第100話 戦闘飛行隊

「前方にハイデルベルク帝国軍航空隊を確認」


 西側からヴォージュ要塞に接近していた忠弥は前方に帝国軍の航空機多数を発見した。


「訓練通りに! 本部と第一小隊は続け!」


 忠弥は喋りながらハンドシグナルで僚機に伝える。

 無線機、特に大型になりやすい送信装置を付けることが出来なかったために、ハンドシグナルでしか通信手段は無い。

 しかし事前に作戦を伝え訓練したため、秋津皇国空軍第一戦闘飛行隊第一中隊一四機の各機は迷い無く行動に移る。

 まず、忠弥率いる本部の二機と第一小隊四機が、ベルケ率いる戦闘機隊に襲いかかった。


「馬鹿な、自ら数の優位を捨てるのか」


 忠弥が部隊を分割して少数で自分たちに襲撃することにベルケは驚いた。

 一四対一二と僅かながら機数で優位に立っているのに、その立場を放棄するなど愚かなことだ。

 チャンスではあったが、何かの罠に思え、攻撃を躊躇った。

 だが、考えている内に若い飛行士が前に出て迎え撃ちはじめた。


「仕方ないか」


 無線機がないため意思疎通に欠くのはベルケも同じだった。

 ベルケは数の優位を生かそうと正面切って戦う事にして飛行士の後に続いた。

 正面から銃撃を行おうと機種を敵機に合わせる。

 だが、その瞬間、皇国の機体が銃撃を始めた。


「!」


 最初に出て行った操縦士の機体が落とされた。皇国も戦闘機のみの飛行隊を作り上げたのは間違いない。

 皇国の機体は、何事もなかったかのようにベルケの隣をすり抜けていった。

 すれ違う時に飛行士の顔が見えた。その機体を操縦していたのは忠弥だった。


「くそっ」


 ベルケは悪態を吐くと反転して追いかけようとした。

 一機撃墜されたが、まだ数の上では優位だ。

 背後に回ろうとしたら忠弥達の六機は急降下して振り切ろうとしている。

 ベルケ達も降下に入った。だが、その時、背後から銃撃を受けた。

 攻撃に参加しなかった皇国戦闘機八機の内、四機がベルケ達の背後に回っていた。


「クソッ、囮だったか」


 直ぐに分散して逃れようとする。だが、敵機は執拗に背後を追いかけてくる。


「おりゃ!」


 何とか背後に回り込もうとベルケは機体を操縦する。

 そして、一機の背後に回り込んだ。


「貰った!」


 トリガーを引こうとしたとき、銃声が背後から聞こえた。

 咄嗟に左旋回して避ける。


「新手か!」


 更に四機の皇国機が背後に回ってきた。

 ベルケは攻撃どころでは無くなり、回避運動を続ける。それでも操縦のテクニックを駆使して振り切り、逆に背後に回った。


「よし」


 再び背後を取ったベルケは銃撃しようとしたが、直ぐに左旋回して離脱した。

 そして自分のいた位置に機関銃の銃弾が通り過ぎるのを見た。

 打ってきたのは先ほど離脱した忠弥の機体だった。


「クソッ、連続攻撃か」


 忠弥はベルケへの攻撃に失敗すると、不用意に近づいて来た他の一機へ銃撃を行った。

 不意打ちに近い形となり撃墜に成功。他の機も皇国の戦闘機一機を撃墜した。

 気が付くと、ベルケの戦闘機隊は半数が撃津されていた。

 そして上空に皇国の戦闘機四機が旋回し、先ほど逃した四機が上昇しているのを見てベルケは悟った。


「……常に背後を取れるよう連携しているのか」


 部隊を三隊に分けて、一隊が攻撃しているとき二隊は上空待機。一隊が攻撃して離脱したとき、敵が追いかけているなら上空待機中の一隊が、離脱する味方の援護も兼ねて敵の背後へ急降下して攻撃する。

 その間に、先に攻撃を行った一隊は上昇し、優位な体制を構築。

 それが終わると予備となり、残った一隊が攻撃を行い、次に攻撃を仕掛けた部隊の撤退を援護し、二番目の隊は離脱し上昇していく。

 あとはこれの繰り返し。

 役割分担を予め決め訓練して組織化した飛行部隊。

 これまでの単機での戦闘とは全く違う異質な、いや、進化した部隊だ。


「退却するぞ」


 ベルケは上昇すると味方の方向へ向かって戦場を飛び出した。

 それを見た部下達も味方の陣地へ向かって行き、退却していった。




「空軍初の勝利おめでとうございます!」


 味方の基地に戻って来た忠弥達は、基地要員達から大歓迎を受けた。

 秋津皇国初の戦闘機のみで編成され制空を目的とした飛行隊、第一戦闘飛行隊。

 その初陣でベルケの戦闘機隊と交戦しこれを降した。

 ベルケの航空隊六機撃墜を確認し、他多数に命中弾をあたえ、破損させた。味方の損害は、帰投後修理不能とされた二機と修理可能が三機のみ。撃墜比率一:三は悪くない。


「皆のお陰だ」


 ほんの一週間程度の訓練で何とかなった。

 本来なら一個飛行隊に所属する三個中隊全力で出て行きたかったが、他の中隊は訓練未了のため、置いていく事にした。

 飛行隊は三個中隊四二機と本部一個小隊四機プラス予備機八機の五二機で構成されている。これが全力で出撃出来るようになれば嬉しいのだが、今は編成が完結し訓練を修了した一個中隊のみだ。

 それでも編隊飛行で空戦は可能という事を証明できたのは大きい。

 まだ粗い所があり、二機を失ってしまったが、勝利の手応えは掴めた。


「これで勝利を掴めますね」

「いや、相手はベルケだ。こちらを真似て、編隊での戦闘を行ってくるだろう。戦闘は激烈になるだろうから皆、頑張って貰いたい」


 今日、第二小隊の小隊長として出撃した相原少佐が明るく忠弥は答えた。

 彼は空軍へ出向という形になり、忠弥の片腕となっている。本人は空軍への完全な転籍を求めていたが忠弥は後の事を考えて出向に止め、何時でも海軍に戻れるようにしていた。


「勿論です」

「だが、安心してくれ。今、第二戦闘飛行隊、第三戦闘飛行隊も編制中だ。近日中には編成を完結し投入可能になるはずだ」


 義彦が議会に予算を提出し大量の航空部隊を編成することが決定。大量の航空機が生産されることになった。


「それでもまだ足りない。皆、協力して貰うよ」

「勿論です」

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