第91話 前方ゴンドラ

「聞きましたよ! 二宮中佐!」


 忠弥と昴の間に飛び込んできたのは共和国航空隊のテスト少佐だった。

 先の会戦で航空隊の能力が注目され各国は航空隊の拡大を決定。

 パイロットや航空機関係者をかき集めて航空隊を作り、拡大していた。

 当然テストも含まれており特に飛行学校で忠弥の直接指導を受けたため特に注目されており、昇進して共和国初の飛行隊、第一飛行隊<コウノトリ>の隊長に就任していた。


「ベルケの奴が攻撃してきたそうですね」

「ああ、機関銃を装備して撃ってきた。プロペラに装甲板を付けてプロペラに当たりそうな為をはじいているようだ」


 鉛は鉄より柔らかいとはいえ無茶な方法をやる。


「何ご安心ください。私が撃墜して見せます」

「……何か考えているのかい?」


 嫌な予感がしたが、好奇心の方が勝って忠弥は尋ねた。


「つまりプロペラを避けて機関銃を付ければ良いのです!」


 そう言ってテストは自分の新しい機体を見せた。


「どうです! 私の自信作です!」


 そこにあったのは、ゴンドラの後ろにプロペラ、エンジン、操縦席が直列に並ぶ異形の飛行機だった。


「……い、一体何なのです」


 インパクトのある配置は勿論、得体の知れない恐怖を感じた昴は恐る恐る尋ねた。


「機関銃を撃つときプロペラが邪魔なら、プロペラとは別なところに付ければ良い。だが翼の上だと重量バランスが悪く、パイロットは狙いが付けにくい。操縦席の後ろだと社会が狭まる。そこで私の提案! プロペラの前にゴンドラを付けました!」


 固定脚から支持架を伸ばしプロペラの前にゴンドラを付け、そこに銃手を配置するという方法だった。

 フランス初期の珍戦闘機スパッドA.2のような機体だった。


「これで前方へ攻撃が出来、優位に立つことが出来ます!」


 テストは自信を持って言った。


「さあ、出撃です」


 そして喜び勇んで出撃していった。だが、見つけることは出来なかった。

 銃手が何かを叫んでいたが、間にあるプロペラのために意思疎通は出来なかった。


「うーん、機体がなんか重たいな」


 プロペラの前にゴンドラがあるため、プロペラ効率が低下しており、出力の割に推進力は無かった。

 運が悪かったと思ってテストは飛行場に引き返してきて着陸しようとした。

 そして欠陥が分かる。

 尾輪式――主脚の後ろに小さな車輪が付く飛行機を呼び、初期の飛行機や小型機などに多い。

 飛行機の重心を捉えるのに適しているのだが、現代では殆ど使われない。

 ブレーキが付いている主脚が重心前方にあるためブレーキを掛けると僅かな力の加減で左右にぶれてしまうからだ。

 そして、尾輪式にはもう一つ問題がある。


「うん?」


 ブレーキを強く掛けた瞬間、機体が前につんのめった。

 尾輪式は自転車の前輪だけブレーキを掛けたような状況になりやすく、主脚のブレーキが強すぎるとブレーキがききすぎて前が地面にめり込んでしまう。

 テストの機体の場合、前に銃手用のゴンドラを着けていた事もあり重心が前寄りだった。

 そのため前につんのめりゴンドラが銃手ごと潰されそうになった。


「おっと!」


 慌ててブレーキを開放し、昇降舵を操作して機体を引き起こし惨事は免れた。


「いやー、危ない危ない」


 テストは安堵の言葉を呟くが、死にかけた銃手は生きた心地がせず、次の搭乗を拒否した。ゴンドラの前方取り付け型は尾輪式と相性最悪だった。

 そしてテストの腕にも疑問を抱いていた。銃手が敵機を見つけてもテストは気がつかず危うき撃墜されるところだった。

 連絡手段が無い事が銃手とパイロットの間のコミュニケーションを奪い、仲を悪くしことも搭乗の原因だった。。


「どうしよう」


 銃手達のストライキにテストは呆然とした。

 そこへ忠弥が話しかけた。


「銃だけを装着するのはダメなのか?」

「え?」

「ゴンドラに人を乗せず機関銃だけ取り付ければ良いだろう」

「そうか、その手があったか!」


 喜び勇んでテストはゴンドラの改造を始めた。

 そして改造を終えるとすぐに離陸して立ち向かっていった。


「さあ来やがれベルケ! 相手をしてやるぞ!」


 テストが叫びながら左旋回すると横から銃撃が飛んできた。


「おう、来たか」


 真後ろに付けてきたベルケに向かってテストは更に旋回を強める。


「糞っ! 追いつけ!」


 距離を縮めようとするが、速力が上がらない。

 ゴンドラをなくしたとはいえ、機銃をプロペラの前に持ってきたため、やはりプロペラ効率が悪かった。

 ベルケがすぐに広報に回り込みテストに銃撃を加える。


「あぶねえっ」


 間一髪のところで、テストは避ける。

 直後、テストのすぐ横をベルケが通り過ぎた。


「貰った!」


 すぐさま機首を巡らし、ベルケの飛行機に狙いを定める。


「お終いだ!」


 テストは引き金を引いた。

 機銃の銃口から発砲炎が上がり、弾が飛び出しベルケへ向かう。

 しかし、旋回中のため、狙いが定まらず弾は空を切った。

 だが、空中に飛び出したのは弾だけではなかった。

 弾は、飛び出していく弾丸の後ろに発射の為に必要な火薬とそれを詰め込む薬莢によって構成される。弾を撃ち出した後、銃には薬莢が残るので次の弾を撃つためには薬莢を排出する必要がある。

 機関銃でも同じで、薬莢が放出される、それも大量に。

 プロペラの前に付いた機銃から放出された薬莢がプロペラに降り注ぎはじかれる。そのうちの数発がエンジンルームに入り、エンジンを傷つけ発火させた。


「おうっ」


 テストは慌てて離脱して消火しようとする。

 そこへ再び旋回してきたベルケが背後に回り、黒煙を上げているエンジンに止めを刺した。

 エンジンが完全に殺されたテストは、何とか姿勢を回復させ、地面に不時着した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る