第320話 飛行艇
「味方の援護のお陰で突進できる。このまま一挙に目標へ突入するぞ」
飛行艇の中で海軍陸戦隊出身の堀内中佐が部下達に命じた。
今回の作戦の為に、編成された特殊部隊を率いている。
元々、王国海軍が潜水艦を使い、工作員などを帝国の沿岸部へ送っていた。それを聞いた皇国海軍が自分たちも行おうとした。
しかし、まともな潜水艦がない。
「ならば、皇国が保有し世界で最も優れている飛行機を使おう!」
という話になった。
忠弥も航空機の活躍の場が広がると協力したが、早速問題がみつかった。
「敵地でどうやって離着陸する」
陸に下りるには飛行機は着陸する必要がある。
だが、何処が安全なのか誰も知らない。
当たり前だが、現代社会で飛行機が好き勝手に下りれないのは滑走路がある場所しか下りられないからだ。
それもキチンと整備された安全が確保された滑走路を使う必要がある。
釘などや落ちていてタイヤが破裂し、破片が燃料タンクを直撃して炎上墜落という事故さえ起きかねない。コンコルドの運航にトドメを刺したのは滑走路上の破片をタイヤが巻き上げ燃料タンクを貫通し炎上墜落した事故があったからだ。
そして、飛行機では隠密行動に不向きだった。
飛行するのにエンジン音を響かせて仕舞い敵に気付かれる。
落下傘降下での侵入を選んだが、降下した工作員を回収する方法が無かった。
結局王国海軍の潜水艦に回収して貰う必要があった。それでも行動範囲が広がる、行きだけでも目標近くに降下し、沿岸部まで歩き潜水艦に回収して貰えるだけでも成果があった。
それでももっと飛行機を活躍させたい。
そんな考えを抱いているときブルッヘ襲撃作戦が立案された。
「敵の懐へ飛行機で直接乗り込み、施設を破壊する」
一人二人の潜入が無理なら数十人、数百人による強襲作戦で飛行場を占領し目標を破壊する。
これが忠弥の考えた作戦だった。
確かに人数を増やして飛行場を占拠し一部を施設破壊に向かわせれば良い。
幸い、沿岸砲台は飛行場が近く、この作戦で十分に役に立つ。
だが、潜水艦施設の中核であるブンカーは違う。
人造湖の周りが泥濘地のために、飛行場が近くに無く、遠い。
スクーターを持ち込んでも数人だけでは役に立たないと判断された。
また、輸送機の数が足りなかった。
王国が自分たちの双発爆撃機を輸送機に改造することに難色を示したためブンカー攻撃のための兵隊を輸送機まで手配できなかった。
一時はブンカー攻撃中止も考えられた。
だが
「湖に飛行艇を下ろしたらどうだろう」
と忠弥が提案した。
潜水艦退治に飛行艇にソナーを積んで着水させて潜水艦探知に使えないか、と大型飛行艇晴空を空軍は配備していた。
21世紀ではソナーブイが主流で忠弥も似たような物を作り上げていたが、ダメだった。
使えるバッテリーと真空管の容器がガラスしかない世界では着水の衝撃で真空管もバッテリーも壊れた。
樹脂で固めて何とか割れないようにしたが、通信機の出力が低い上に雑音が酷くて潜水艦の音を探知できない。
音波を出して潜水艦を探知しようにもバッテリーが貧弱で弱い音しか出せない。
だから、日本の救難飛行艇US2の祖先である対潜哨戒飛行艇PS1のように飛行艇にソナーを付けて着水して潜水艦を探知しようとした。
飛行機ならば、ブイ以上の性能を持つソナーと機器を、バッテリーではなく発電機を積めるからだ。
だが、実際に作戦に投入してみると、荒波の多い外洋では着水できる機会がなく、むしろ着水時に事故、波に煽られて横転して大破する事例が多く任務中止に。
PS1もフロートの破損で転覆したり、機体の底に穴が空いたなどの事例があって喪失機が多いため、致し方ないことだった。
結局、輸送任務以外に大型飛行艇は使えなかった。
そんな時、ブルッヘへの強襲作戦が立案され参加させることにした。
現在の技術状況では陸上の飛行機より飛行艇の方が大型化しやすい環境だった。
そしてブンカーの近隣に使用できる飛行場が無いため、襲撃部隊の移動に多大な時間が掛かる。
脱出するために沿岸部へ移動する時間も飛行艇でそのまま飛び立つことが出来るなら問題ない。
潜水艦より喫水の浅い飛行艇ならば着水にも問題ないし、近隣にはブンカーへ入れない潜水艦や補給物資を積んだ川船のための桟橋がある。
そこに乗り付ければ兵士を下ろして攻撃できる。
直接乗り付けられるなら短縮になる。
実施改造して試してみると、輸送機以上に兵士を乗り込ませることに成功した。
かくして、飛行艇部隊は襲撃部隊員を乗せてブンカーへの襲撃を担うことになった。
「目標の湖です!」
「よろしい! 着水し襲撃開始だ!」
堀内は命じた。
湖の静かな湖面に着水しブンカー近くの桟橋へパイロットは飛行艇を滑り込ませた。
機体が停止すると堀内は命じた。
「突撃!」
号令と共に
兵士が達が飛び出し、ブンカーに向かって殺到する。
まさか兵士の襲撃を受けると思っていなかったブンカー周辺の将兵達は混乱し、短機関銃を持った堀内達の攻撃の前に倒れていく。
「ブンカーへ突入しろ!」
「ダメです。扉が塞がれています」
空襲で内部へ爆風が飛び込まないように対爆扉が閉じられていた。
「歩兵砲を持ってこい!」
「はいっ!」
歩兵は敵の陣地などを破壊するための小型砲を装備している。飛行艇にギリギリ搭載可能だったため分解して乗せてきた。
彼らは苦労して飛行艇から部品を下ろすと、陸で組み立ててブンカーの扉の前に持ってきた。
扉の継ぎ手に狙いを定め命令を待った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます