第161話 奇襲奇策の掛け合い

 南西領を出発してから数日後、帝国領東カルタゴニアに到着すると、現地の連合軍は酷い有様だった。

 物資集積所が破壊され、多くの部隊が行動不能になり、物資を積み込んだ輸送船がある港町まで撤退していた。

 すぐに現地に展開し、行動してた帝国軍を見つけ攻撃を仕掛け、戦線を安定させた。

 だが予想通り既にベルケは離脱した後で、飛行船もベルケの航空部隊と接触するどころか、影も見つからなかった。


「ベルケの臆病者! 出てきて戦え!」

「いや、ベルケの方が正しいよ」


 激昂する昴を忠弥はたしなめた。

 戦力を一点に集中して攻撃を加え、迅速に離脱し、次の戦場へ向かう。

 常に移動することで敵に捕捉されず、少数の敵に対して圧倒的な兵力で向かい、局地的優位を作り出し、損害を最小限に抑え味方を温存する。

 航空機動戦のセオリー通りのやり方だ。

 本格的な理論が確立されているわけではなかったが、幾度もの実戦を経験したベルケは自然と体得したらしい。

 あるいは現実を見て自ら確立したのかもしれない。


「連中は何処にいるの」

「多分、何処か他の領にいるはず」

「報告!」


 その時通信員が入ってきた。


「帝国領西カルタゴニアを攻略中の部隊から連絡です。敵の航空機による奇襲により現地の味方航空部隊は壊滅。地上軍も帝国軍の反撃を受けて、撤退中との事です」


 最初に救援した部隊が再びベルケに襲撃されて壊滅したらしい。

 忠弥が輸送してきた航空機も破壊されたようだ。


「報告! 帝国領南西カルタゴニアの部隊が再び帝国軍航空部隊の攻撃を受けたそうです! 夜明け頃、多数の航空機が襲来し、飛行場を攻撃。駐機していた航空機単座型一機、複座型三機が爆弾で破壊されたそうです」


 置いていった半数が撃破された。しかも偵察に有用な複座型を三機も失っている。これでは有効な索敵が出来ない。


「馬鹿なことを言わないで。ベルケは西領に居るはずよ」

「多分、それはベルケの置き土産だ。予め航空機を少数、現地軍と共に置いて行き、僕たちが去ってから奇襲攻撃をするように命令していたのだろう」


 少数の航空機を隠すぐらいは簡単だ。

 見つからないよう夜明け前に出撃し、奇襲攻撃を仕掛けるくらいは出来る。


「分散配置してくれていたら被害は最小限に抑えられたんだけどな」


 一箇所に飛行機を集めていたため、一回の奇襲で撃破されてしまった。

 多数の航空機を集まったところを奇襲されて被害を受ける事例は多い。

 有名なところでは、真珠湾攻撃の時、米軍がテロ行為を警戒して駐機場に飛行機を集めて厳重に見果て居たら日本軍の奇襲攻撃で全滅した例がある。

 他にも朝鮮戦争の時、北朝鮮軍所属の複葉機のU-2が米軍空軍基地を夜間奇襲攻撃し駐機してあった最新鋭ジェット戦闘機F-86に直撃させ完全破壊、集へ似に居た四機を大破、四機小破の合計九機撃破という損害を与えている。これは北朝鮮側の最新ジェット戦闘機MiG-15が半年掛けてF-86をようやく二機撃破出来た戦果を一晩で上回るまれに見る記録となった。

 このような事例があるから航空作戦は油断できない。


「どうする? 追いかける?」

「追いかけてもまた逃げられる。むしろ、待ち伏せを行うべきだよ」


 忠弥は地図を広げて現状を確認した。


「四つあるカルタゴニア大陸の帝国領の内、西と南西そして東はベルケが訪れている。ならばベルケがまだ赴いていない南東カルタゴニアに行くはずだ。ここで待ち伏せして決着を付ける」




 ハイデルベルク帝国領南東カルタゴニア。

 ここには開戦前に一二〇名の帝国士官及び下士官と三〇〇〇名からなる現地兵の部隊が編成されていた。

 開戦時は中立を保っていたが、王国軍の侵攻が始まると植民地軍司令官フォルベック大佐は先制奇襲して撃退。

 二度目の上陸作戦による侵攻も上陸地点への逆撃で撃退していた。

 その後は現地兵を増強し一万人に増やすも内陸部へ撤退し、ゲリラ戦を展開していた。

 帝国海外領で最も活動し戦果を上げている部隊として有名だった。

 海外植民地とはいえ、二度にわたる勝利は塹壕戦で陰鬱な状況だった帝国内部を狂喜させ皇帝から直接お褒めの言葉を与えられ、フォルベックは少将に昇進したほどだ。

 彼らの目的はベルケと同様、降伏せず絶えず動き回り、連合軍の兵力を旧大陸の主戦線から引き離し、帝国が優勢となるように仕向けることだった。

 そのためフォルベック将軍率いる植民地軍を見つける事は至上命題だった。

 忠弥は徹底した航空作戦でフォルベックの軍の捕捉に努め、見つけ次第、味方に連絡し誘導した。

 同時に忠弥達も航空機を使って攻撃を行い、追い詰めていった。

 フォルベックは撤退を繰り返し、中立国の国境線となる峡谷地帯にまで下がることとなった。

 険しい地形のために、進撃が困難で防御しやすい上に、横穴も多くあり、航空機による攻撃どころか偵察も困難だった。


「手詰まりだな」

「穴蔵や溝に逃げられたらね」


 飛天の内部に設けられた作戦指令室――と入っても惨状ほどの狭い部屋に地図用のテーブルと事務机が置かれただけの部屋で作戦を指揮していた忠弥の呟きに昴は応じた。


「フォルベックもそうだけど、ベルケの動きがないのも気になる」


 西領を優位にしたら、まだ来ていない南東に来ると見越して攻撃を行っていた。

 だが、ベルケはやってきていない。

 それどころか、他の領でも攻撃されたという話さえ入ってきていなかった。


「どういうことなんだ」


 味方に損害が無い事は良いことだが、ベルケの動きが無い事に忠弥は焦り始めていた。

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