第273話 航空偵察情報

「前衛駆逐艦より報告、敵タウン級軽巡洋艦及び駆逐艦接近」


 帝国外洋艦隊が出撃してから早速獲物が出てきた。

 恐らく封鎖線を維持している敵王国海軍の哨戒艦隊だ。

 見敵必殺をモットーとする王国海軍なら駆逐艦を相手に引かない。

 むしろ食いつこうとする。

 案の定、引き返してくる味方駆逐艦を王国海軍の軽巡洋艦は追撃している。


「出てきた獲物を砲撃せよ」

「ヤボール! 全艦! 戦闘配置! 面舵一杯! 左砲戦用意」


 シュレーダーの許可を得てポールは命令を下す。

 ヴァレンシュタインに続行する各艦も針路を変えて左側にいる敵へ砲門を向ける。


「砲術長、砲撃を開始せよ。航海長、敵艦との距離を把握、一万五千を維持せよ」


 タウン級の主砲の射程は一万メートル。一万五千なら射程外でありヴァレンシュタインの主砲で一方的に砲撃できる。

 全砲門が敵巡洋艦に向けられると直ちに砲撃が始まった。

 一隻の軽巡洋艦に巡洋戦艦七隻の砲撃が集中する。

 無数の水柱に囲まれたタウン級は慌てて逃げだそうとするが、帝国の高性能射撃式装置が逃がすはずも無く、第二射が命中。

 無数の大口径砲弾を浴びたタウン級は消滅した。


「駆逐艦、残敵掃討に入れ」

「了解、通信長、各艦に伝え」


 戦果を挙げて満足したシュレーダーは命じた。

 軽巡がいなくなった今、巡洋戦艦の援護の元で、駆逐艦主体の王国の封鎖線を攻撃できるチャンスだった。

 帝国の駆逐艦に追い回れる王国駆逐艦。

 時折反撃する艦もいるが、ヴァレンシュタイン以下の巡洋戦艦に撃退される。

 このまま続ければ封鎖線を殲滅できるかに思われた。

 だが、長くは続かなかった。


「航空隊より入電。北方海域において多数の戦闘機が展開。偵察不能」


 その報告に環境内は緊張に包まれた。

 敵艦隊の情報を収集する航空隊と飛行船が敵の妨害に遭って偵察不能、敵艦隊の接近を確認できない事態に陥った。

 シュレーダーの決断は素早かった。


「全艦に通達! 直ちに戦闘中止! 母港へ離脱せよ」

「早すぎませんか?」


 幕僚の一人が不満を述べる。だがシュレーダーの意見は変わらなかった。


「万が一、スクリーンの中に敵艦隊がいた場合、我が艦隊の背後、退路を断たれる可能性がある。後方の主力へも大艦隊が向かっている可能性がある。ここで壊滅する訳にはいかない。撤退だ」


 シュレーダーの命令に幕僚もそれ以上反対は出来なかった。


「艦長、母港へ撤退だ」

「ヤボール! 各艦に伝えます」


 ポールは直ちに通信して各艦に伝えた。

 あまりの早期撤退に不満の声が一部出たが、全艦が従った。


「航海長、後続する味方艦はどうだ?」


 ポールは航海長に尋ねた。旗艦艦長として、味方艦の状況を知らなければならない。


「二番艦から殿艦まで後続しています。速力低下無し、故障なしです」


 航海長は淀みなく報告した。

 彼は全てポールが予め指示していたとおりに行動し報告していた。

 艦隊司令部に必要な情報を提供するのも旗艦の役目だ。

 ただでさえ忙しく人員の少ないのが船であり旗艦の業務が加えられるのはキツい。

 ポールも負担を感じていたが、前の戦闘の経験を生かして滞りなく責務を果たしていた。

 そのことがシュレーダーの高評価につながり手放さない、ヴァレンシュタインから降りない理由になっていた。

 不満の声が上がりながらも艦隊は母港へ向かってほぼ最高速で航行していた。

 その途上、航空隊の続報が入りシュレーダーの決断が妥当な判断だったことが証明された


「報告、発艦した偵察機が王国海軍巡洋戦艦部隊を発見。高速戦艦五、巡洋戦艦四。我々に向かってきています。さらに北方には大艦隊主力二五隻の戦艦が南東方面、我が母港の方へ向かっています」

「我々の退路を断つ気だ」


 シュレーダーは敵の意図を読んだ。

 もし撤退命令が、決断が遅れていたら、敵に背後に回られ全滅していたかもしれない。

 帝国巡洋戦艦部隊は撤退を行い王国海軍に捕捉される前に母港へ逃げ帰った。


「航空機の情報様々だな」

「全くです」


 シュレーダーの意見にポールは同意した。

 もし航空隊の情報が無ければ外洋艦隊は殲滅されていた。

 航空隊が活動できない海域を知らされたシュレーダーは敵の動きを推測。最悪の状況を想定して行動したからだ。

 結果、外洋艦隊は助かり、ポール達は生きて帰れる。

 シュレーダーの決断は値千金に値する。

 だが同時に外洋艦隊は航空隊の偵察が無ければ活動出来ない、殲滅の危機にさらされることを証明することになった。

 今後は航空隊が活動できる範囲でのみ艦隊は行動するのみだろう。

 海の上を走る巨大戦艦は敵に見つかりやすい。

 今後は見つかりにくい海の中を進む艦が主力となり、巡洋戦艦は彼らを支援する脇役となる。

 ポールにはそう思えてならなかった。


「作戦成功ですね」

「ああ、そうだ」


 寂しげに言うポールにシュレーダーは同意した。

 今回の作戦は封鎖線の攪乱。

 警戒にあたる連合国艦艇がバラバラになり、警戒監視に緩みが出れば良いのだ。

 ヴァレンシュタイン以下の巡洋戦艦によって連合国の軽巡と駆逐艦は撃破あるいは避難しており元の封鎖線に戻ってくるあるいは再配備に一日以上はかかる。

 その間に、帝国の希望の星が、餓狼が連合国の背後の大洋に放たれる。

 それがこの作戦の目的だった。 

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