第81話 サイクスの再挑戦
「次は私ですね」
続いて飛行に向かったのは、サイクス大尉の機体だ。
「おおおっっ」
今まで見たことのない大きな機体に周囲はどよめいた。
複葉機だがそれまでの倍くらいの断面はある大きな胴体。翼も大きく長さだけで倍以上、大きさは四倍以上はありそうな大型機。
下翼に取り付けられた二発のエンジンは、それだけで大きな力を発揮させる予感を周りの物に抱かせた。
エンジンが回転し始め暖気が始まる。
軽快なエンジン音の二重奏が響き渡り、大空へ行くために構えているように見えた。
「では行って参ります」
サイクスは敬礼すると相棒と共に機体に乗り込み、滑走路へ進入して滑走を始めた。
大きな機体一杯に燃料を積み込んでいることもあり、その動きは重く、加速は悪い。
だが、大きくても航空機だ。
徐々にスピードを上げて行き、機首が上を向いていく。
「おおおっっ」
機首の引き上げが始まり、機体徐々に上を向いていって、タイヤが地面を離れた時、どよめきが走った。
これまで小型機、口さがない者は凧もどきと呼んでいる位、小さな機体が飛行機だった。
それが、倍近くある大型機が空を飛んだことに大きな感動を口にしていた。
小型機だからと言って無意味であるとは思わない。
これまでも忠弥が偉大な記録を達成したのは小型機だった。
だが、まるでドラゴンのような大型機が空を飛んだことは、空にさらなる可能性を予感させるには十分だった。
飛行場の上空を旋回し、大きな翼を見せつける様は、まさしく怪鳥だった。
「凄い」
忠弥も思わず感嘆を呟いた。
747、380、777などの大型機を見てきたが、転生してからは大型機など見ていない。
久々に見た大型機に感動を覚えた。
「良いぞ」
大型機は上空で水平飛行に移り、三角周回コースへ移る。
あとは何度もコースを飛び続ければ良いだけだ。
「おい、おかしくないか?」
だが、水平飛行にはいってから、暫くして右エンジンから煙が吹き始めた。
煙は徐々に濃く太くなっていき最後には、エンジンから火を吹き始めた。
「エンジン火災だ!」
叫び声が響く。
サイクスも気がついたようで、非常事態を示す信号弾を打ち上げ、燃料を投棄しつつ高度を下げてくる。
「消防車を待機させろ! 着陸事故に備えて滑走路に水をまけ!」
地上の全員が緊急事態に備えて配置に付く。
やがてサイクスの飛行機は滑走路にヨロヨロとふらつきながら進入し着陸した。
「大丈夫か!」
駆けつけたベルケがサイクスに尋ねる。
「ああ、平気だ」
コックピットから顔を出したサイクスは答えた。
駆けつけた消防車がエンジンに向かって放水して消火する。
幸い、燃料タンクを空にしたし、供給をカットしたため、出火したエンジンが丸焦げになってしまった。
「何故、火を噴いたんだ」
「過熱だろうね」
ベルケの後ろから駆けつけてきた忠弥が言う。
「冷却が不十分で過熱して火を噴いたんだろう。燃料を大量に積んで重い機体だから、エンジンの出力を上げすぎてオーバーヒートを起こしたんだろう」
航空機のエンジンは軽量高出力を目指していうるが、エンジンにおいて出力と重量はトレードオフの関係だ。
出力を上げようとするとシリンダーが内燃の圧力に耐えられるように強度を高める必要が出てくるので重くなる。そして出力は相応の熱量も出すため冷却が重要になってくる。
高出力を狙っているためギリギリの設計をしている航空用エンジンは元々無理のある設計をしている。オーバーヒートして出火する事など普通だ。
「油温は正常でした」
「機器が壊れたのか、取り付け位置が悪かったのかのどちらかだろう」
常にエンジンの様子を見ている必要があるが、監視するための計器の精度が良くないし、
故障することもある。
「だがよく戻ってきてくれました。これでまた飛べますね」
「ええ、原因を追及して今度こそ長距離記録を狙います」
燃え落ちたエンジンを見てサイクスは言った。
手ひどい失敗であり、記録を作れなかった失敗の烙印だが、成功への道しるべでもある。
出火の原因を探り当て、対策を練り克服すれば、長距離記録を狙える。
「格納庫に入れろ! 原因を究明する。滑走路を見て落ちた部品が無いか探してくれ!」
サイクスは仲間に叫び、機体を格納庫へ送り出すと自らも滑走路を見て部品を集め始めた。
その姿に好感を覚えた大勢の仲間が、滑走路の上に一列に並び部品を集めていった。
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