第164話 ルーディッケ少佐
ルーディッケ少佐は、子供の頃に船乗りを目指し、家出同然で船乗りになった。
少年水夫として海の世界に入り以来、世界中の海を巡り、航海士の資格を得た後、海軍の予備士官採用で海軍に入隊し少佐の時に開戦を迎えた。
カルタゴニア大陸周辺は、船乗りの頃、よく回った場所であり、王国海軍によって封じ込められた帝国海軍が劣勢海軍の使う戦法、通商破壊を幾度か行い成功させた海域でもありルーディッケには適任だった。
この任務を命じられた時、ルーディッケ少佐は喜び、艦の名前にアルバトロスを付けた。
飛行船に搭載される飛行機の名前では無く、少年水夫の頃、嵐で海に流され数日漂流していたところ、ついばみに来たアルバトロス――アホウドリを返り討ちにして、絞め殺すと浮き輪代わりにして浮かび続け救助された。
このことをルーディッケはよく話しており、助けてくれたアホウドリへの感謝と、ついばみに来た恨み、それを返り討ちにした誇りと自慢から艦の名前に付けた。
飛行船の支援に必要な設備と物資を積み込んだアルバトロスは帝国本土の港を出港した。
帝国近海では連合軍の封鎖が行われていたが、レーダーのない時代でありルーディッケ少佐率いるアルバトロスは霧に紛れて封鎖線を突破。
その途中、連合軍の巡洋艦に捕捉され、臨検を受けたが、中立国の船舶に偽装してやり過ごした。
搭載していた係留塔や燃料、エンジンなども石油掘削のための資材だと偽り、大海原へ躍り出ていいく。
飛行船への補給を行うまでアルバトロスの存在は秘匿すべきだったが、ルーディッケ少佐は戦闘意欲の旺盛だった。
航行中、独航船を見つけると襲撃を繰り返し、カルタゴニア大陸へ向かう途中で五隻の商船と忠弥の飛行船団へ補給する物資を積載した母艦を拿捕。
その中の一隻へ捕獲した船と飛行船母艦の乗員を乗せて解放した。
その際に、ルーディッケ少佐は捕虜達に我々アルバトロスは皇国近海へ向かい襲撃を行うので、王国本土へ向かうよう指示した。そして解放した商船が見えなくなると針路を変更、本来の目的地へ向かった。
この船からの情報を受けて連合軍は、皇国近海を哨戒したため、ルーディッケ少佐率いるアルバトロスを取り逃がしてしまった。
そして見事合流予定地点である無人の諸島群へ到達し、ベルケ達飛行船部隊と合流。搭載していた豊富な物資を与えた。
特に、忠弥の支援に向かっていた飛行船母船を拿捕したのは良かった。
皇国海軍が徴用した商船を改造したため、軍人の監督官が乗っていたが、大半は民間人であり、軍艦に襲われ降伏、拿捕された。
拿捕したルーディッケ少佐は便利そうだったので、乗員を一部移乗させて、そのまま引き連れてベルケ達へ合流した。
拿捕した母船に積まれていた飛行船支援設備、補給用の物資――高品質のガソリン燃料、最新の疾鷹戦闘機、弾薬、整備部品などがベルケの手に入った。
「あなたが拿捕してくれたお陰で連合軍の飛行船部隊の性能を把握することが出来ます」
補充用に搭載されていた疾鷹ごと飛行船母艦をルーディッケ少佐が捕獲したことにベルケは感謝した。
捕獲した戦闘機の一部は本国に持ち帰り解析を行う予定だった。
ベルケの手でも分解、解析は行っおり、分解、組み立ては勿論、折りたたみ機能は驚いた。強度が低くなると危惧されたが金具を上手く設計しており、先頭起動しても翼が折れないようになっている。
搭載機数を増やす良いアイディアであり是非ベルケの航空隊にも取り入れたかった。
他にも発着艦装置の実物を手に入れることが出来て有用だった。
それでも、用途不明な機能があった。
特に上翼の右先端に付いている筒が不明だった。
筒から燃料タンクへ繋がっているのだが何故そのような構造か不明だった。
狭い飛行船内での燃料給油を容易にするための装置ではないか、と部下達は推測したが、本来の給油口が燃料タンク近くにあり、違うとベルケは判断している。
どのような物に使うかは結局分からず本国送りになった。
あとは調査結果を待つこととし、目の前の作戦に集中することにした。
「それと改造にご協力いただき、ありがとうございます」
「本艦の乗員と装備で出来ることは限られておりますが、助力する事が出来て嬉しく思います。それで、今後はどうしますか?」
「連合軍に対して奇襲攻撃を行いたいと思います。できる限りの事を行いたいのです。それと、支援の御礼も致したいので」
「支援は私が受けた命令ですが」
「ええ、ですが元々は通商破壊の名手でしょう。お手伝い致しますよ。これはれっきとした作戦です」
「南東領への支援は行わないのですか?」
「勿論行います。ですが、その周りで攻撃を行い援護すること、敵の戦力を引っかき回すことこそ我々の任務でしょう。そのためにルーディッケ少佐のお力をお借りしたい」
ベルケの言葉にルーディッケは獲物を前にした猛獣のような笑みを浮かべた。
「よろしいでしょう。存分に戦えるよう、助力を惜しみません」
「ありがとうございます。少佐の支援があれば作戦は成功したも同然です」
「全ては帝国のためです。マインラント! ユーバーアーレス!」
『マインラント! ユーバーアーレス!』
我らが帝国に栄光あれ、と唱和し宴は終わり、狩りの時間となった。
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