第386話 二サイクルエンジン
二サイクルエンジンというのものを知っているだろうか。
四サイクルなら吸気、圧縮、膨張、排気の四つの工程を二回転でするのに対し、二サイクルは、吸気と膨張、圧縮と排気を同時に行うため、一回転で一周期になる。
二回転する間に四サイクルは一回しか出力できないが二サイクルなら二回出力出来るので高出力化出来る。
勿論、燃費や効率は悪いが、小型高出力を目指すなら二サイクルエンジンは選択肢に入る。
また小型で構造が単純という生産と整備上のメリットが多くあった。
忠弥が小型車のエンジンに選択したのも当然だった。
だが、二サイクルエンジンには他にも欠陥が有る。
その一つに、単純故に、逆回転しやすく、時折意図せず逆に回ってしまう事がある。
四サイクルなら回転のサイクル上、逆回転しても回り続けるのは不可能だが、二サイクルは回り続けてしまう。
どれくらい回りやすいかというと、逆転防止装置が出来る前、二サイクルエンジンを積んだバイクでスターターを回すと運の悪いライダーの脛を、キックペダルが強襲する事故が度々起きたくらいにはある。
だが、この欠点を利用する技術者がいた。
逆転しやすいなら、逆転させるシステムにしてしまおう、それでバックさせればギヤにバックを組み込む必要は無い。
馬鹿げていたが有効だった。
エンジンを一度切って逆転させる必要はあるが、ギヤを軽量化する上で、これほど有効な手立ては無かった。
オリジナルのメッサーシュミットKR200には、この機構が採用されており、忠弥も、この機構を再現した。
そのため、<うたかた>は前進と同じスピードでバックが出来る。
突然バックした事に驚いた襲撃者は慌てて銃撃をするが、対応出来ず、巧みにハンドルを捌いて路地裏に入った忠弥達を逃した。
「追いかけろ!」
慌てて追撃するが、狭い路地裏にトラックで入る事があ出来ない。
やむを得ず、バイクで襲撃に入るが、念のため持たされていた、サブマシンガンを足下から取り出した忠弥の銃撃を浴びることになった。
片手で車外にサブマシンガンを出して銃撃すると、薬莢が飛び出し、壁に当たり甲高い音を立てつつ、襲撃者のバイクに銃撃を浴びせる。
だが、激しい振動の中、片手で撃っているため、命中弾は出なかった。
「すぐに弾切れするな」
弾切れで黙り込んだサブマシンガンを車内に戻し両手を使ってマガジンを交換する。
「って! 忠弥後ろ! 後ろ! 大通りに出る!」
後ろを見ていた昴が叫ぶ。
このままだと大通りに侵入して衝突されてしまう。
だが忠弥は両手をハンドルから離したまま、足でロッド――ハンドルと前輪を繋ぐ鉄の棒でレイアウト上、足下にむき出して配置されていた――を操作して大通りの車線へ<うたかた>を曲がらせ、間一髪走っていた乗用車に衝突するのを防いだ。
そして、路地から見えなくなる直前、マガジン交換を終えた忠弥は置き土産とばかりに銃撃を浴びせて襲撃者を怯ませた。
一瞬、注意が逸れた襲撃者はブレーキを握るタイミングを失い、そのまま路地からまっすぐ大通りへ突入。
横からやって来たトラックにはねられて大怪我をした。
「急な飛び出しは危ないね」
「こんな曲芸も危ないわよ」
襲撃者に襲われた昴のショックは、隣の乗用車に乗る家族――進行方向に背を向けて走る昴と忠弥に驚きの視線を向けているいたたまれなさから、吹き飛んでいた。
忠弥は乗用車の家族に手を振った後、路肩へ<うたかた>を運転し停止させた。
「助かったね」
「本当にね」
襲撃者に襲われた事もそうだが忠弥の運転でも死にかけて昴はウンザリした。
「でも、一体何なの」
「皇国に資源が行くの好まない連中の仕返し、襲撃だろうね」
「メイフラワーがやったっていうの?」
「多分そうだろうね」
「偽装はするだろうけど、裏ではメイフラワー合衆国が糸を引いているはず」
「どうするの?」
「危険だから、一度ホテル、いや飛行場へ逃げ帰った方が良いだろうね」
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