第388話 クーデター成功?

「とりあえず、上手くいったな」


 ヘンリー・メイグスはラプラタの政府庁舎で微笑んでいた。

 メイフラワー合衆国の資源会社の役員を務めているが、現在はアルヘンティーナ政府の鉱物政策顧問となっている。

 アルヘンティーナの鉱物資源を牛耳れる立場だ。


「クーデターのお陰でアルヘンティーナの鉱物は全て私のものだ」


 皇国が鉱物をかすめ取っていくことを良しとせず、何とかして奪おうと考えた。

 生半可な手段では妨害出来ない。

 とりあえず皇国のガキ共を、手下に命じて襲撃し誘拐して交渉しようとしたが失敗。事が露見すれば、犯罪者として追及されてしまう。

 そこで、考えたの現地の部隊を使ったクーデター。

 鉱山関係で利権を持つ部隊に話を持ちかけ、支援を約束したら喜んで加わってくれた。

 メイグスの手引き、自社鋼材の自衛用の武器や鉱山で使うトラックを提供するなどして、クーデターに協力。

 僅か一日で首都を制圧しアルヘンティーナを支配下に収めた。


「はじめからこうすれば良かった」


 今は、鉱山関係の掌握と、首都の制圧に努めている。

 他の地方の部隊に関してはインフラが整っていないため暫くは無視しても大丈夫なはずだ。


「顧問、拙いことになった」


 元国軍司令官にして鉱山党支持者、そしてクーデターの首謀者、祖国救国委員会委員長ビデラがメイグスの元を訪れた。


「おお委員長。何を慌てているのです。首都の制圧は無事に済んだでしょう。他の部隊などすぐに制圧出来るでしょうし」

「だめだ皇国の連中が介入しようとしている。皇国国民の生命財産を守る為に進駐すると」

「はね除けるべきでしょう。そもそもの話、皇国が近日中に軍隊を我が国に送り込むなんて出来ないでしょう。それまでに飛行場で抵抗する連中を叩き潰す事が出来るハズです」


 皇国まで船で数日かかる。

 移動準備でもあと、数日はかかる計算だ。


「そうも言っていられなくなった」


 ビデラはラジオを点けて今流れている放送を聞かせた。


『繰り返します。私アルヘンティーナ首相ペロンはクーデターに制圧された現政府の正式なメンバーとしてクーデターに反対し、抵抗するものであります。心ある国軍の部隊は私の元へ集い、クーデター部隊を撃滅するべく力を結集して貰いたい。国の行く末は軍のクーデターではなく国民によって決められるべきです。私の呼びかけは国際的にも承認され、皇国が支持と支援を約束してくれました。今、皇国は我々を救うべく、皇国軍を派遣し我々を支えてくれています』


「馬鹿馬鹿しい、外患誘致の罪で逮捕出来るでしょう。外国から軍隊を呼び寄せるなど国を売るに等しい」


 クーデターで劣勢になった側が権力回復の為に外国勢力を呼び寄せる事はよくあることだ。

 だがこの手の策は、成功しても、事が終わった後呼び寄せた外国勢力から見返りを求められて、様々な権益や国家の利益を奪われることになる。

 それを許すことなど国民は望まないだろう。

 もっともメイグスが行っている事は外国勢力のやり口そのものであり、見返りを求める立場だ。

 しかも、無意識に自分が求めるのは正しいと盲信しており、悪びれていなかった。

 全て悪いのは自分以外だ、というのがメイグスの思考だ。


「すぐに叩き潰せるでしょう」

「手遅れだ。すでに皇国軍が入っている」

「はあ?」


 思いがけない話にメイグスは驚いた。


「そんな馬鹿な、それだけの兵力は無いでしょう。皇国の軍艦が入港していますが巡洋艦程度、乗員は数百人で、そこから割いても百人ほどしか居らず、飛行場の千名の部隊を会わせても我々クーデター側一万が圧倒的兵力だ。威嚇するだけでも追い返せるでしょう」

「いや、連中は飛行場へ部隊を千人以上送り込んでいる」

「馬鹿な、どうやって送り込んできたんです。そんな兵力を」

「連中は飛行船を十数隻使って運び込んできたんだ」

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