第321話 龍飛被弾

「させるか!」


 ブンカーへの攻撃を見て、ベルケはプラッツⅣを駆って地上掃射を試みる。

 目論見は成功し、数人を倒すことが出来た。


「やらせない!」


 一方の忠弥もベルケの攻撃を邪魔するべく、初風を向かわせた。


「くっ、仕方ない」


 忠弥の攻撃を受けて、ベルケは離脱していった。

 猛烈な空戦で弾が切れかけていた。

 後方で補給が必要だった。


「逃がしたか、だが、何とか防いだな」


 ブンカー上空の制空権を確保した忠弥は、安堵した。


「しかし、弾が心とも無いな」


 残弾数を確認すると、既に二割を切っている。


「補給のために戻る」


 忠弥は無線で知らせると、龍飛に向かって機体を反転させた。

 既に龍飛の周りには、忠弥と同じように弾薬補給の為にやってきた初風が多かった。


「激戦だな」


 補給を受ける機体が多いことに忠弥は戦いの激しさを想像する。

 しかし、その時、数機の機体が接近してくるのが見えた。


「不味い!」


 帝国軍の攻撃機ファルツの八機編隊だった。

 ブルッヘ爆撃と共に敵艦艇接近の通報があり、撃退するため彼らは出撃した。

 だが空戦による混乱で、迂回コースを取っていると、偶然にも龍飛を発見してしまった。

 彼らは異様な形の龍飛を見て驚いたが、航空機を発艦させているところを見て航空機のための母艦と確信。

 重要目標と判断し独断で攻撃を決行するべく龍飛に向かって高速で接近していく。


「させるかっ!」


 忠弥が叫び、ファルツを攻撃しようとする。

 二つある四機編隊の内の一つを、攻撃して二機を同時に落とす。

 付いてきていた昴も一機を落とし、残り一機は爆弾を落として逃走した。

 だが、残りの編隊は龍飛に向かって突っ込む。

 忠弥は旋回して銃撃を加え、一機を撃墜したが、そこで弾切れとなった。

 昴も弾切れを起こし、撃墜できなかった。


「畜生! 龍飛の左舷側だ! 誰か撃墜してくれ!」


 忠弥は叫ぶがダメだった。低空を飛んでいるファルツは海の色に紛れており、見つけるのは困難だった。

 そして気が付いた時には龍飛の上空にファルツが現れた。

 ファルツは、大胆かつ慎重に爆弾を投下した。

 三機のファルツが投下した爆弾は一二発、そのうち命中は二発だけだった。

 だが、それぞれ飛行甲板の前方と後方に命中した。

 実験艦である龍飛は航空機の運用のためだけしか想定されて折らず防御は殆ど無い。

 飛行甲板は爆発によってえぐれ大きな穴が空いてしまった。


『龍飛被弾! 龍飛被弾! 発着艦不能!』


 忠弥は無線機で叫んだ。

 初風を運用する龍飛が被弾し母艦としての機能を喪失した。

 特に後部の爆発は問題だった。

 艦載機は着艦の為に横にロープを並べた制動装置を付けている。

 着艦の時、艦載機がフックを下ろし、どれかのロープに引っかけるとロープがドラムから引き出されつつ艦載機を引っ張り機速を落とし停止させるのだ。

 その装置を爆弾が破壊した。

 龍飛は着艦能力を喪失、空母としての機能を失った。

 そして新たに初風を発艦させる事が不可能になった。


『どうするの忠弥。このままだと補給が出来ない』

「分かっている」


 最大の問題は初風を無傷で下ろせない事だ。

 大鳳型空中空母へ初風を着艦させるのは無理だ。

 初風が重すぎて、下手に乗り込むと甲板が歪んでしまう。


「各機、味方艦艇の周りに着水するんだ」


 苦渋の決断だった。

 だがパイロットを救うためには味方艦隊の近くに初風を着水させてパイロットのみを救助するしかない。

 だが、問題はこの後だ。

 まだ敵地には襲撃部隊が攻撃を行っている。

 制空権を確保する必要があるのに、初風を送り出す龍飛が被弾、発艦不能となれば、ブルッヘ上空の制空権は奪われてしまう。

 大鳳がいるが、性能が劣る疾鷹改だけでは勝てない。

 特に通信機能の点で疾鷹は劣っている。

 指示ができる初風を送り出したい。


「どうするべきだ」


 忠弥は判断を迫られた。

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