第319話 閉塞船

「まさか、飛行場に兵士を乗せた飛行機で直接乗り込んだあと、背後から沿岸砲台を破壊するだと!」


 空戦の最中上空から相原達の攻撃を一部始終を見ていたベルケは驚愕した。

 占領するには大量の兵士が必要であり幾ら大型機でも飛行機では十分に運べない。

 いや、兵士の動きは熟練のそれだ。

 優秀な兵士なら、徴兵された新兵の三倍の働きは見込める。

 少数精鋭で部隊を編成し投入すれば十分に活躍できる。


「だが、周辺の部隊五万の攻撃には耐えられまい」


 幾ら再編成と、新兵が含まれているとは言え飛行場と砲台の周辺に展開する帝国軍は一個軍団五万人。

 飛行場に下りたのは千名もいまい。

 簡単に制圧できる。

 そして気がついてベルケは絶望する。


「橋を破壊されていた」


 強行着陸前に飛行場や沿岸砲台へ通じる橋が破壊され、部隊は移動不能だ。

 運河などを渡河するにしても小銃やその他装備品を担いだまま渡るには時間が掛かる。

 それに渡河中に敵機に攻撃されたら、たとえ少数でも簡単に大きな損害を受けてしまう。

 五万の大軍がいても敵がいる場所へ進軍できなければ、無意味だ。

 上空を制圧されいつでも地上を攻撃される状態では到着もままならない。

 少数の部隊で隠れながら移動する事はできるだろうが、それでは各個撃破されてしまう。

 結局、忠弥達戦闘機隊が引き上げるまで地上は強行着陸した部隊に破壊の限りを尽くされる。


「だが、沿岸砲台を破壊したところで何も……」


 言ったところで沖合から接近する艦艇を見つけた。

 大型船だ。

 それも運河を塞いでしまうような大きな船。


「閉塞船……」


 海軍からのレクチャーをベルケは思い出した。

 閉塞船戦術とは水路や運河に大型船を突っ込ませ文字通り栓をして航路を塞ぐ作戦だ。

 海軍の戦術としてはオーソドックスで日露戦争の旅順戦で使われたし、21世紀でもクリミア併合のさいロシアがウクライナ海軍の動きを封じるのに使った。

 上手く水路の真ん中に沈めることができたら、港湾を使用不能にできる作戦だ。

 もし潜水艦が出撃する水路に閉塞船を沈められたら、ブンカーが無事でも潜水艦は出撃不能になる。

 防御用の機雷が敷設されているが、航空偵察で位置を把握しており、閉塞船は帝国の機雷に触れることなく、水路へ突っ込んでくる。


「沿岸砲台は……破壊されたか」


 閉塞船を撃退する沿岸砲台は突如降下してきた兵士達によって破壊されている。

 しかも閉塞船を誘導するように蒼と緑の炎を上げている。


「誘導も完璧か。撤退も手段を用意しているだろう」


 閉塞船ならば沈めた後の脱出手段を用意しているハズだ。閉塞船の乗員も沿岸砲台襲撃部隊も一緒に脱出する事が出来る。

 完璧な作戦だった。


「だが、塞いだ程度ではブンカーは無事だ」


 水路を封鎖されるのは痛手だが、取り除くことは出来る。

 潜水艦整備用として換えの効かない精密機械を保有するブンカーの整備補修能力を失うより痛手は少ない。

 攻撃を防げなかったのは、ベルケのミスだが、ブンカーが無事なのがせめてもの救いだった。

 だが、ベルケの慰めを切り裂くように、十数機の機体がブンカーに向かって突進していく。


「新たな大型機だと!」


 ブンカーを破壊するための機体だとベルケは思ったが、違和感を感じた。

 全て飛行艇に見える。

 確かに飛行艇は着陸脚に力が加わる陸上機より大型にし易いのが現状だ。

 だが、艇体が邪魔して大型の爆弾を重心のある中央部に搭載できない。

 そのために双胴飛行艇を計画しているが、連合いや皇国空軍も実戦配備はまだ先のハズだ。

 大した脅威にはならないはずだ。

 だが相手は忠弥。

 何も考えずに投入するとは考えられない。


「あの機体を攻撃しろ!」


 ベルケは内陸部に侵入した飛行艇を攻撃しようとした。

 だが、周囲を飛び回る初風に邪魔されて、攻撃できなかった。

 その間に飛行艇は内陸の方向へ、潜水艦ブンカーが隣接する人造湖へ突進して行く。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る