第401話 コンスティテューション級空母の弱点
「提督、下部飛行甲板に波が掛かり始めました」
「またか」
飛行長の報告にモフェットは苦虫を噛みつぶすような顔をして答えた。
コンスティテューションの弱点の一つは、下部飛行甲板の位置が低いため、高波を被りやすく甲板が浸水してしまうことだ。
発艦中に波が入ってきたら、飛行機の抵抗になり加速出来ず墜落して仕舞う。
揚力を増して発艦しやすくするため風上に向かって空母が走る事も、風上から波が来やすい事も余計に事態を悪化させていた。
波が穏やかなので上手くいくと思ったが、発艦のために速度を増したため、波の衝撃が大きくなり、甲板に掛かってしまったようだ。
「……下部飛行甲板からの発艦は中止。上部と中部で行うんだ。下部から発艦予定の機体は第二次攻撃隊へ回せ。第二次攻撃隊の編制も再検討だ」
「了解!」
こうなっては致し方ない。
幾ら海軍提督でも、波をどうにかすることは出来ず、使える甲板から艦載機を飛ばすしかない。
予定が狂ったが、現場では、戦場ではよくある事だ。
臨機応変に対応することも指揮官の役目なのだ。
だがコンスティテューションにはもう一つ問題があった。
「提督、上部格納庫で作業員に熱中症の脱落者が続出しています」
「またか」
原因は分かっている。
発艦作業と誘導煙突のせいだ。
格納庫で行うエンジンの暖気作業の排熱で作業員がやられた。
開放式にして風通しをよくしてあるが、それでも発艦機のエンジンから出る熱は多く、全てを排出出来ない。
さらに状況を悪化させているのがよかれと思って取り付けた誘導煙突だ。
空母建造で問題になったのが煙突の配置だ。
通常の船は船体の真ん中にある機関室からすぐに排煙出来るよう、真上に煙突がある。
だが、着艦する飛行機にとって障害物となり邪魔な上に危険だ。
煙突の前までに着艦させようという無理をして事故を起こしたことも多い。
世界初の空母龍飛は煙突を右舷側へ曲げて排煙する事で解決した。
だが、風向きによって排煙の一部が甲板に上がってきてしまい着艦時に危険とされた。
煙突を何処に配置するかは、初期における空母開発で最大の問題となった。
メイフラワー合衆国の場合、甲板へ排煙が出ないよう、煙突を甲板の後ろまで伸ばし、排煙させる事にした。
結果は、飛行甲板に煙は届かなくなった。
だが、真後ろに排煙しただけだったため、着艦コースに煙が入り、気流を乱し着艦が危険な事に変わりはなかった。
しかも、誘導煙突の周りが、特に飛行甲板真下の居住区と格納庫が高温に晒され、船内気温が平均四二度という住みがたい環境となった。
格納庫は開放型にしたため換気出来てマシだったが、密閉された居住区は高温のままで乗員に不満が続出していた。
おまけに、重い誘導煙突を設置ししたため、船体の重心が上がってしまい、揺れやすい艦になってしまった。
改修計画を立てていたが、実行される前に出動する羽目になり、この欠点は改善出来ないままだ。
「下部格納庫の人員と交代させて休ませろ」
「発艦は続行ですか」
「当然だ。制空権を確保しなければ勝てない」
難題山積だが既に戦争は始まっている。引き返す訳にはいかない。
「シェナンドーのミッチェルに連絡しろ。貴艦も戦闘機隊を発艦させ、合流。敵の艦載機を圧倒して制空権を得よ」
「了解!」
予定では二四機出す予定だったが、一八機しかコンスティテューションは発進させられなかった。
コンステレーションも同じで、他に航空巡洋艦――百メートルの飛行甲板を持つ六インチ砲搭載巡洋艦から八機ずつ、四八機が出ている。
合計で八四機。
空中機動部隊の艦載機を含めれば十分に圧倒出来るとモフェットは考えていた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
コンスティテューション級のモデルは、名前に関しては史実のレキシントン級巡洋戦艦の名前を流用し、船体は旧帝国海軍の加賀型をモデルにしています。
空母の試行錯誤、飛行甲板の配置や煙突の形などは今見れば滑稽で残念な結果です。ですが試行錯誤の跡が非常に素晴らしく、是非登場させたくて登場させました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます