第402話 メイフラワー合衆国陸軍航空隊 ミッチェル准将

「敵艦隊を攻撃し制空権を確保せよ、か」


 旗艦空中空母シェナンドーのブリッジで空中艦隊司令官のミッチェル陸軍准将はにやりと笑った。


「さすがモフェット少将だ」


 陸軍の准将だが、航空機の運用に関して第一人者のためモフェットが空中艦隊の指揮官として認めた。

 航空機の管轄について陸軍と海軍で争い、互いに独自の航空隊を設立して権力争いを繰り広げているライバルだ。

 だが、航空機に可能性を感じ、発展させようという考えはモフェットもミッチェルも同じであり、互いに一致していた。

 だからこそ、陸海軍の混成部隊を――飛行船の運用は陸軍航空隊に、空母や航空巡洋艦の運用は海軍に任せるという線引きと、輸送力に優れる船舶を多数動員可能なモフェットを指揮官として認め、指揮下に入ることを承諾させた。

 間違ってはいなかったし、モフェットならば安心して指揮下に入れるとミッチェルは信じていたし、航空戦の内容を理解していた。

 だからこそ、受けた命令に疑問は抱かなかった。


「乗せている艦載機を全て発進させる。海軍の航空隊が合流したら、彼らに空中給油を行いつつ、全機発艦だ」


「分かりました」


 空中空母の艦載機は飛行船の搭載能力が小さいため小型にしなければ成らず航続距離が短い。

 大鳳型に似た双胴空母シェナンドー型に乗せるミニバレル四二機は四時間程度の航続距離しかないし、空中巡洋艦に五機ほど乗せている吊り下げ式のスパローホークなど二時間程度しか飛べない。

 だからこそ、発進の時間を調整する必要がある。

 勿論、洋上の艦載機部隊も似たような性能であり、フライングバレルは五時間程度しか飛べない。

 だが、空中空母から給油を受ければもうすこし、長く飛べるハズだ。

 合流と同時に燃料を分け与え、その間に空中艦隊の艦載機を発進。

 圧倒的多数になって敵艦隊へ襲撃をかけ敵戦闘機を掃討するのが一番良い。


「今後の戦いは制空権の確保で決まる。海だろうが陸だろうがな」


 航空機の未来をミッチェルは信じており、敵は航空機だけだと信じていた。


「閣下、敵機が接触しています。我が艦隊の位置を通報しているようです」


「敵も馬鹿ではない。攻撃する為に手を尽くしている。此方も迎撃の準備を進めるんだ」


「了解!」


「それで敵の空中艦隊の位置は分かったか?」


「いいえ、敵の空中巡洋艦、艦載機を五機程度乗せられる飛行船以外は見当たりません。空中空母はアルヘンティーナでの輸送に使われているようですが」


「おかしいな」


 制空権を確保するならば高速力を発揮出来る空中艦隊を投入するはず。

 なのに、遙か後方のアルヘンティーナで待機させるなど不可解だ。


「我々が敵艦隊に接触と同時に迂回攻撃をする可能性がある。周囲に索敵用の空中巡洋艦と索敵機を発進させ、敵の奇襲に備えろ」


「了解!」


「ミッチェル将軍。洋上空母の艦載機部隊がやって来ました」


「予定通り、空中給油を行え。同時に全艦載機を発進させろ。敵艦隊上空の制空権を確保。そして、予定通り敵艦隊を血祭りに上げる」


 敵空中艦隊の動きが気になるが、航空戦力を見逃すつもりはミッチェルにはない。

 脅威である航空機は一機たりとも逃さないつもりだ。

 それに今回の遠征はアルヘンティーナの確保。

 残念な事に飛行船の数が足りず、陸上兵力を運ぶには飛行船が足りない上に、アルヘンティーナの制空権を奪われているため、船団で運ぶ必要がある。

 だが、それは皇国も同じ事。

 護衛の空母を沈めれば、輸送船団は丸裸となり、アルヘンティーナの皇国軍やアルヘンティーナ軍は孤立し、簡単に殲滅出来る。

 要はどちらが先に相手の航空戦力を全て潰せるかに掛かっているのだ。


「準備が終わった機体から発進させろ。艦隊も前進し敵艦隊上空へ向かうんだ」


「了解!」


 ミッチェルの命令は実行され、一三六機となった攻撃隊の後に続いて空中艦隊空母四隻、巡洋艦一二隻は皇国艦隊に向かって攻撃隊の後から進撃を続行した。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 ミッチェル将軍の元ネタは、史実のアメリカ陸軍航空隊の父と呼ばれるウィリアム・ミッチェル合衆国陸軍少将。のちの空軍となる部隊を作り上げましたが、飛行船事故の責任を取らされ除隊。

 第二次大戦後に名誉が回復されました。

 ちなみにB25爆撃機の愛称ミッチェルは彼の名前から。

 アメリカ軍用機のうち個人名が愛称として採用されているのは、B25のみでそれだけ偉大な先駆者であります

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