第318話 無反動砲付スクーター
「ぐへえ~っ」
目的地の砲台近くに着いた優里亜達はグロッキーになった。
「揺れが、酷すぎる……」
奪った帝国のトラックの揺れが酷すぎて十分ほどの運転でも振動で乗っていた彼らは、ふらふらになってしまった。
「タイヤが鉄製だからな」
連合国の潤沢な資源を購入できる皇国の自動車は、全てゴムタイヤを使用している。
だが、海上封鎖された帝国は、海外からゴムが輸入できず、鉄製タイヤ、ホイールのまま自動車を走らせているようなものだ。
当然振動は酷く、乗り心地は最悪。
機械への悪影響も多く、故障が多い。
それでも自動車が必要なため帝国軍では使われている。
しかし相原達は慣れていないためふらふらだ。
当初の予定通り歩いて目標へ向かった方が良かったのでは、と思ったくらいだ。
「兎に角、砲台を占領するぞ!」
ふらふらでも相原は部下を叱咤して、目標である砲台に向かって突撃を図った。
沿岸砲台は、沖合から接近する船を迎撃するために設置されている。
そのため海に向かって砲口が向いている。
だが、陸から来る敵軍など想定していないため陸に向かって撃つことは出来ない。
空からの攻撃を恐れて掩体壕を掘ったのも徒になった。
爆風が内部に入らないよう開口部を海側のみに制限したため、砲身を内陸砲方向へ向けられなくなった。
歩兵強襲を想定した陣地もあったが、海から侵入してくる事を想定している。
だが背後の味方飛行場に飛行機で強行着陸して占領し、そこから攻め込んでくるなど想定外で背後を守る陣地など無い。
「突撃!」
相原達は突撃を行った。
帝国軍も反撃してきたが一発毎に手動で再装填が必要なボルトアクションの小銃のみ。
引き金を引くだけで連射可能な短機関銃を装備した相原達のほうが火力が高い。手榴弾も装備しており、特火点や敵の居そうな場所に次々と放り込み、掃討していく。
しかも制圧にあたる兵士達の練度も良く進んで行く。
だが、最後の防衛線、大砲を守る壕に立て籠もった帝国兵が頑強に抵抗してきた。
「やるな」
手榴弾を投げても届かない場所に隠れながら射撃している。
短機関銃で制圧しつつ突撃する方法もあるが、景気よく撃ちすぎたため残りの弾薬が心ともない。
そんな時後ろから、軽快なバイクのエンジン音が響いてきた。
「お待たせしました!」
やってきたのはバイクに乗った皇国兵だ。
バイクは島津製作所が作った小型バイク、所謂スクーターだ。
ただし、側面に細長い筒、無反動砲を装備していた。
ベスパ 150 TAP
第二次世界大戦後、フランスが空挺部隊用に開発した機動火力装備。
スクーターに七五ミリ無反動砲を装備しただけの兵器だ。
空挺部隊は装備の制限――輸送機に乗るため、輸送機に乗せられる装備しか持って行けない。
大型の大口径砲や車両は持ち込めない。
だからパラシュート降下後は、手持ちの火器、小銃や手榴弾などの個人携行火器しか使えない。
降下した無防備な状況で攻撃力防御力に優れる戦車部隊に攻撃されたら壊滅してしまうのだ。
しかも降下に適した場所は少なく、目標――無傷で手に入れたい橋や拠点から離れている事が多く、降下後の移動力が徒歩のみで目標の確保に失敗することが多かった。
そんな空挺部隊に火力と機動力を提供しようとフランスが開発したのがベスパだ。
珍兵器扱いされるが、狭い第二次世界大戦後の輸送機に乗せるにはこれぐらいしか無かった。
空挺戦車という物もあったが搭載制限により小型、低防御、低火力で通常戦車に太刀打ち出来なかった事を考えれば、十分に活躍できる車両だろう。
忠弥もこの点を、特に搭載数が制限される爆撃機改造輸送機に乗せる事を考えれば、無反動砲付スクーターしか選択肢は無かった。
時間制限がある中、銃で制圧が難しい遠くから帝国する連中を撃破する重火器を飛行場から離れた砲台まで移動させて使用するには
「良いぞ! 射撃してくる砲台を狙え!」
火力が現れた事を相原は喜び、目標を支持して撃たせる。
無反動砲が火を噴き、一発で砲台の開口部に砲弾が飛び込んだ。
至近距離で炸裂した榴弾で帝国兵は吹き飛ばされ、反撃はなくなった。
「突入!」
相原は機会を逃さず突入した。
念のため、砲台の中に手榴弾を投げ入れて吹き飛ばしてから入りこむ。
「爆薬の設置急げ! 砲台を破壊するんだ!」
帝国兵の遺体しかないのを確認した相原は部下に命じて、砲台の大砲と弾薬庫に爆弾を仕掛ける。
「点火!」
号令と共に激しい爆発が起き、帝国軍の砲台は破壊された。
「第二段階成功。第三段階の誘導に入る。当初の位置に炎を上げろ。撤収準備! 点呼をして人数を確認しろ。一人も置いていくな!」
「了解!」
相原の命令で部下達は所定の位置へ向かった。
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