第280話 対潜戦術の効果
「今度こそ仕留めるぞ!」
「おおうっ!」
忠弥のかけ声に全員が威勢良く返事をする程、再出撃した飛天の中は熱気に包まれていた。
この一週間、各々が開発、準備した装備を持ち込み実際に使うのだ。
本来なら、試験を経てから使用するのだが、戦時下故、物資不足が深刻化する王国のためにすぐさま出撃して試すことになった。
それだけ状況は切迫していた。
故に隊員達のやる気は十分だった。
近頃王国で出される毎朝の朝食、かつて三枚だったトースト二枚の食事を見ては、なんとかしてやろう、俺らがやらねば誰がやる、といった気持ちになる。
エネルギーの溢れている彼らには危険もお構いなしだった。
「全機出撃!」
「おうっ」
忠弥の命令でパイロット達は疾鷹に乗り込み、出撃していく。
「今日こそは仕留めてやる」
普段は冷静な相原は特にやる気十分だった。
メンバーの中心になって開発に当たっていたからだ。
忠弥からアドバイスは貰ったが、新装備の開発、戦術の考案で楽しくやらせて貰ったのだ。
実戦で成果を発揮したくて相原はウズウズしていた。
普段昼夜の発明の暴走を諫め、空軍の組織運営に専念させる役回りなのだが、新進気鋭の空軍軍人らしく自ら新しい装備を作り試したがるのは相原も同じだった。
「帆船らしきものあり」
後席が早速怪しい船を見つけて報告してきた。
「確認する」
相原は機体を目標に近づけていき旋回する。
乾舷が異様に低い。
「潜水艦だな。母艦に通報。このまま攻撃する」
機首を潜水艦に向けて攻撃態勢を取る。
見破られたと分かった潜水艦は擬装の帆を外して、潜航しようとする。
「逃がすか!」
主翼したのロケット弾を発射して、先制攻撃。
潜水艦の周囲に水柱が上がるが撃破出来ていないようで潜水艦は潜航しようとしている。
「まだまだ」
上空を通過する瞬間、胴体下部に収めていた爆雷を投下。潜水艦の周囲に落下し、潜水艦の真下で爆発した。
「どうだ」
一連の攻撃を終えた後、相原は上昇して下を見張る。
「逃がしたか」
やきもきしていると潜水艦が浮上した。
船体が損傷したらしく潜航不能になったようで、沈没を避けるため浮上したようだ。
「やりましたね」
「ああ、だが止めを刺せていない。とはいうもののもう攻撃手段がない」
色々と積み込んでいるためロケット弾も爆雷も使い果たしてしまった。
「大佐、味方の航空機です」
王国軍が作り出した双発爆撃機だった。
帝国への報復爆撃を企図して製造されたが、忠弥がベルケ側の反撃と無差別爆撃に反対し、投入されていない。
配備されたものの訓練のみの時間を過ごしていた。
そこへ忠弥が、哨戒機としての利用を提案。
爆雷とロケット弾を満載し潜水艦狩りに投入された。
「発煙弾を投下する」
味方に敵潜の位置を知らせるために赤い発煙弾を投下した。
応援にやってきた味方期は赤いスモークを見つけるとすぐに接近、敵潜を見つけて攻撃を開始した。
来襲した爆撃機の前に、海に潜るという最大の能力を失った潜水艦は対空能力の無い小型船に過ぎず、集中攻撃を受けた。
乗員は脱出し、潜水艦は沈んでいった。
「撃沈だ!」
沈んでいく潜水艦を見て相原は凱歌を上げた。
「上手くいっていますね」
戦果報告を集計していた草鹿は嬉しそうに言った。
新装備と新戦術は上手くいっている。
ロケット弾と爆雷を装備して潜水艦に突っ込んだ瞬間、ロケット弾で一撃。さらに爆雷を投下して潜水艦の真下で炸裂させダメージを与える。
爆発の力は上へ向かう性質があるので、海面で炸裂する爆弾より、海に深く、潜水艦の真下に潜って爆発する爆雷の方がダメージを与えやすい。
これで見つける事が出来る。
「失敗しても取り逃がすことが減ったのもよい」
敵潜水艦の撃沈もそうだが、仕留め損なっても応援を呼べる。
万が一、日没を迎えたとしても、近海の王国海軍駆逐艦を呼び寄せ潜水艦の頭を抑えている。
そのため潜水艦は浮上出来ず、苦しくなって浮上したところを仕留めていた。
潜水艦の撃沈数は急上昇。
反対に商船の被害は激減していた。
「このまま、潜水艦を封じるのも時間の問題ですね」
司令部には楽観的なムードが広がっていた。
だが忠弥は黙り込んだままだった。
絶対に一方的にやられっぱなしではない。
空中機動部隊が出てきた以上、帝国は対応策をベルケを前に出してくると確信していた。
そしてそれを肯定するかのように通信が入ってきた。
「哨戒機より緊急電! 敵機の攻撃を受ける!」
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