第323話 横滑り着艦

 堀内達を狙ったプラッツⅣは火を噴いた。

 燃料タンクを打ち抜かれ火達磨になりバランスを失ってコースを離れ、岸辺の建物に墜落した。

 そして敵機を撃墜した初風が、青色にカラーリングされた鮮やかな初風が彼らの上空を通過していった。


「初風だ! 二宮司令官の戦闘機だ!」


 窮地の中での援軍到着に隊員達は歓声を上げた。


「司令官が上空にとどまれるのは僅かな時間しかない。直ちに撤収しろ!」


 堀内は冷静に隊員達に命じた。

 何時までも上空にとどまれるわけではない。

 離水のチャンスは今しか無く、失ったら永久に手に入らない。

 堀内は部下達を分散させて乗せると離水を命じた。




「堀内達の晴空が離水する。援護するんだ。赤松は南側へ、春日は北側へ。彼らの離水進路を確保しろ」


 忠弥は上空から指示を出す。

 みるみるうちに疾鷹の動きが良くなり、プラッツⅣの編隊を追いやっていく。

 無線機を搭載した忠弥の初風が指示を飛ばし、連携を復活させたからだ。


『忠弥、あんまり無茶しないでね』


 忠弥の後ろに付いてきている昴がたしなめた。


「無茶はしていないよ」

『アレが無茶じゃないなら何が無茶なのよ!』


 昴が怒っていたのは、龍飛が被弾した後の忠弥の行動だった。

 燃料弾薬が切れた機体は着水しかないが忠弥は何とか戦場に戻りたかった。

 しかし他に着艦できる艦はない。

 いや、ある事はあった。

 王国海軍の航空機実験艦フィアレスだった。

 帝国の沿岸部を砲撃して離脱する高速モニターとして建造されたが、帝国の防御が堅く使える場面がなかった。

 そこで王国海軍はフィアレスの速力を生かして前部の砲塔を撤去し飛行甲板を取り付け航空機の実験艦にした。

 しかし、他の部分はそのままのため、中央部に艦橋やら煙突が残っているので発艦のみしか使えない。

 一応、艦尾に着艦用の甲板を設けていたが、前方の発艦甲板に送ることができず、再発艦不可能な艦だ。

 皇国海軍の失敗も伝わってきていたが情報のやりとりが盛んで無いため同じような失敗が各所で起きていた。

 全通甲板に改造することが予定されていたが、損傷艦の修理が優先されドックの空きがなく、前後の飛行甲板が艦橋と煙突で分断されたままブルッヘ襲撃作戦が始まった。

 同盟国である皇国だけが参加するのでは王国の威信に関わると考えた上層部が何とか作戦参加の手段として考えたのがフィアレスの参陣だった。

 一回の発艦のみだが、何もしないよりマシとばかりに、参加させ、皇国から供与された初風四機を王国海軍のパイロット、ダニング少佐率いる戦闘機隊が飛んで制空権確保の一助をした。

 忠弥も事情は理解しており、ダニング少佐達の参加を許した。

 彼らは任務を果たし、燃料がある限り空を飛び続けフィアレスの着艦甲板に着艦した。

 因みに損害は二機。

 最後に着艦した機体が、先に着艦した機体に突っ込んで両損となったためだ。

 そんな艦に忠弥は降りることにした。

 だが、普通に降りたのでは、再度の発艦は無理だ。


「よし、前方にある発艦甲板に横滑りで着艦しよう」


 忠弥はフィアレスの右舷ギリギリを甲板とほぼ同じ高さで飛行。

 ブリッジを過ぎた瞬間、右のフットバーを蹴り飛ばし、操縦桿を思いっきり左に倒して、初風を左へ横滑りさせ、発艦甲板の上に到達。そのまま機首を上げて減速し甲板に降り立った。

 勿論、飛行機のスピードが出ていたため、フットブレーキをフルに使い、甲板の端ギリギリで止まった。


「二度とやりたくない」


 忠弥は一言呟いた後、駆け寄ってきた王国乗組員に命じてガソリンと弾薬の補給と機体を後ろへ引っ張るように命じた。

 少し時間はかかったが彼らはやってくれた。

 遅れた理由は、いきなり忠弥が降りてきたためではなく、昴が後を追って同じように降りてきたからだ。


「危ないっ! 止めるんだ!」


 忠弥が叫ぶのも聞かず、昴は無理矢理着艦した。

 同じ機動をしただけでも凄いが勢いが付きすぎていた。

 昴の機体は、止まれず、甲板から墜ちそうになった。


「止まれ!」


 慌てて忠弥が飛び出して尾翼にしがみつき初風の勢いを止めた。

 フィアレスの乗組員達も加わり、昴の機体は海に墜ちる寸前で止まった。


「何でこんな危ないことをするんだ。死ぬかもしれなかったんだぞ」

「先にやった忠弥に言われたくない」


 操縦席にかけよって叫んだ忠弥だったが昴に切り返されて何も言えなくなってしまった。

 結局昴の機体にも補給をフィアレスに依頼して二機の補給が終わると、二人は飛び出した。

 因みにこの方法は危険であり禁止された。

 後日真似して実行したダニング少佐は、機体を停止させる事に失敗し、海に落下し機体を失った。

 ダニング少佐は沈み行く機体からの脱出に成功し生還し自分のような人間が出ることを防ぐ為、発艦甲板への着艦を禁止する事を救助された直後、部下のパイロット達に命じた。

 

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