第196話 再出撃準備 だが
「意外と被害が出たな」
装甲巡洋艦上空での空中戦を終え、帰投した王国の基地で損害報告を受け取った忠弥は顔をしかめた。
敵機を一〇機は落としたが、味方の損害も一一機出ていた。
接触した時、敵の方が数が多いため、圧倒的な数によって押されて味方に被害が出てしまった。
被害が最小限になるよう、味方を集結させ持ちこたえたのが幸いし、被害が抑えられたはずだ。
救援が間に合わなければ、被害は更に増えていただろう。
「パイロットは収容できましたか?」
「封鎖線の海軍艦艇が出動し、六名を収容。敵方のパイロットも五名収容しました」
草鹿中佐の報告に忠弥は、ほっとする。
味方の封鎖線近くで戦闘したお陰でパイロットを回収することが出来た。
パイロットの素質のある人間は少なく希少だ。
特に激しい機動を行う戦闘機パイロットは貴重で換えなどいない、と言って良い。
無論、訓練して育てているが、極限状態ではあとからの訓練より生まれ持った素質が重要になってくる。特に、エースと呼ばれるような人材は。
そして、そこまでの素質がなく、経験で鍛え上げるタイプでも、再び空へ駆け上がる、経験を得る機会を与えるには生きていて貰わないといけない。
彼らに機会を与えるためにも救助態勢の構築を忠弥は行っていた。
救出すれば、また空を飛べるし、腕も上がり、エースになってくれる。
墜落した彼らを救出しするのは忠弥にとって重要な課題だった。
それに同じく空を飛ぶ仲間の命が失われるのが忠弥は嫌だった。
「しかし、戦果を上げる事が出来ませんでしたね」
「霧と靄が広がったのなら仕方ない。」
救援がやってきた事で優勢を確保し反撃に転じた忠弥達だったが、敵への追撃は中断した。
立ちこめてきた靄によって阻まれたからだ。
戦闘で激しく燃料を消耗した中、空中空母を見失えば航続距離の短い艦載機である疾鷹の墜落は確実。
追撃戦に移らず撤退し、靄が掛かる前に残存機を全て着艦させたのは、妥当な判断だったと言って良い。
偶然とはいえ、天候に左右されやすい航空戦の実態がもたらした結末だった。
「航空機の補充と再出撃までに掛かる時間は?」
「一日以内に終わります」
帰投すればすぐに再出撃の準備が出来る態勢を忠弥は作り出していた。
飛行船の基地には常に予備の機材とパイロットが待機し、補給用の燃料が備蓄されている。
そして草鹿中佐は海軍出身で軍艦乗りとして出船の精神――入港時は即時出撃が出来るように準備するよう鍛えられていたので、基地到着時点で次の出撃準備を進めていた。
「すぐに出撃しよう」
「ああ、負けっぱなしは気分が悪い」
そして忠弥も草鹿も、飛天の乗員達も戦意は旺盛だった。
「司令、司令部より命令です」
だが伝令が命令電文を持ってきたため、作業は中断された。
忠弥は受け取った電文を素早く読むと、肩を落とす。
「草鹿中佐、出撃準備を終えたら待機してくれ」
「新しい作戦ですか?」
「ああ、王国海軍からの要請があった。打ち合わせの為に、王国海軍の根拠地、大艦隊の旗艦へ向かう」
「王国海軍の事ですからこき使われるでしょうね。向こうは手不足ですから。我々から高速戦艦四隻を有する第三戦隊を借りたいと言ってきていましたし」
帝国を封じるために王国は海軍の主力艦を全て大艦隊に集めていた。
外洋艦隊の戦力を圧倒し封鎖線を強固にするためだ。
だが自国でだけでは足りないと不安になった王国は皇国から虎の子の高速戦艦四隻を借りたいと要請していた。
しかし、皇国は虎の子の高速戦艦を貸すのを嫌がり、通商破壊に備えるためと言って王国に貸し出していない。
その代わりに封鎖線の支援として出されていたのが忠弥達だった。
「仕方ない、先の装甲巡洋艦が離脱してしまったのは我々が情報を送るのが遅れたからだ」
「ですがあれはベルケの妨害があってのことです」
「敵が全く反撃しないなんて事はない。敵が反撃、抵抗を排除してこそ任務は達成できる。まあ、自分の失敗だ。尻拭いぐらいはするよ。君たちには苦労を掛けるが」
「司令と一緒なら何処までも」
「ありがとう」
肩を下げていた忠弥を草鹿は笑顔で送り出した。
忠弥も、何時までもくよくよ出来ないと顔を上げて指示された場所へ向かった。
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