第403話 天城級航空巡洋戦艦

「索敵機より受信! 敵艦隊の位置が分かりました!」


「宜しい」


 皇国艦隊先遣部隊旗艦である航空巡洋戦艦天城の艦橋で艦隊司令官の名雲少将に通信員の報告が入った。


「敵艦隊はコンスティテューション級空母二、航空巡洋艦六、他大小艦艇十前後です」


「我が方とほぼ同じか」


 名雲の指揮下にある艦は天城級航空巡洋戦艦四隻、巡洋艦二隻、駆逐艦八隻だ。


「いかがいたします?」


「やはり制空権の確保でしょう」


 総指揮官として乗艦している忠弥が言った。

 皇国が派遣した艦隊の先遣部隊、航空偵察戦隊を中心とする機動部隊は後方の本隊と船団を守る為に先んじて進出し制空権の確保を至上命令としている。


「敵の空中艦隊の位置は分かりつつあります。これを撃墜しましょう」


「我が方の空中艦隊は?」


「一部空中巡洋艦に索敵。空中空母は防空任務に専念させます。こちら側は脆いので」


 忠弥は理由があって空中機動部隊を参加させていない。


「大丈夫です。我が方に空中艦隊がなくても我々だけで十分に相手が出来ます」


「仕掛けますか?」


「ええ、先ずは敵の空中艦隊を撃破しましょう。航空隊を発進させます」


「了解、全艦に発進準備を命じます」


 直ちに旗艦から通信が送られ、航空巡洋戦艦四隻は発進準備に入った。


「攻撃隊発進準備!」


 後方の飛行甲板に飛行長の声が響く。

 天城型航空巡洋戦艦は、忠弥の発案と大戦後の軍縮で出来た奇天烈、いや奇想天外な軍艦だった。

 元は、一八インチ――四六サンチ連装砲四基を搭載した巡洋戦艦として海軍で計画され建造されていたが、大戦中の海戦で巡洋戦艦の防御の薄さが致命的であることが判明。

 改修計画を練っている内に大戦の終結と、戦費増大による世界的軍縮が叫ばれ、廃艦となる予定だった。

 だが、ここで待ったを掛けたのが忠弥だった。


「航空母艦として活用したい」


 四万トンを超える大型の船体に三〇ノット以上の高速を出せる足の速さ。

 航空機運用にピッタリだった。

 装甲が薄いのもあくまで戦艦の砲撃戦を考慮したもの。

 むしろ格納庫や飛行甲板など航空艤装を追加するための重量に余裕が出来るため有り難い。

 早速、改造が決定したが、ここで海軍側から物言いが入った。


「自艦防御のために主砲は残すべきだ」


 忠弥は当初、全通甲板、海上自衛隊の出雲型、最終的には米空母のような形を目指していた。

 だが、全ての砲を無くす――航空機運用能力に全振りして水上艦への対処能力を無くする事に海軍が懸念を示したのだ。

 巨大な主砲を残したいという思惑もあったが、まだ性能の低い航空機に頼り切るのが不安だったのだ。

 その事は忠弥も理解していた。

 二一世紀から転生した忠弥は、航空機が優越することを、将来性を知っている。

 航空機の運用を優先した方が良いことは分かっている。

 だが、この世界の航空機は生まれたばかりであり、性能が低く――攻撃力が小さく、天候が穏やかな昼間しか使えず不安が大きい。

 そこで妥協案として、新たに締結された軍縮条約に従って新たな主砲を作って残すことを決定した。

 こうして誕生したのが天城型航空巡洋戦艦だった。

 改造は簡単で前部の主砲塔基礎――弾薬庫やターレットは残し、条約で許可された一二インチ以下、三一サンチ五連装砲を搭載した。

 世界でも類を見ない五連装というのは、軍縮条約で載せられる主砲の最大口径が一二インチだったため、四六サンチ砲連装砲用のためターレットが大きく五連装にしても余裕があったためだ。

 そして、後部を飛行甲板にするため後部の主砲塔二基が潰されるため主砲の数を前部だけで賄う必要があったからだ。

 後部は主砲塔がなくなり、格納庫とY字型飛行甲板――ただし艦首部の方は、着艦機の退避のため第一砲塔の前に反対舷への誘導路が付いている――が設置された。

 さらに、サイドエレベーターを取り付け、着艦区域を分断せず艦載機を格納庫へ出し入れが出来るようにしていた。

 このため、後部は広大な飛行甲板を確保した代わりに攻撃力は皆無となり、前部に主砲が必要になり五連装主砲が搭載された。

 だが、これで良かった。

 巡洋艦以下なら一二インチ砲で砲撃して追い払う。

 戦艦以上なら三〇ノットの速力で離脱し十分離れた所で攻撃機を放つのが基本的な航空巡洋戦艦の戦いとして想定されていた。

 必要なのは巡洋艦以下へ一方的に砲弾の雨を降らせるための主砲であった。

 もっとも、敵艦隊がやってくる前に忠弥は航空機で撃退する気満々だったが。


 

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