第109話 制圧下の小さな反撃
離陸滑走中の帝国軍戦闘機を見つけた皇国の戦闘機は、銃撃を浴びせた。
地上を滑走している戦闘機は容易い標的だった。
引き金を引くと二挺の機銃が火を吹き、直ぐに帝国軍戦闘機を蜂の巣にして炎上させた。
最初に攻撃にやって来た戦闘機隊の任務は敵基地の上空制圧、敵機を一機たりとも上げないことだ。
空に上がっている敵を撃ち落とす。地上にあるなら銃撃を浴びせて離陸できないようにする。滑走中なら特にだ。
故に、一機を葬り去っても攻撃は止まない。
制空権を握るべく連合軍機は駐機場に並べられた帝国軍の飛行機に対して銃撃を浴びせる。
「くそっ」
銃撃を浴びる部隊の飛行機を見てベルケは悪態を吐いた。
ここにある飛行機は帝国航空隊のほぼ全力だ。
貴重な機体が飛ばずに炎上していく。
「だがまだ掩体壕に残った機体がある」
戦闘機による銃撃だけなら、滑走路への被害は無い。戦闘機がいなくなれば出撃出来るとベルケは考えたが直ぐにその考えを改めた。
あとから攻撃機がやって来て、爆弾を投下し始めた。
滑走路の両端と中央部に数発ずつ落とし、離着陸不能にしてしまった。
ミスをしたのか爆弾が反れて無事な部分も、あとからやって来た攻撃機が的確に攻撃して破壊する。
攻撃を終えた戦闘機と攻撃機は離脱していった。
だが、これは始まりに過ぎなかった。
直ぐさま第二波の攻撃隊がやって来て、銃撃を浴びせ、残った施設に爆弾を落として行く。
「航空隊を殲滅する気か」
徹底的な攻撃を行う事にベルケは苦虫を噛み潰すが、考え違いである事を直ぐに認識した。
遥か上空を九機編隊の航空機が接近してきていた。
日頃の飛行で鍛え上げられた視力はそれが双発の爆撃機である事を認識し、爆弾を落としている姿を目撃した。
「退避!」
ベルケは直ぐに近くの掩蔽壕へ飛び込んだ。
そして窓から地上が破壊されるのを見た。
「何もかも、航空支援の施設さえ破壊するのか」
洞察力に優れたベルケは直ぐに忠弥がやろうとしている事を理解した。
まず、戦闘機で航空機を撃ち落とす、或いは地上で撃破して制空権を確保。
抵抗力が無くなったところへ、攻撃機がやって来て滑走路を破壊して離陸できないようにする。
そして手出しできなくなったところへ爆撃機を送り込み、周辺施設を含めて吹き飛ばす。
見事な作戦だった。
しかも爆撃機が破壊し損なった目標に対して攻撃機で攻撃する念の入れようだ。
そして戦闘機と攻撃機の来る頻度が、激しい。
「前線飛行場から飛び立っているのか」
ターンアラウンド――再出撃の頻度を上げ、攻撃目標の近くまで前進することで、短時間で何度も攻撃できるようにしている。
「他の飛行場はどうなっている」
空襲の合間を縫って指揮所のある掩蔽壕へ入って状況を確認する。
「ここ以外の飛行場も波状攻撃を受けています! 上空を制圧され出撃準備中だった航空機が破壊された後、滑走路に孔を開けられて使用不能に。そこへ爆撃機で施設を破壊されたそうです」
同時多発の一斉攻撃。
これも徹底的に航空機の長所――短時間で戦力を一カ所に集中できる機動性を活用する作戦。
しかも反撃を受けないよう上空の戦闘機を撃墜し、飛び立てないように滑走路を破壊して反撃能力を完全に奪ってから施設を攻撃、それも連続攻撃で徹底的に破壊している。
「……さすがですね、忠弥さん」
自分の飛行場が破壊される様子を見ながらもベルケは忠弥の作戦に感心し、笑みさえ浮かべていた。
「だが、これで終わりではありませんよ」
ベルケは振り返って部下に命じる。
「戦闘機は生き残っているか! 他に航空機はあるか!」
「掩蔽壕に何機か残っています」
「出撃する。掩蔽壕の中で燃料、弾薬を補給。暖機運転後出撃する」
「すでに行っています。少なくとも三機は飛べます」
「いや、他の機は分解して夜になってから後方に下げられるようにしておけ」
ベルケの命令に部下は驚き、反論する。
「無茶です! 敵機が上空にいるのに」
「帝国航空隊は壊滅した。だが、何もしないまま終わらせるわけにはいかない。一矢報いてやる」
「ならば司令、我々も」
「ダメだ。この状況で出撃出来るのは俺ぐらいだ」
部下には十二分に訓練を施しているが流石に空襲下で出撃する技量はなくベルケ以外は無理だ。
穴だらけの滑走路では足を取られて横転してしまうだろう。
「君らは再戦のために生き残ってくれ。それが私の命令だ。なに、今後帝国軍航空部隊がなくなることは永遠にない。だが君らパイロットがいなければ、連合に遅れを取ったままになる。復活した航空隊のためにも下がって活躍出来る場で活躍してくれ。私は帝国航空隊がへこたれることは無いと示すために飛ぶ。そいつを無駄にしないでくれ」
「司令……」
操縦士達は黙って敬礼して司令を見送った。
「ご武運を」
「ありがとう」
ベルケも敬礼して答えると掩体壕へ向かって駆け出した。
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