第333話 寧音の活躍
「攻撃隊隊員格納庫に集合せよ」
カルタゴニア級飛行船ヴェルフトの艦内に艦長の声が響くとシュタインホフ大尉以下、一二名のパイロットが集まった。
「攻撃目標は予定通りだ。我々は皇国本土の重要施設を空爆する」
シュタインホフ大尉をはじめ、攻撃隊員は、俄然やる気を見せた。
皇国本土への航空攻撃。
これまでは警戒厳重で不可能とされてきた。
だが、密かに情報を集め精査すると意外と手薄なことが分かった。
面積は狭いが南北に長い島が多く海岸線が長いため見張が少ない。
船団護衛と旧大陸への派遣に力を注ぎすぎたため、皇国本土へ防空戦力を注ぐことはなかった。
旧大陸から離れすぎているため、帝国が皇国本土への攻撃を計画していなかったのと効果を疑問視していたこともあり、実行には移されなかった。
だが、手薄なことがわかり、最重要施設を見つけ出した今は気にする必要は無かった。
「君らにとっては簡単な任務だ。だがこの作戦の遂行、成否は帝国の運命を大きく左右する。心して掛かってくれ!」
「はいっ!」
全員の力強い返答にシュタインホフ大尉は満足した。
「総員搭乗!」
命令と共に全員が自分の期待に乗り込み整備員の手を借りて出撃準備を整える。
「攻撃隊! 発進せよ!」
スピーカーから流れる艦長の命令でシュタインホフ大尉以下一一名のパイロットは爆装したアルバトロス戦闘機に乗り込み目標へ向かって発進した。
「今月の生産予定数は一〇〇〇機ですか」
「はい、資材が潤沢に入ってくるので滞りなく進められます」
寧音の質問に工場長は滑らかに答えた。
寧音が訪れているのは、設立されたばかりの岩菱航空製造株式会社の主力工場、名護屋工場だ。
戦争が始まってから建設されたこの工場は広大な敷地に建設されたため、効率よく飛行機を作る事が出来る。
文字通り皇国最大いや世界最大の航空機生産工場だった。
その工場を作ったのは岩崎財閥の娘、岩崎寧音だった。
「しかしお嬢様がこのような場所までおこしになるとは」
「皇国の重要な戦力を作り上げる工場ですから、疎かには出来ません。それに私は社長ですから」
建前を最もらしい表情で寧音は答えた。
会社設立当初、世間の注目を集める為に、岩菱は寧音を新会社の社長にした。
実際の運営は勿論岩菱の生え抜きの優秀な社員、重役が行っている。
だが、真面目な寧音は本物の社長となるべく勉強するため生産現場を訪れている。
その気持ちも確かに本当だったが、最大の理由は忠弥の為になりたいからだ。
昴のように忠弥に付いていける程の飛行技能がない。
ならば自分の才覚、経営者としてのセンスを発揮して忠弥の役に立つしかない。
祖父の仕事ぶりは前々から見ていたし女学校の伝手、保護者が企業の経営者の学友が多く話を付けることが出来た。
実際新しい産業ということもあり、旧来の方式では不合理な部分があり、、違和感を感じた寧音の指摘で、改善された事が多々あった。
おかげで月産一〇〇機の生産を行える航空機生産工場を建設し忠弥の空軍建設を手助けすることが出来た。
これには忠弥も手放しで喜び、自ら頭を下げて感謝した。
その時の昴の悔しそうな顔は寧音の一生の思い出だ。
「もう少し多く作りたいのですが」
「空軍のパイロットが足りないようです」
「そうね」
潤沢な予算と資材のお陰で生産数は更に伸ばす事ができる。
空軍拡張を押しとどめているのはパイロットの数だった。
訓練できるパイロットの数が足りないので、どうしても機数を大幅に増やせない。
「でもメイフラワー合衆国への輸出も増えているわ」
参戦したメイフラワー合衆国だったが、旧大陸から離れていたため強大な軍備が不要だったこともあり装備が貧弱だ。
航空機も金持ちの道楽と見なされており、空軍など存在せず、陸軍と海軍に小規模な航空隊がいるだけだ。
だが、航空戦の激しい旧大陸の戦場へ赴くからには航空隊の拡大は必要であった。
航空産業がないため、大量生産している皇国から、島津と岩菱の向上から航空機を購入し航空隊を育成していた。
「合衆国の方は数が足りないようだから、もっと生産して」
「分かりました」
経済力のある大国メイフラワーの皇国への発注は合計で一万機を超えている。
納入するために向上の拡大もしなければならない。
「しかし、このように規模を拡大して大丈夫なのでしょうか? 製造機械購入の代金の支払いもまだ続いていますのに、さらに拡張など」
工場長は自分の不安を寧音に尋ねた。
戦争が終われば、不要になる戦闘機の大量生産工場など持っていても不良資産にしかならない。
「大丈夫よ。これは忠弥の指示だから」
だが、忠弥には考えがあるのか、向上をひたすら拡大するように言っていた。
「まあトラブルがあれば何とかするけど。それに予算の方は大丈夫だし」
予算の問題があったが岩菱総帥のお祖父様と昴の父親が皇国の議会で予算を通してくれたおかげで大量の資金が流れ込み工場拡張の目処が付いていた。
新たな予算案を通すために、今日も議会で演説しているハズだ。
これが通れば更に工場を拡大し、生産数が伸びるはずだ。
そうすれば忠弥が喜んでくれる。
褒めて貰えると思うと寧音は嬉しかった。
その横で昴が歯がみする顔が見られるなら更に良い。
「そろそろ私も大陸に行って話をするべきかしら」
工場拡張の話と行って忠弥と二人きりになるのも悪くないと寧音は考えた。
「あら、何かしら」
忠弥と会うことを考えていると、外から聞き慣れない音がした。
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