第139話 王国からの叙勲

「やったわね」


 飛行船三隻を撃墜した翌日、昴は王国軍が用意した車内で、ご機嫌だった。

 ジョン達の街を守り切れたことを喜び、はしゃいでいた。

 昨夜は、三隻を撃墜したお祝いをジョンのデパートの前で行った。

 物資不足だったが、街の人達や農民の人達がなけなしの食材を出して豪勢な食事を忠弥達を称えるために用意してくれたのだ。


「戦争で食料が手に入らないのに、私たちに提供するなど申し訳ない」


 最初忠弥は、そう言って断ったが


「戦時下で娯楽がない。それに悲しい出来事も多い。しかも飛行船の空襲もあった。その恐怖の飛行船が撃墜されたのは、最近希に見る喜ばしいニュースだ。久方ぶりに心から祝って楽しみたいのだよ。ここは一つ、皆が楽しめる明るいイベントの主役になってくれ」


 とサイクス家の当主――サイクスの父親フィリップ・サイクスに言われたら断るわけにはいかない。


「世界で最初に空へ翼を以て飛び立ち、我々を飛行船から守った少年と少女、我が町の守護神と守護天使をたたえて乾杯」


 と、褒めちぎられた言葉に彩られた乾杯の音頭を聞かされた時には、恥ずかしさで一杯だった。

 しかも、サプライズはそれだけで終わりではなかった。

 飛行船撃墜、防空成功の功績により、王国の国王より直々にヴーディカ勲章――王国建国の女王の名前を冠した、王国最高の勲章が与えられることになったのだ。

 丁度祝いの席で叙勲の知らせが届き、喜びは一層大きなものになり、宴は深夜まで続いた。

 おかげで忠弥達は翌朝いや昼近くまで寝ていた。

 帝国軍の襲撃が無かったのはあ不幸中の幸いだった。

 緊急発進待機中の部隊がいるとはいえ、全力で来襲されたら、空襲を許してしまうところだった。

 昼過ぎに起きた忠弥達は、再びスケジュール調整を行い、叙勲者をリストアップすると車を用意して今、王都の宮殿へ向かっている途中だった。

 だが、途中で止められてしまった。


「待っておったぞ。皇国が誇る我が勇敢な空軍将兵達よ」


 出迎えたのは碧子だった。

 陸海軍からの転籍組が一斉に直立不動となり敬礼する。

 忠弥と昴も遅れて敬礼した。

 答礼すると忠弥は碧子に尋ねた。


「どうして司令官閣下がここに?」

「妾の軍の将兵が叙勲される晴れ舞台を見てみたいのじゃ。それと見張りじゃ」

「? どういうことですか?」

「兎に角、叙勲の時は注意する事じゃ」

「叙勲は名よな事でしょう」


 水を差す碧子に昴が言う。


「表向きには、じゃが、栄誉を与える事で更なる働きを、王国への歓心を高めようとする工作よ。王国がらみの外交問題が発生したとき王国への指示を集めやすいようにのう」

「私は皇国民よ。皇国と王国なら皇国を取るわ」

「世界は皇国と王国だけではない」


 碧子はそこで口を閉じたが、忠弥と昴には碧子が言いたいことは分かった。

 連合軍となっているが一枚岩ではない。

 特に作戦方針で共和国と王国は対立している。聖夜祭休戦の時の対応の違いに見られるように温度差がある。

 王国と共和国が対立したとき、皇国に支持して貰おうと王国が懐柔しに来たとみて良いだろう。


「それだけを心に留めておいてほしい。じゃが、叙勲は叙勲、名誉な事じゃし、誇るべき成果、友好国である王国への空襲を防いだのじゃ。妾は嬉しいぞ。王国だけで無く我が皇国も空軍も汝らを褒め称えよう」


 既に王国に対抗して皇国でも叙勲の話が出ている。

 空軍もまだ創設されたばかりで、歴史が短く、宣伝できるような戦果が陸海軍に比べて少ない。

 だから今回の防空戦を大々的に広報して認知を広げようと勲章を与える事になった。

 他にも王国派遣部隊へは感状――武士の時代から続く伝統で上位者が下位者の武勇を褒め称える書状が与えられることになっていた。

 そして、王国派遣部隊所属者には、従軍章が与えられることになっている。


「なんか、色々と大げさね。あれこれと勲章や賞状で装飾か化粧されているみたいね」


 守り切った誇りがある、いやあるが故に昴は様々な栄典が雪だるま式に増えていくのが気に入らなかった。

 自分が自発的にやったことを、誰かが後で勝手に褒め称えられるのは、何処か気分が悪い。

 褒められるのは嬉しいが、大袈裟になるとむしろ馬鹿にされているような気分になる。


「総力戦じゃからな。全ての国民に支持される必要がある。物資が少ないし、国民は兵士に取られ働き手も少なく、戦死傷者は増えるばかり。少しでも軍が活躍し勝利に向かっていることを宣伝しなければ士気が下がってお終いじゃ」


 声を小さくして碧子が昴に事情を話した。

 半年で終わるはずの戦争が続き、まだ終わりが見えない。

 しかも戦域は拡大しようとしている。

 これを維持するには各国国民の協力と支持が不可欠だった。

 そのためにも宣伝が必要であり、戦果を挙げた軍人を賞賛する必要があったのだ。


「じゃが、誇らしい行いをしたのは間違いない。胸を張っていくのじゃ。夜空の星空のように」

「任せなさい! 私は昴よ! 夜空に浮かぶ星の名前を持つのよ。夜空に輝く星のように、輝いてみせるわ」

「頼むぞ。では、乗り換えて貰おう」

「え? このまま宮殿へ行くんじゃないの?」

「叙勲者には、ふさわしい行き方があるのじゃ」

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