第279話 アイディアの出し合い

「さて、潜水艦の能力については分かったと思う」


 潜水艦を下りた忠弥達は早速、先ほど見聞したことを元に全員で作戦会議を始めた。


「一度潜られたら最悪二四時間浮上してこないのはキツいです」


 相原が言う。

 飛行機の航続時間は三時間程、母艦への帰還を考えると潜水艦の上空にいられるのはせいぜい一時間、長くて二時間程だ。

 飛行時間を延ばすにしても燃料タンクを増設する余裕はない。

 それに一人のパイロットが休み無く飛ばせるのは三時間が限界だ。

 二人乗りタイプもあるが見張りも必要なため、増やしたところで意味がない。


「発見後、飛行船で上空を監視するのが良いのでは?」


 飛行機に捜索させ、発見次第飛行船が急行。滞空時間の長い飛行船の特性を利用して潜水艦が浮上するまで見張り続ける。


「だが他の航空機の収容もある、いきなり移動すると他の航空機の回収が難しくなる」


 忠弥達は潜水艦捜索のために扇状に飛行機を飛ばしている。

 各機定められた進路を一定時間飛び一度九十度左右どちらかに変針してから、また暫く飛び、更に九十度曲がって母艦に向かう飛び方だ。

 角度を変えて数機を同時に飛ばすことにより扇形に広がり広い範囲を哨戒できる。

 飛行機も母艦のいる場所へ戻ってくることが出来る。

 だが、帰投地点にいる母艦が移動してしまうと予定位置に戻ってきた航空機は迷子になってしまう。


「何も母艦である飛天型を向かわせる必要は無い、雄飛型クラスでも十分だ」

「ですが雄飛型も飛行機を搭載しており、捜索に必要です」


 広い洋上を哨戒するために雄飛型も集め搭載機を飛ばしている。

 とても潜水艦の上空につきっきりにするわけにはいかない。

 だが忠弥が一つ提案した。


「軟式飛行船を使うのはどうだ?」

「ああ、開発中の奴ですか」


 飛行船には軟式と硬式の二つのタイプがある。

 硬式とは骨組みの上に皮膜を被せ、内部に浮室を設けそこに水素を詰め込んだタイプで、飛天や雄飛、そしてカルタゴニアがこのタイプだ。

 骨組みがあり頑丈で、長距離飛行に向いている。

 一方軟式は風船にゴンドラがくっついたような構造で、ガスで浮室を膨らませている。

 構造が簡単なため建造も容易だが、ガスを高圧にしないと船体が変形してしまう、大型だと変形しやすいという欠点がある。

 また構造物がゴンドラのみという特徴は製造しやすいという長所がある。

 だが、エンジンなどの重量物をゴンドラに全て搭載しないと行けないため騒音が酷い。

 ゴンドラの大型化による性能低下――船体から張り出しているため速力低下、重量が一点に集中するためにバランスが低下するなどの欠点も併せ持つ。

 そのため、空中空母を主力とする皇国空軍では、これまでは大量建造されていなかった。


「沿岸部を飛行するだけだから大型にする必要は無い。多数を手早く作って各地に配備して潜水艦を見晴らせよう」

「いいですね。軟式なら建造も簡単ですし上手くいきます」

「でも、潜水艦を追いかけ続ける事が出来るかしら」


 昴が疑問を述べた。

 いくら飛行船でも何時までも飛んでいることは出来ない。

 軟式の場合、ゴンドラの位置もあって空中給油がほぼ不可能。

 上空から落とすホースを受け取ることがほぼ不可能だ。

 横付けも難しく、浮体維持のため浮体の上部に人が立ち上がることも出来ない。


「潜水艦は船だ。船なら船に任せよう」

「どういうこと?」

「潜水艦を発見したら、攻撃。だが、失敗したら味方の駆逐艦を呼び寄せて、監視させるんだ。耐えきれず浮上してきたところを攻撃させるんだ」

「止めを私達は刺さないの?」

「上空援護は行う。けど、切れ目のない監視が必要だ。何時までも航空機を貼り付けておく事は出来ないしね。出来るだけ飛ばしておくけど、無理だから船に頼むよ。海に浮いているだけの彼らの方が長い時間洋上待機出来るしね」


 エンジンを動かし続けなければ落ちてしまう飛行機に対して元から浮力のある船の方が監視にはもってこいだった。


「だとすると、味方を誘導するための装備が必要になるな」

「その前に、潜水艦を攻撃するための装備も必要ですよ」

「だな、爆弾ではなく、もっと海中深くで爆発するようにしよう。それと、ロケット弾も試してみよう。意外と、防御力は薄そうだし、一部でも破壊できればかなりダメージになる。あと、味方艦への連絡方法だな」

「無線が良いでしょう。機上搭載出来る小型無線機が発明されましたから復座機に乗せましょう。それと味方に敵潜水艦の位置を知らせる標色素と発煙弾も乗せましょう」

「重すぎて乗せられなくない?」

「潜水艦攻撃は二機一組にして、一方はロケット弾と爆雷、もう一方は標色素と発煙弾、無線機を載せるようにしよう。チームワークだ。それぞれ役割を決めて装備を分担して搭載し敵潜水艦にあたろう」

「上手くいきそうな気がしてきました」

「早速、準備しましょう。早く試してみたいです」


 会議を終えた忠弥達は自分達のアイディアを試したくして急いで基地に戻っていった。

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