第134話 帝国飛行船団

「F37哨戒点より飛行船発見の報告がありました!」

「来たか!」


 町への空襲があってから七日後、哨戒中の漁船が帝国軍の飛行船を再び捕らえた。


「進路西、高度一〇〇〇、速力五〇ノット」

「高度も高いし早いな」


 新型を投入したと忠弥は思った。

 前に投入された飛行船より明らかに性能がアップしていた。

 速力も高度も向上していたら、接触するのが難しくなる。取り逃がして侵入を許してしまうので素早く推定コースと待ち伏せする位置を決める。


「直ちに迎撃に向かう。待ち伏せ予定はD32地点、高度一二〇〇! 飛行隊全力出撃だ!」

「直ちに出撃して!」


 通信員が新たな無電を受信する中、忠弥が命令すると昴が大声で叫び、すぐに部隊は出撃準備に入る。

 先日新たな一個中隊が到着し、飛行隊は二個中隊二八機に飛行隊の本部小隊四機の合計三二機に膨れ上がっていた。

 しかも哨戒網を東側へ移動させたおかげで、早期発見が可能。

 海岸線ギリギリで接触し内陸部へ向かう途中で撃墜できるようにしている。


「絶対落とすわよ!」


 中隊長として一個中隊を率いる昴は気合いが入っていた。

 二度と爆撃されないように中隊に訓練を施し、必ず撃墜しようと心に決めていた。


「全機出撃!」


 滑走路から次々と出撃していく。

 忠弥も隊長機として本部小隊を率いて出撃する。

 上空で編隊を組んだ戦闘機隊は横に広がり、敵飛行船を探しながら、海岸線へ向かう。


「見つけた!」


 飛行船を見つけた昴は、速力を上げて編隊の前に出る。

 機体をバンク――左右に振って敵機発見の合図をした後、編隊を先導するべく敵飛行船の方へ向かった。


「デカいわね」


 先日より二回りほど大きな飛行船だった。

 その分浮力が増大して飛行高度が上がっている。またエンジンの数も増えており速力が速くなっている。

 これは忠弥にも予測できたことだった。

 だが大まかな形は似ていたが船体の上や横にゴンドラが取り付けられていた。


「攻撃開始!」


 昴はすぐさま自分の中隊を率いて攻撃を開始した。

 セオリー通り、飛行船の後方、上空から急降下して攻撃する。


「貰った!」


 すぐさま照準環に飛行船を捉えると、発砲炎が上がった。

 だがそれは昴の機体の機銃では無く、飛行船のゴンドラから放たれたものだった。


「なっ」


 突然の攻撃に慌てて、昴は回避運動を行い、弾幕から逃れる。


「銃座を増設していたのか」


 船体の各部に設けられたゴンドラに機銃を取り付けて戦闘機を寄せ付けないように防御弾幕を張れるようにしている。

 これでは近づくことは難しい。

 防御機銃は当たりにくいのだが、機関銃弾の雨の中へ飛び込んで近づくのは恐怖でしかない。

 単発機の後方防御機銃でさえ恐ろしい。

 万が一当たったら、帝国海軍の坂井三郎のように不用意にドーントレスの八機編隊の後方上空に出てしまい蜂の巣にされて九死に一生を得る重傷を負いかねない。

 幾度かの実戦で、後方機銃にやられた僚機を昴も見ており、その威力は理解している。


「それでも守り抜くわよ!」


 昴はなおも攻撃を仕掛けようとする。

 機体を横滑りさせつつ、敵の反撃をかいくぐり、接近する。


「もらった!」


 だがレバーを引こうとした瞬間、真横から銃撃を受けた。


「なっ」


 驚いて回避運動を取って、距離を置く。

 改めて自分を撃ってきた方向を見ると同じ形の飛行船がもう一隻、雲の中から現れた。

 投入されたのは一隻では無かった。

 もう一隻、更に新たに現れた一隻を加えた三隻が編隊を組んで進撃していた。

 一隻でダメなら三隻で編隊を組み、互いに守り合いながら敵戦闘機をはねのけ進撃する。

 それがシュトラッサーの作戦だった。


「飛行船の大量投入か」


 百機単位の爆撃機による戦略爆撃が第二次大戦で行われたことを忠弥は知っている。

 その先駆けとして第一次大戦で飛行船による爆撃が一隻、あるいは複数隻で行われたことも知っている。

 それを帝国軍がやってきたことに驚きつつも感心した。

 しかも、陣形や飛行船の配置を工夫して互いに援護し合えるようにしている。

 距離と高度を微妙に変えて互いの船体で機銃の射線を遮ること無く、互いの死角をカバーし、敵に最大の火力をぶつけられるようにしている。


「問題はあれだけの隻数と大きさだと爆弾の凄いだろうな」


 先の爆撃では二トンの爆弾が落とされた。

 今回の飛行船は大型だから倍の四トン、第一次大戦の飛行船だと六トン近く搭載した記録もある。

 最悪の場合一八トンの爆弾が降り注ぐことになる。

 大局的には小さい損害とは言え、民間人の居る市街地に爆弾が落とされるのは快い物ではない。


「させるか!」


 一番危機感を抱いている昴は我武者羅に突入した

 しかし、三隻は密集編隊を組んだまま互いを守りつつ突進する。

 一隻を攻撃しようとすると他の飛行船が突入進路に弾幕を張って防ぐ。

 接近することさえ困難だった。弾幕の中に無理に飛び込み逆に被弾して撃墜される機体も二機出ていた。


「くっ」


 それでも昴は遠距離から銃撃を加える。

 しかし距離があるため、威力は弱く布地を貫通できない弾が多い。

 既に海岸線を越えて王国本土へ侵入しつつあった。


「高度が徐々に落ちてきた」


 だが執拗な攻撃が功を奏したのか、飛行船の高度が心なしか落ちてきた。

 昴は攻撃の効果に手応えを感じ始めていたが、恐怖に変わる。

 進路を町に変更し始めたのだ。

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