第404話 両軍攻撃隊接触
「発艦準備完了!」
天城の飛行甲板に飛行長の声が響く。
この時、天城型航空巡洋戦艦各艦はおよそ五〇機ほどの艦載機を積んでいた。
そのうちの三分の一、一六機を攻撃隊として編成して準備しており、飛行甲板に羽を広げていた。
「全機発艦だ!」
天城型の右舷飛行甲板に艦載機、最新鋭の艦上戦闘機寿風が並び終わると合図を送り艦載機は、左舷側へタキシングをしながら発艦位置へ。
安全が確保されていることが確認出来ると次々と発艦していく。
右舷側からも発艦出来るが、甲板に上げられる機数――発進出来る機数が少なくなる。
そして右舷側からだとプロペラ機の回転、時計回りに回るプロペラの反トルクで機体が左へ流れやすく、発着艦時に艦橋や砲塔に接触する可能性が高い。
そのため、余程の緊急時以外は左舷側からしか発着艦をしない。
寿風は単葉ながらもフラップを全開にして浮かび上がるように次々と発艦していき、敵の空中艦隊へ向かった。
「二宮忠弥。寿風発進する」
最後の戦闘機に乗った忠弥が天城から発艦した。
ジュラルミンの強度を生かし固定脚だが単葉の全金属製の機体に仕上がっている。エンジンも五〇〇馬力の大出力のエンジン搭載し四〇〇キロ以上の速力を出せる。
忠弥はフラップを下げ、十分に回転を上げるとフットブレーキを解放。
愛機を発艦させた。
上空では既に編隊が組まれており、フラップを収容して素早く合流する。
「全機揃ったようだね。これより敵空中艦隊に向かって空中進撃を開始する」
全機が発艦するまで時間が掛かる上、それから編隊を組む必要がある。
編隊を組み終えるまでは、艦隊上空で旋回を続け、揃ってから敵に向かって発進する。
これが空中進撃だ。
『こちら昴。前方に機影を確認! 敵機よ!』
視力が良く、制空隊――攻撃隊に先駆けて敵艦隊の上空を制圧する部隊の隊長となった昴が報告する。
「多分、僕たちの艦隊を攻撃するための攻撃隊だろう」
『母艦を守る為に引き返しますか?』
「いや、予定通り、進撃する」
母艦に向かう敵攻撃隊を前にした時、襲撃するべきか?
答えは否だ。
味方の攻撃機が丸裸になるからだ。
それに敵の母艦を叩かないと、何度も攻撃される。
実際、太平洋戦争中の南太平洋海戦で母艦に向かう米攻撃隊を発見した日本側攻撃隊の護衛が襲撃を仕掛け、損害を被った上、攻撃隊と離れてしまった。結果、攻撃隊は大きな被害を受け、海戦の勝敗を左右することになった。
敵の攻撃を邪魔したおかげで母艦への被害が減少したともされるが、味方攻撃機が損耗したことは非常に問題だ。
それに、攻撃隊の使命は敵艦隊への攻撃であり、その成否で攻撃隊の善し悪しは判断するべきだ。
海戦の勝敗は艦隊司令官が責任を負うべきだ。
もっとも、実質上の艦隊司令官である忠弥が前線に出ている事が異常なのだが。
『敵を素通りさせるなんて』
「その方が安全なんだよ」
昴の方はせっかく見つけた敵機を攻撃出来ない事に苛立っている。
「図上演習でも分かっているだろう」
『そうだけど』
平和になったが航空戦の研究は続けられている。
もし、進撃途中で敵の攻撃隊を見つけた時、どうするべきかという想定も入れて訓練している。
昴も参加しており不満を述べながらも大人しく、進撃を続行している。
「僕たちが攻撃を成功させるには制空隊が制圧してくれないと無理なんだ」
『分かっているわよ。けど本当に良かったの? 忠弥が攻撃隊なんて』
攻撃機の護衛隊には赤松が付いている。
忠弥は敵の空中艦隊を攻撃する指揮官として乗っていた。
確かに全体を纏めるには良いポジションだが卓越した空戦の技術を持っているのに空戦に参加しないことを昴は疑問に思っていた。
「良いんだよ。多分敵の空中空母は予想が正しければ、落としにくい」
『それはどういうこと?』
『敵機の一部が反転しました!』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます