第387話 クーデター

 忠弥の予想は当たった。

 飛行場へ飛び込んだ直後、突如ラジオから、激しい口調で声明が流れた。


『アルヘンティーナの資源が皇国へ輸出されるなど、我が鉱山党は断じて認めない! どのような手段を用いても、たとえ政府を転覆してでも阻止する! ただいま我らの方針を支持するビデラ司令官を中心とした国軍部隊が議事堂を含む政府庁舎を占領した! 憲法は停止されアルヘンティーナの独立を守る祖国救国委員会を設置し、アルヘンティーナの全権はこの委員会の元に集約される! 不当に結ばれた契約は無効になる!』


「どういうこと」


 昴が忠弥に尋ねた。

 知っているのに、身体を震わせるほど怒っているのに尋ねてくるのは、自分の認識が間違っていないか確認するためだ。

 忠弥は溜息を吐いてから、答えた。


「昴が結んだ契約は無効だって事」


「なによそれ!」


 昴は机に両手を突いて怒鳴った。


「あんなに苦労して結んだのに全て無効だって言うの!」


「そうしたいみたいだね」


「くううっ! 許さないっ!」


 昴は地団駄踏んで悔しがる。

 幸い、今この部屋にいるのは忠弥だけで他に人はいない。

 だが、不意にドアが開いた。


「失礼します」


「あら、大使閣下、どうなさいました」


 先ほどまでの憤怒の顔は消え失せ穏やかな笑みを浮かべながら駐アルヘンティーナ皇国大使を迎えた。

 その変わり身の早さに忠弥は目を丸くした。

 一方の大使は、昴の可憐さに目を奪われ少し鼻の下を伸ばしながら言う。


「はい、首相は今回の件に対して断固として抵抗すると述べております」


 忠弥は襲撃されるとすぐに出国の準備を進めた。

 念のため、関係者各員を飛行場に集めて、襲撃にそなえた。

 飛行場は忠弥達に友好的な国軍部隊が駐留しており、援助と協力が期待出来た。

 襲撃直後より、国軍が変な動きをしていたので皇国の大使にも連絡して飛行場に来て貰った。

 これが吉と出た。

 運良く、大使の元をアルヘンティーナの首相ペロンが訪れており、夜通し歓談していた。

 すぐに国軍が怪しい動きをしていることを知らせ、一緒に来て貰った。

 直後、クーデターが発生し、大使と首相を含め無事に飛行場に逃れる事が出来た。


「それで現状支持してくれる部隊はいますか?」


「……この飛行場の部隊以外いません。正確には、川向こうの部隊サンファン師団、メンドーサ師団、ラ・リオハ師団が支持を表明していますが、船を、大型船を全て反乱軍に抑えられているため、渡れずこちらに来れません」


 大使の言葉に忠弥はさもありなん、と思った。

 アルヘンティーナは、国土の中央を大河が流れている。

 川幅が十数キロキロを超える川で今の時期は雨期で水量が多い。

 忌々しいが、この大河のお陰で農業が盛んだし何万年も前から流れている為、山の鉱物が精錬され、堆積し鉱物資源国になった。


「間もなくクーデター部隊が来るでしょう。この飛行場の部隊千名程度ではクーデターに参加したとされる一万名に対抗するには心ともないのでは」


「いや、その可能性は少ないでしょう」


 クーデター参加部隊は少数だろう。

 中立の部隊、クーデターの先行きを見極めようという日和見主義者が多いはず。

 彼らへの牽制の為、制圧した中央官庁を掌握するために、主力となる部隊は動けないはず。

 それに数を持っている可能性も高い。

 反対派の逮捕、弾圧のために分散していることもあり、飛行場まで手が回らないようだ。


「少数の牽制部隊がやってくる可能性はありますが、本格的にやってくるのは三日くらい先でしょうね」


 希望的観測も含まれているが、部隊の動員などを考えるとそれぐらいは遅れるだろう。


「それで、このあとどうするのですか?」


「とりあえず、この飛行場を確保し続けましょう」


 幸いクーデター部隊は飛行場の部隊と仲が悪い。

 アルヘンティーナ国軍の内部は軍閥状態で、部隊が違うと仲が悪く、共同作戦など殆ど採らない。

 クーデターのとき、司令部の指示ではなく、クーデター参加部隊に仲が悪い部隊がいれば鎮圧し、仲が良い部隊がいれば加勢するといった感じだ。

 幸か不幸か、仲が悪い部隊が参加してくれているお陰で、忠弥達は安全だ。


「保持していれば、皇国の救援もやってくるでしょう」


「だが、味方の部隊がやってくるのに時間がかかるのでは」


「あと三日程度でやって来てくれますよ。それまでに準備を整えましょう」


 忠弥の言葉に大使は半信半疑だったが、とりあえずは信頼することにした。

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