第256話 チームワーク
「忠弥さんどうして」
いきなり頭を下げた忠弥に全員が動揺した。
忠弥は頭を下げたまま訳を説明した。
「チームワークが大切と言いながら、先走って君たちを振り切ってしまった。君たちが追いついて編隊が組めるようにするべきだったのに置いてけぼりにしてしまった。済まない」
曲芸飛行では一糸乱れぬ編隊飛行が必要であり、一機が卓越していても全体の演技が台無しになってしまう。
その点を忠弥は忘れていた。
とに霧の技量を全員に見せようとして、誤認に自分に追いつくよう強要してしまった。
だから余裕が無くなってしまったのだ。
「追いつけない我々が未熟で足をひっぱたのです」
「だとしても君たちに合わせるべきだった。無理を強要して済まない」
忠弥の技術が卓越していたのも確かだが、忠弥とベルケ、サイクス、テストでは子供と大人であり体重が違う。
軽い忠弥の機動に重いベルケ達が追いつけるはずがなかった。
「飛行プランをもう一度やり直そう」
忠弥は机の上に紙を置いて打ち合わせを行った。
「円を描くときの開始位置が皆ずれている。特にスモークを焚き始める位置、座標が違っている」
二次元に描く輪を三次元で動く、しかも止まることのできない飛行機で描くのは大変だ。
散開してからそそれぞれ違う円へ同じ座標へ行く事もあり到達時間がバラバラ。
そのため、同じ座標から円が描き始められず、形が変に見える。
それに、同じ座標から同じ動きをしないと機体同士が接触する可能性がある。
円の間は高度差があるが、危険を出来るだけ最小限にするためにも五機が同じように動く必要があった。
「そこでブレイクしたあとの飛び方を変えよう。手前側の円を描く二機は上昇し柱を描いた後、急上昇。他の三機は緩やかに上昇して定位置に向かう」
「どうして?」
「上昇した後すぐ近くにある円と奥の円への到達時間を調整するためだよ。遠くは低く飛んで素早く移動、近くは高く飛んで時間をかけて到達。円を描くとき、全機の位置が同じになるように調整するんだ」
地上から見たときの移動距離を高さを増すことで遅くして全機が同時に同じ位置から円を描けるようにしたかった。
「どれくらい上昇するかは皆に任せる。円を描くとき同じ位置に来てくれれば良い」
細かい調整は各自に任せることにした。
だが、この飛び方なら各自が調整がしやすいはずだ。
「一つ提案があるのですが」
ベルケが手を上げて提案した。
「燃料を少なくして軽くしてはどうでしょう?」
「燃料を?」
「はい、一回こっきりなんですから多くは不要でしょう。離陸して曲芸飛行をして帰って着陸する。それだけを行う分で大丈夫でしょう」
「確かにそうだが、万が一を考えると危険だ」
飛行機は万が一の場合を考えて予備の燃料を搭載している。
悪天候を迂回したり、着陸先の飛行場の滑走路が事故で封鎖され他の飛行場へ変更したりなど予想外の事故や事件に対応するためだ。
「確かに危険はありますが、悪天候では行いませんし、予備の飛行場と滑走路も近くに確保されています。予備の燃料を積んでおく必要もないでしょう。それに機体が軽いので燃料消費も少ないです。上昇の時も勢いが増し十分加速出来ます」
「確かにな」
飛んで、曲芸飛行して戻る。
戦場ではないし悪天候なら中止するだけ。
機体が軽いと飛ぶのに必要な燃料も少なく済むので消費が少なくなり、かえって長距離を飛べる事が多い。
飛行場が近いのですぐ戻ってこられるから大丈夫なはずだ。
「それで行くか」
「燃料が少なくて落ちないか?」
「案外大丈夫なものだ、燃料計の針が下がる恐怖を克服すればな」
「はん、そんなこと……」
サイクスが笑い飛ばそうとしたがベルケの目を見て黙り込んだ。
先の海戦で、陸上から遠くの洋上へ飛び出し、暗闇の中を空戦で消費した乏しい燃料だけを頼りに戻ってきた出来事がベルケの胆力を強化していた。
「じゃあ、燃料を少なくして飛んでみるか。一度行くぞ」
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