惑った。
「ありがとう!」
「助かった!」
「格好いい!」
「凄いぞ!」
「若い英雄達だ!」
人類初の有人動力飛行を成功させた時も、大洋横断飛行を成功させた時もパレードに出ていたが、その時とは違う熱気に戸惑った。
「何かおかしいかのう」
側にいた碧子が忠弥の戸惑いを悟って小声で尋ねた。
「なんというか、人々が僕たちを祝福するだけで無く、自分の不安をぶつけているようで、変な気分です」
「当たっているぞ。皆不安なのじゃ、長引く戦争にの」
「それがどうして、このような事に」
「戦意高揚の為じゃ、それに戦争が始まってから娯楽も少ないからのう。当局も息抜きを与えねばのう」
大陸に大軍を送り込んでいる王国は、ありとあらゆるところから資源を、物資のみならず人も戦場に投入している。
飛行船の空襲も加わり鬱屈していた。
そこへ久方ぶりの愉快痛快なニュース、自分たちに爆弾を降らせようとした飛行船を撃退し撃墜した英雄が来たのだ。
一目見ようと、あるいは鬱屈した心情を晴らすため大騒ぎしようと駆けつけて
張り上げているのだ。
「私たちは客寄せパンダ?」
「その側面はある。しかし、彼らを救ったのも事実じゃ。彼らがこうして笑顔を我らに向けるのは、我らが守り切ったからじゃ。その英雄に救世主に感謝したいのじゃ。じゃから、応えて欲しい」
「他国の人々でしょう」
「他国でも友好国の国民じゃ。友が喜ぶのなら、妾も嬉しい」
「そういうことなら」
昴は外面用の笑顔を眩しいくらいに作り上げて大きく手を振ると、観衆は大きな声を上げた。
体当たりで飛行船を仕留めた昴のニュースは既に王国全土に知れ渡っており、女神が応えるところを見て群衆は喜んだ。
「やっぱり昴は人気ですね」
明るく、見た目は美少女なので人気が出るのも分かる。
「文字通り女神じゃからな。人気は非常に高いぞ。彼らの救世主、メシアじゃからのう」
「そこまでですか?」
「体当たりしてでも飛行船を撃墜したのじゃからな。英雄視、女神のように思うじゃろう。何も出来ない、空襲に怯えるだけだった者達からすれば女神じゃ」
「それほどまで王国は追い詰められていると」
「そうじゃ、総力戦で疲弊しておる。しかも海を挟んで無事であるはずだったのに、飛行船が来て誰もが死ぬかもしれない恐怖に直面しておる。疲弊しない方が無理じゃ」
碧子の言葉を効いて忠弥は再び視線を群衆に移した。
彼らは確かに笑顔だった。
だが、その笑みの後ろの恐怖や怯えが見えたような気がした。
パレードはつつがなく進み、馬車は王宮へ入っていった。
儀礼用の正装――モーツアルトのような白いカツラを被ったきらびやかなコートを着た侍従が先導し、忠弥達は、謁見の間に連れて行かれた。
「国王陛下ご一家! ご入場!」
事前に言われたとおり、忠弥達は最敬礼――帽子を脇に抱え、頭を四十五度に下げて、国王一家が入ってくるのを迎えた。
「面を上げよ」
国王の命令で上がると、立派なあごひげを生やした壮年の男性、王国国王エドワード五世が玉座に座っていた。
「異国人でありながら、王国の危機に駆けつけ、危険を顧みず王国の民を救ってくれたこと王国民に代わり礼を言う」
堂々とした態度に忠弥は感銘を受けた。
帝国の空襲が始まったとき、安全の為に国王一家は王都から避難することも検討されていた。
だが
「王都民が恐怖と困難に耐えているのに王が逃げ出すわけには行かない」
と言って、王都脱出を却下し、むしろ被害に遭った現場に慰問に赴いた。
その後の爆撃でも留まり続け、王国民の抵抗の象徴となった国王であり、肝が据わっていた。
「そして、その戦果をたたえ、ヴーディカ勲章を与える」
国王が言い終えると、忠弥達に渡す勲章を持った人々が現れた。
ただ、忠弥の前に現れたのは、少女だった。
「忠弥様。王国民を助けてくれたこと、感謝致します」
「貴方は?」
「申し遅れました。王国の女王メアリでございます」
国を挙げて歓迎しているという証だった。
ただ忠弥は隣が気になった。
昴の方は自分と同年代の少年、聞き耳を立てていると与えているのはヘンリー王子だ。
何故か、気になる。
だから、忠弥は直前まで気が付かなかった。
「これからも王国をお守りください」
といって、メアリが忠弥の頬にキスしたことに。
された後、周囲でどよめきが走った。
そして、気が付いた昴が顔を向け、目を大きく広げ、薄笑いへと表情が変わるところを見てしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます