第384話 船舶航空郵便事業
「今すぐ契約を結んでください。そうすればすぐにでも融資を行います」
「しかし」
「これほどの好条件などありますまい」
メイフラワー合衆国の巨大資源会社の重役ヘンリー・メイグスは、アルヘンティーナの鉱山会社オーナーに迫った。
ライバル社の経営悪化によりアルヘンティーナの鉱山会社は取引先を失い経営が悪化。
新たな取引先を求めていた。
島津財閥に話を付けようとしたが、恐慌に対応するため皇国へ帰ってしまった。
鉱山会社の財政は火の車だ。取引がなくなったため入金がなく、七日後には、給与の支払いと負債の償還が待っており、支払えない。
早急に新たな取引を行わなければ倒産してしまう。
「間もなく支払いが必要でしょう。何を躊躇う必要がありますか」
「ですが」
アルヘンティーナの鉱山会社としてはメイフラワー合衆国だけに輸出するのは危険だと考えている。
もし、今回の様にメイフラワー合衆国で不況が起きれば取引がなくなる。
一つの国のみと取引、ではなく複数の国と取引をして一つがダメでも他が大丈夫なリスク分散を行いたい。
だが世界同時恐慌で頼れる国は少ない。
皇国は新たな産業を発展させており成長が見込める。
まだ先行きが不透明だったので契約はしなかったが、先日、メイフラワー合衆国で大型の契約を成立させた。
少なくとも、先行投資として契約を結んで良い位には思える。
それにすぐに金が入るなら、会社が存続出来る。
しかし、数日以内に入金されなければ、メイグスの言うとおり支払いが出来ず会社が破産してしまう。
しかもメイフラワーの会社から採掘機器を購入したためメイフラワーの通貨が必要だ。
向こうから支払期限の繰り上げを求められている。
ご無体だが、鉱山会社はメイフラワーから借り受けている立場のため強く主張できない。
「さて、契約を」
メイグスは契約を迫った。
「一寸待ちなさい!」
だが、少女の高い声が遮った。
「誰だ!」
「昴よ! 天に輝き道しるべになる星の名前を持つ美少女よ!」
部屋に入った昴は大声で叫んだ。
「その契約! 私達が締結します!」
「皇国の会社が支払えるのか。というかどうやってここに来た。船で帰国したはずだろう」
メイグスは昴が引き返せないタイミングを見計らって取引を持ち出したのに、予想より遙かに早く戻ってきたことに驚いた。
狼狽えるメイグスに昴は優越感に満ちた表情を浮かべて、語った。
「隅田丸は最新のサービス、航空郵便サービスを行っているわ。沿岸に一千キロまで近付いたら搭載した水上機をカタパルトで打ち出し、飛んで送り届ける事が出来るのよ」
長距離郵便、特に大洋を横断する場合、相手に届くのに一週間以上掛かる。
船の速力が遅いからだ。飛行機や飛行船だと早いが、便数がまだ少ない。
遅くても船便の方が便数が多く、定期的に動いている船の方が郵便輸送には安定している。
その中でも何とか速達性を上げようと、工夫をこらそうとした。
その一つが船に水上機を搭載し、カタパルトで打ち出す方法だ。
船内から入港前に相手に郵便を出せるというメリットもあり、他にはないサービスとして差別化を図ろうとして隅田丸には、水上機と打ち出すカタパルトを載せていた。
その水上機を使って二人は戻ってきたのだ。
運良く、水上機がアルヘンティーナへ到達できる範囲だったため、すぐに戻り契約現場に駆けつけたのだ。
「だが金はあるのか、メイフラワーの通貨か?」
「ええ、メイフラワーの貨幣で用意できるわ」
「貴様のような小娘が用意できるはずがない」
「そんなに不安があるなら、メイフラワーの銀行の残高照会してみて。五回分は支払えるだけの金額が入っているわ。私を舐めないで!」
ライバルである寧音が契約で手に入れた金なのだが、忠弥は黙っていることにした。
「さあ、オーナーどうなのどちらと契約するの」
「皇国と契約します」
「ばかな……」
「契約は契約です」
昴はメイグスに愉悦に満ちた笑みを送った後、鉱山会社のオーナーに向かって頭を下げて言った。
「迅速に支払いますので、私達も大量の資源を頂きます」
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小話
隅田丸の水上機とカタパルトによる郵便は、地球のブレーメンという客船で実際に行われていたサービスです。
客寄せのサービス、差別化を図るための宣伝という漢字で、経済性については、お察し、でした。
しかし客船から打ち出される水上機にはロマンがあります。
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