第301話 対応策

「それで、パイロット達は無事なの?」


 空軍士官学校には何度か授業のために、特に女性候補生との意見交換のために昴は足を運んでおり、知り合いも出来た。

 彼女たちの安否は重要事項だ。


「現地の情報員の報告だと捕虜になったが負傷はない。帝国軍に捕虜として拘束されている」

「よかった」


 彼女たちの身の安全が保障されて昴は安堵した。

 忠弥も報告には安堵していた。

 出来たばかりの偵察機を帝国がスパイ扱いして即時銃殺の危険も考えられた。

 公表できなかったのも、その後の外交交渉などを考えての事だ。

 幸いベルケが彼女たちを捕虜として扱うよう主張し受け入れ、ベルケの管理下にある。そのことにに忠弥はベルケに感謝していた。


「でも、問題なのは、暫く情報収集はできない事だね」


 黒鳥を迎撃出来る手段を帝国が保有しているため、安全のため偵察飛行は中止している。

 安全な方法が確立されるまで再開は出来ないだろう。

 戦時下のため多少の損害――撃墜、パイロット戦死も含めた犠牲は覚悟で送り出す事になるだろうが、出来るだけの対応はしたい。


「まあ偵察は戦略偵察航空団に任せて、僕たちはブルッヘへの攻撃、潜水艦基地の破壊、活動停止を考えよう」


 今後恒常的に偵察活動を行う部隊に偵察の事は任せることにした。特定の領域を任せる事にしたのだからこれは当然だ。彼らがよほど任務遂行が困難な場合を除き、忠弥が出て行くことはない。

 これは相原や草鹿からの進言であり彼らとの約束であった。


「閣下は働き過ぎです」

「閣下が卓越している事は認めますが部下達にも仕事を与えてください」


 航空機好きの忠弥にとって自分で飛行機を作るのは大好きだ。

 だが、航空産業が発達するには、大勢が飛行機を作らなければ発展しない。忠弥一人が頑張ったところで作れる飛行機はたかがしれている。

 多種多様な飛行機が出来るように、大勢に活躍して貰わなければならない。

 それが国家戦略レベルの事であろうと、いやむしろそのレベルだからこそ任せなければならない。

 忠弥が全てを取り仕切るのは不可能であり、個人ではなく組織として存続し動いて行くには必要だった。

 高性能だがピーキーな偵察機を与えられた彼らだからこそ、欠点や長所も見えており長所を残しつつ、欠点を改善していって貰わないとダメだ。

 ただでさえ空軍の規模が大きくなり忠弥の仕事が増えているのだから。

 だから忠弥は自分が作った黒鳥の問題から離れて、自分たちが解決しなければならない当面の問題、帝国潜水艦基地の破壊を考える事にした。


「空中空母で攻撃を行えないの?」

「無理」

「どうして? 数で圧倒できるでしょう」

「沿岸部に新しい飛行場がいくつもある。それに、帝国は新型機を投入してきた」

「疾鷹改で勝てるでしょう」

「無理だ。帝国の新型戦闘機は陸上機だ」


 艦載機という物はかなり無理な制限を課されている。

 格納庫内にコンパクトに収納できるギミック、なおかつ戦闘が出来るだけの旋回性能と機体強度。

 しかも空中空母は積載制限があり、出来るだけ軽量化する必要がある。

 これらを満たした上で、敵機を圧倒する性能を与えるのは容易ではない。

 特に重量制限は厳しく、大型エンジン、重武装、頑丈な機体は重くなる要素なので排除される。

 結果、制限が多くなり、それらの制限が緩い陸上機に負ける状況である。

 これまで疾鷹とその発展型が戦えたのは、技術的な限界により陸上機の性能が疾鷹とほぼ同じだったからに過ぎない。

 しかし、技術革新のスピードは速く、陸上機の性能は向上しつつある。

 疾鷹も登場して一年ほど経つが、技術革新の著しいこの世界は、地球のパソコンの如く、一年で旧式化しつつある。

 改良を加えようにも飛行船の重量制限があり、これ以上の改良、重量の増大は避けられない。

 重量が増加した分、搭載数を減らすことも考えられるが、作戦に投入できる機数が低下するデメリットがあるため、安易に採用できなかった。

 そもそも忠弥は空中空母の最盛期はもはや過ぎようとしていた。

 これまでは、技術的な限界から陸上機も空中空母艦載機もほぼ同じ性能しか出せず、互角に戦える環境があったから投入した。

 しかし、技術が向上し、陸上機の発展のスピードが速まれば疾鷹は勝てない。

 改良しようにも飛行船の重量制限に引っかかり、早晩限界がやってくる。

 生き残れるのは、重要偵察任務があり他に使える機体も撃墜事件が発生しているとはいえ容易に迎撃出来る存在もない黒鳥ぐらいだろう。


「それに疾鷹だと爆弾も多く積めないし」


 重量制限のため、大型の爆弾を搭載できないのも大きな欠点だった。

 乗せられても百キロほど。とてもブンカーを破壊できない。


「つまり、私たちには手が出せないって事?」

「いいや、まだ手はあるよ。いくつもね」


 忠弥は笑って言った。


「何を企んでいるの?」


 昴の問いかけに、忠弥は悪戯を考え出した少年のように答えた。


「ブルッヘ襲撃さ」

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