第317話 強行着陸

「強行着陸五分前!」

『五分前!』


 相原が操縦席から叫ぶと、狭い機体で左右の壁に交互に座る兵士達が返事をする。


「頼むぞ成功させたいからな」


 操縦桿を握る相原は僚機に向かって呟いた。


「しかし無謀な作戦だな」


 相原は作戦立案の時のことを思い出した。

 航空爆撃では砲台もブンカーも破壊できない。

 ブンカーを貫いて破壊できる大型爆弾がないからだ。

 ならば、歩兵を突入させ施設を破壊する。

 しかし、洋上からの侵入は沿岸砲台の餌食になる。

 だったら、空から歩兵を運べば良い。

 だが飛行船だと鈍足で落とされてしまう。


「足の遅い飛行船でダメなら、速い飛行機で向かおう」


 という忠弥のひと言で大型の飛行機、王国のページⅢ爆撃機を輸送機に改造して兵隊を乗せて突入させることを思いついた。

 しかし搭載力が限られる飛行機では大勢の兵隊を輸送することは出来ない。

 ならば少数精鋭で効率よく行う。

 幸いにも、帝国が東部戦線で少数の精鋭からなる突撃隊を編制し、敵の後方へ密かに送り込む作戦を行い成功させていた。

 連合軍も似たような部隊を編成し、実戦投入しようとしていた。

 彼らの一部を、この作戦に、航空機を使った突入作戦に組み込むことを忠弥は提案。

 実行に移された。

 作戦を秘匿する為、彼らを飛行場警備部隊として編成。

 防御対象として沿岸砲台を模した建造物を作り訓練を積ませた。

 万全の準備を整えて、作戦は実行に移された。

 秘匿は上手くいったようで、完璧な奇襲となった。


「しかし狭い機体によく載せるな」


 爆撃機の改造で作った即席の輸送機は狭い。

 重量物を運ぶという意味で爆撃機と輸送機は同じだが、機体の大きさが全く違う。

 小さくて重い爆弾のみを運ぶ爆撃機は敵の攻撃を振り切るために機体が細いのに対して、輸送機は人や体積が大きい物資を輸送する必要があり機体が大きく速力が遅い。

 そのことに気が付かず、旅客機を爆撃機へ改造して早々に足が遅いという欠点が明らかになった機体も多い。

 逆バージョンもあり、爆撃機の機体が狭すぎて輸送機としての能力が、載せられる兵員の人数が少ない事になった。

 ページⅢの改造機が正にそれで作戦参加者は狭い機内に詰め込まれ窮屈な思いをしてた。

 だが、専用輸送機がまだ完成していないこの世界では、既に完成している爆撃機を転用するしかなかった。乗り込む兵士達には窮屈な思いを我慢して貰う。

 グライダーもあるし投入しているが、数が足りないため、爆撃機改造の輸送機も使う事になっていた。

 それに、離陸できる機体は必要だった。


「行くぞ! 準備良いか!」

『準備良し!』


 装備を点検し終わった兵士達が叫ぶ。

 王国と皇国の混成部隊だが、士気は高い。

 王国へ向かう輸送船を沈める帝国潜水艦の基地へ痛打を与えるという痛快な作戦。

 自分達の日々の食糧を沈める連中の家を破壊できるのでこの程度の窮屈さは我慢できた。


「着陸!」


 相原は予定通り無傷で残された滑走路へ進入した。

 格納庫への爆撃で散乱した破片が機体を揺らしたが、相原は機体を巧みに操縦し着陸させた。


「降りろっ!」


 停止と同時に後ろの兵士達に声を掛けると、彼らはドアを開けて外へ飛び出した。


「うおおおっっっ」


 混乱する飛行場の帝国軍兵士達に短機関銃や手投げ弾を投げつけ撃破していく。

 爆撃で混乱したところへ滑走路へ強行着陸するなど想定していなかった帝国軍兵士達は、突如現れた相原達をみて驚き混乱する。

 反撃など出来るはずもなく、一方的に攻撃され倒れていった。


「残敵はいないか!」


 相原は部下達に尋ねた。

 乗ってきた輸送機の安全確保の為に飛行場の確保は絶対条件だ。

 グライダーは勿体ないが置いていく。

 回収している時間などない。

 だが、彼らが安全に着陸するためにも飛行場確保は最優先だった。


「各所の制圧完了しました」


 兵士がキビキビと答える。

 経験豊富な下士官兵を中心に編成したお陰で手際が良い。

 普通の部隊だったらこの三倍の人数と倍の時間が掛かる。

 短時間で制圧する作戦に危惧を抱いていた相原だったが、無事に制圧段階を終えられて、ほっとした。


「作戦通り、各機の状況を確認。離陸できる機体へ負傷者を乗せて直ちに離陸させろ! 離陸前に滑走路の点検も忘れるな。残りの部隊は予定通り砲台へ向かえ!」


 相原はすぐさま次の指示を出した。

 彼らの目的は、飛行場に近い沿岸砲台の制圧と破壊だった。

 だが進撃しようと飛行場の兵舎を通り過ぎようとすると人影が飛び出してきた。


「待って! 撃たないで!」


 皇国語が飛び出してきて相原は引き金から指を離した。


「山本少尉か」


 撃墜された黒鳥のパイロットがいると聞かされており、すぐに気が付いた。


「ここにいたのか、怪我は」

「大丈夫です。爆撃の混乱で脱走出来ました」


 激しい爆撃を受けた捕虜の見張は逃げだし、優里亜は聡美と一緒に逃げだし、運良く相原と合流したのだ。


「これから砲台の占領に向かう! 急げよ!」

「あ、相原大佐! あちらにトラックがあります」


 捕虜になっても脱走の機会を狙って周りに注意を配っていた。

 だから、窓と散歩で見える範囲で周囲の状況を探っていたのだ。


「そいつはありがたい。運転できる者は運転しろ!」


 戦場経験と訓練が行き届いた兵士で構成されるため、運転できる兵士もいた。

 それに空軍の場合、航空機への地上支援、整備、給油、移動などで車を使うことが多いし、島津自動車の販売もあって自動車の装備率が高く、乗れる兵士が多い。

 トラックを奪える可能性が少ないため作戦から外していたが、敵のトラックを使えるなら使ってしまおう。


「見つけました!」


 優里亜の言うとおり、トラックがあり、すぐに乗り込み発進させる。


「よし、乗り込んだな砲台に向かって前進」


 相原は部下達を乗せて前進させる。


「違います! 砲台への道はあっちです!」


 車を走らせると、優里亜が叫んで道を教える。


「よく分かるな」

「何度も上空を通りましたしここ数日、地上にいましたから」


 ブルッヘ偵察のために航空地図を何度も見ている上、上空からも見ている。

 しかも地上にいたため、ブルッヘ周辺の地理に詳しくなっていた。

 お陰で優里亜の案内は正確で、相原達は迷わず砲台に向かうことが出来た。

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