第255話 空を飛ぶ理由
帝国との秘密交渉が纏まらず、暗礁に乗り上げていた。
味方を纏めることも容易ではないのに敵も巻き込んで達成しないといけない。
だが、碧子は気が沈んでいたが、忠弥は明るく前向きだった。
何故、忠弥が明るいのか碧子は知りたかった。
「空軍司令官としてどうかと思うが、飛んだところで世界が変わるように思えぬことがあるのじゃが。航空機の有用性は理解している。しかし、どうもただ飛ぶだけで世界が変わるとは思えぬ」
詳細は秘密にしているが、ただ飛ぶだけで世界が変わるような自信に満ちて今回の計画を忠弥は進めていた。
ただ飛ぶだけで何が変わるのか、代わるという自信は何なのか、どうして忠弥はそう思えるのか碧子は知りたかった。
忠弥は少し考えてから、気負いもなく答えた。
「空を飛ぶのが好きだからです」
子供のような笑顔で忠弥は話し続けた。
「空を飛ぶだけで幸せになれます」
「じゃが、それは忠弥が幸せになるだけじゃろう。どうして飛ぶことで周りが幸せになるのじゃ」
求めていた答えと違うと文句を言う碧子に忠弥は楽しそうに答える。
「私は空を飛んでいる飛行機を見るのが好きなんです。同じように空を飛ぶ飛行機を見て元気になる仲間を元気づけたいんですよ」
「そんな者がおるのか?」
「ええ、私は飛行機が空を飛んでいるのを見るだけで元気になります。同じ気持ちになる仲間のために、百人に一人程度かもしれませんが彼らが元気になるために飛ぶんです」
「見ていないかもしれんぞ」
「それでも見てくれる人がいると信じて飛んでいます。空を飛ぶのは素晴らしい事ですから」
「じゃが、空に興味がない者も多いぞ。というより多数派じゃ」
交渉で反対する共和国の事を碧子は思い返した。
共和国は連合軍の中で最大の陸上兵力があり最も損害を受けているため帝国との講和に反対している。
そのような人々を自分に、平和の方へ振り向かせる事が出来るのか疑問だった。
しかし忠弥の答えは明快だった。
「ならば空に興味がない人も空を見上げるような飛行をするだけです」
笑みを浮かべながらも気迫に満ちた答えだった。
「興味のない人の心を掴み振り向かせ虜にするような飛行を行い、空に視線を向かわせます。そんな飛行を行うのです」
「襟首を掴んで無理矢理振り向かせるようにしか聞こえんぞ」
「実際そうですから。他のことを放り出して空を見てしまうような飛行を行います」
「大した自信じゃのう」
忠弥は信じているのだ。
荒唐無稽な夢だが、信じて進んでいるのだ。
「そうか、ありがとう忠弥」
忠弥の言葉を聞いて、碧子は吹っ切れた。
「このあともここにいられるのかの」
「いえ、午後の訓練がありますので」
「そうか、ではまた今度」
忠弥が部屋を辞すると、碧子は交渉のサポート役に命じた。
「各国の交渉担当に連絡してほしいのじゃ。もう一度、講和の為に話し合いたい。妥協点を探り講和を模索したい」
「分かりました」
碧子も自分の信じることを行おうとしていた。
「平和をもたらすために頑張るぞ。じゃがその前に」
碧子は祝辞の紙を取り出して練習を再開した。
再び交渉をするための会合時間の調整に時間が掛かる。
決まるまでの間、祝辞の練習に充てることにした。
祝辞の声は先ほどより、明るく力強かった。
「よーし、午後の訓練を再開するぞ」
飛行場に戻った忠弥は明るい声で言うが、チーム内の雰囲気は最悪だった。
互いにギスギスしていて、特にベルケと目を合わせようとせず、睨み付けている。
チームワークという言葉とは正反対の状況だ。
「まず、君たちに一言言っておきたい」
忠弥が口を開くと全員が注目した。
「皆済まない」
忠弥は頭を下げた。
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