第405話 ヘリウムガス
赤松の報告で忠弥と昴の会話は寸断された。
忠弥が振り返ると、後ろでは敵機が反転して食いつこうとしている。
『すれ違う攻撃隊を襲撃するのは悪手じゃないの?』
「敵はそこまで航空戦を理解していないようだ」
航空機が忠弥によって誕生してから十年も経っていない。
戦争で大量に使われたが、戦訓を十分にくみ取っている訳でもない。
特にメイフラワー合衆国は大戦の終盤に参加したため、経験値が低い。
後世から見て悪手とされる手を打っても仕方ない。
「まあ、此方は敵の半分以下だし」
敵機は見たところ百機以上、此方は七〇機ほど。
敵の方が数的に優位であり、二分しても十分に戦果を挙げられると思ったのだろう。
「赤松の護衛隊は反転して襲撃を止めろ! 昴は前進。間もなく敵の空中艦隊と接触するはず。上空援護機がいるはずだから蹴散らして僕たち攻撃隊の道を作ってくれ!」
『了解』
『分かったわ』
すぐに赤松達が、反転して迎撃態勢に入る。
『てめえらの相手はこの赤松様だ!』
無線で怒鳴りつつ攻撃を開始する。
迎撃された敵機、ミニバレルは二枚翼を生かして身軽に反転して避けると、忠弥達攻撃隊へ向かって行く。
『逃がすか!』
赤松は素早く反転させると速力を増して追撃する。
単葉のため抵抗が小さく、出力も大きく速力が出る寿風はすぐにミニバレルに追いつき、攻撃隊への襲撃を邪魔した。
「良さそうだな」
敵機の追撃が赤松によって邪魔されている間に忠弥は進撃を続行する。
対飛行船用のロケット弾を積んでいるため、重いが、ミニバレルより優速なため急速に空戦域から離れる事が出来た。
「そろそろ、接触出来ると思うんだけどな」
忠弥が航空図を確認して、母艦から飛び立ったあとの時間と速力、敵の予想位置を計算しながら呟く。
「まあ、反転している可能性もあるけど」
速力が早い飛行船ならば、程々の距離を取って攻撃隊を出すことも可能だ。
幾ら時速四〇〇キロは出せる最新鋭の機体でも、広大な空域を自由に動く飛行船と接触するのは難しい。
しかし予想外の報告がもたらされる。
『敵艦隊発見!』
「まさか、こんなに早く会えるとは」
昴の報告した方向を見ると確かに敵の飛行船が正面から此方に向かってきている。
「随分と好戦的な指揮官だな」
まっすぐ向かってきているということは皇国艦隊に向かって忠弥達の攻撃を受けることを恐れずに今なお進撃しているということだ。
「あるいはそれだけの自身があるのか」
忠弥は自身の予想が的中している予感がした。
だが、今更変更はない。
「攻撃を開始する。昴、敵の援護機を排除して。攻撃隊は攻撃を行う」
『了解! 突入路を開いてあげるわ』
昴が勇んで敵編隊へ突入していく。
すぐに乱戦となるが寿風の優速を生かして、敵機を追い散らしていく。
数が少なかったこともあり、あっという間に、前方の敵機は蹴散らされ、突入路が出来る。
「好機だ。制空隊が作ったルートから突撃。攻撃隊、第二小隊から敵の空中空母へ攻撃開始。その後、第一小隊から攻撃を開始する」
『了解!』
先発指名された第二小隊長が勇んで攻撃を開始する。
敵艦からは対空砲火が上がるが、巧みに避けて攻撃位置へ達した。
『食らえ!』
必中の位置から空中空母の右舷船体中央部へ真横から攻撃を行った。
ロケットは船体に命中し爆発する。
だが、炎上しなかった。
『何故だ!』
第二小隊長の驚愕の声が無線で響くが、忠弥は冷静に分析して呟いた。
「浮揚ガスにヘリウムを使っているな」
皇国飛行船の浮揚には水素を使っていた。
だが、水素は燃える。
そこで水素より重いが不燃性のヘリウムを使う事が考えられていた。
しかし、電気分解などで得られる水素と違いヘリウムは天然産出のみで、その生産箇所は限定されている。
この世界だとよりによってメイフラワー合衆国だった。
忠弥はヘリウムの輸入を行っていたが、とても全ての飛行船を賄えるだけの量は輸入出来ず、早々にヘリウムの重要性に気がついた合衆国政府の輸出制限により殆ど手に入らなくなってしまった。
これも忠弥が飛行船事業に見切りをつけた理由だ。
結果、飛行船は危険な水素しか使えず、攻撃の危険のある前線に配備しない理由にしていた。
『どうするの! 敵が燃えないんじゃ撃墜出来ないじゃない!』
敵機を迎撃していた昴が文句を言う。
だが、忠弥は怯まなかった。
「大丈夫。想定内だ。見事に撃墜して見せるよ。第一小隊。我に続け」
忠弥は、自分の小隊を率いて攻撃に向かった。
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