第138話 ロケット弾攻撃
「お待たせ昴」
昴が飛行船に突撃しようとした時、忠弥の声が無線で届いた。
「遅いじゃない! 目印に信号弾を上げたでしょう!」
「ごめん。思ったより速力が落ちていて遅れた」
「遅すぎて私たちだけで撃墜しようと思っちゃったじゃないの。早く撃墜しなさい。でないと私が撃墜するわよ」
「了解!」
忠弥は部隊を引き連れ機体を飛行船の上方へ持って行く。
「なかなか良い編隊だな」
上から見ると飛行船団は
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のような形をしている。そして一隻一隻が高度差を設けて、奥の船でも側面に火力を発揮できるようにしていた。
第二次大戦でアメリカ軍が採用したコンバットボックスのような形だ。
だが、弱点が無いわけではない。
「突撃する!」
忠弥は飛行船の左後方上空から接近していった。
狙うのは一番後ろの編隊に居る左側の飛行船、いわゆるカモ小隊カモ番機だ。
いくら相互に防御火力を発揮できるとしても一番外側の機体への援護は遠くて難しい。
その分攻撃がしやすい。そして外側のため、攻撃後離脱が容易だからだ。
ゴンドラの死角になる方向から進んで行く。
このまま攻撃しても当たるだろう。だが、三〇口径機銃では致命傷は与えられない。
そこで忠弥は新兵器を投入した。
機銃の照準環の横に付けた特設の照準器、整備部が木と金属片で作った即席の代物で狙いを付ける。
トリガーのスイッチを機銃から新兵器へ切り替えて、準備完了。
操縦桿を柔らかく握り飛行船に狙いを定めた。
「発射!」
両翼の下に設けられた支持架からロケット弾が発射された。
元々は百年ほど前、皇帝となった独裁者に対する諸国民の独立戦争で、使われた代物だった。
木をくりぬいた筒に火薬を詰めこんだ大きなロケット花火だ。
大砲より軽いため沼沢地などでも使用できたが、安定性が悪く見当違いの方向へ行くことが多いため命中率が悪かった。
だが、忠弥は現代のロケット弾のように成形し、小さな羽を付けることによって安定性を確保。直進しやすくした。
そして下翼の下に支持架を設け、搭載した。なお不破差は布で出来ているがロケットの噴射炎で火災を起こす恐れがあるのでトタン板を張っている。
盛大な噴射炎を放ちながら飛び出したロケット弾は弧を描いて飛行船に向かう。
忠弥に続いた戦闘機達も一斉に放つ。
一機当たり四発、四機から放たれた十六発が飛行船に向かう。
何発か逸れていったが、三発ほど船体に命中した。
船体に突き刺さったロケット弾は引っかかり詰め込んだ火薬が燃焼を終えると、弾頭が作動、爆発した。
内部にはガソリンとエンジンオイルを混ぜ込んだ即席のナパームが搭載されており、飛行船の気室を炎上させる。
爆発によって破片が飛び散り気室に多数の穴を開けた事もあり、内部に空気が侵入、浮力ガスである水素に引火した。
たちまち炎上し始め、飛行船全体に炎が広がっていく。
飛行船の乗員は懸命に消火活動を行ったが火の手は収まらず、徐々に高度を落としていく。
やがて中央部のアルミ製骨組みが火災の熱で曲がり始め、中央部から折れて墜落した。
「やったぞ!」
攻撃が成功したことに忠弥は歓声を上げた。
飛行船を体当たり以外で攻撃できる方法を確立したのだ。
残りの攻撃機もそれぞれ、飛行船に狙いを定めてロケット弾攻撃を行う。
しかし、初めて使う兵器のため、遠くで撃ってしまう連中が多く、攻撃を行った後の三編隊の内成功させたのは一編隊だけだった。
「拙いな」
飛行船が再出撃するまでの時間が短かったため、ロケットの生産と搭載機の改造が間に合わず忠弥を含め一八機と各機四発ずつしか搭載できなかった。
しかも命中率が悪いため、一発でも命中させるために四機が編隊を組んで四発を同時に発射する必要があった。
だからロケット弾を全て放った後、攻撃手段が機銃のみになってしまった。
「一か八かだ」
忠弥は最後尾の飛行船を狙いに定めて攻撃進路を取った。
すると狙いを付けた飛行船は逃げるように進路を変え始めた。
「やった」
ロケット弾の残弾なしを知らない飛行船は恐れをなして回避行動を取った。
忠弥は攻撃せずに離脱していく。
「続いて!」
単独行動を取り始めた飛行船に昴達の中隊が攻撃を行う。
防御火力は強力だが、編隊から離れているため、相互支援がなくなった分、横からの妨害を気にせず攻撃できる。
昴は銃撃を躱しながら接近し、銃弾を浴びせる。
狙うのは船体後方下部にあるエンジン部。
プロペラが当たらないように船体から離れておりわかりやすい。
そこに機銃弾を狙って放つ。
十数発の銃弾が命中しエンジンを収めたゴンドラは穴だらけになる。
そして燃料パイプを破壊されたエンジンは漏れ出したガソリンが高熱を発するエンジンブロックにかかり蒸発し発火点に至り、燃え始めた。
一発のエンジンが火を噴き、速力が落ちていく。
残りのエンジンにも命中弾が発生し燃えていく。
編隊に戻ろうと速力を上げようとするが二基のエンジンが停止したため追いつけない。
飛行船は編隊から離れ、昴達に後方のみならず、前方からも接近され、四方八方から銃撃を受ける。
多数のゴンドラに銃座を配置していても十数機の戦闘機の波状攻撃に対応できない。
やがて船体に空いた穴から水素が漏れ出し高度を落としていき、墜落していった。
「残り六隻ね」
「いや、終わりだよ」
忠弥が言うと飛行船が爆弾扉を開き、爆弾を落とした。
「さすがにこれ以上の損耗は許されないだろうな」
軍事上、損害が参加兵力の三割を超えると組織として成立せず全滅と判定される。
九隻中三隻が墜落したため、損害が三割を超えた飛行船部隊は撤退を決断し、撤退していった。
「追撃しなくて良いぞ。皆帰るぞ、凱旋だ!」
忠弥が勝利宣言を行うと、各編隊がビクトリーロールを行い、勝利を祝った。
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