第425話 マホ環礁の戦いの結末と影響

「なんてことだ」


 マホ環礁の外側で攻撃を目の当たりにしたモフェットは、愕然とした。

 先ほどまで乗っていたワシントンが沈んでいる。

 船団も壊滅し、アルヘンティーナへの介入作戦は不可能だ。

 上空は静かになりつつある。

 皇国の攻撃隊が離脱していったのだ。

 攻撃終了したのだから、長居などしないだろう。

 そのため損害を、よりハッキリと見ることが出来てしまった。

 戦艦は、二隻とも沈没。一隻は船体が真っ二つになり沈んだ。

 船団の大半も沈んでいる。

 完全な敗北だった。


「司令官、ご指示を」


 幕僚が話しかけてきた。

 現在、指揮出来るのはモフェットくらいだろう。

 リチャードソン大将が生きていたとしても、通信能力のある艦に移るのに時間が掛かる。

 それまではモフェットが指揮を代行しなければ。


「索敵機を出して周辺の安全確認。上空援護の戦闘機も出来るだけ出すんだ。それと、本艦と航空巡洋艦の医務室から医薬品を集め、空輸用のコンテナに入れて各艦に投下、医療支援を行え」


「了解!」


 ミッドウェー海戦で鳳翔が負傷者を収容した艦へ医薬品を艦載機で投下したという事例がある。

 モフェットは知らないが、航空機の活用法を研究しており、負傷者が発生した時医薬品の補充も選択肢に入れていた。

 次々と発艦していくが、着艦する機体も多い。

 激しい空戦の後、着艦する機体もある。

 整備員も疲れており、格納庫へ収容しきれない機体が上甲板に並ぶ。

 そこへ一機の着艦機がやって来た。

 見た目は大した損害はなかったが、胴体下部、着艦フックを弾がかすめていた。

 だがパイロットも着艦信号士官も気がつかず、機体は着艦した。

 ワイヤーを掴んだ瞬間、損傷箇所が過大な負荷に耐えられず断裂。

 機体はそのまま艦載機が並べられているエリアへ突っ込んだ。

 しかも残存燃料が漏れて火災が発生する。


「畜生!」


 酷い事故にモフェットは罵声を上げる。


「すぐに消火! 甲板に残っている機体を海中へ投棄!」


「宜しいのですか。数少ない残存機ですが」


「アレでは使い物にならない。上空には着艦準備中の機体がいるのだぞ」


 索敵機も、再度の空襲に備えて上げた戦闘機も、物資輸送のために発艦させた機体もある。


「着艦出来なければ彼らは海の藻屑だ。発艦能力を確保しろ」


「了解!」


 すぐに無事な機体を含め、延焼防止の為、作業をやりやすくするために投棄していく。


「もう一度空襲があったらお終いだな」


 モフェットは再度の空襲を恐れた。

 しかも悪い報告が入ってくる。


「索敵機より報告! 皇国の航空巡洋戦艦がマホ環礁に迫ってきています」


「止めを刺す気だな」


 戦艦がいない今、対抗出来る艦はいない。

 一方的に砲撃されて終わりだ。

 仮に援軍で戦艦が来たとしても、航空機の攻撃で撃沈されて仕舞う。


「直ちに撤退だ。残存艦艇には離脱を命じろ」


「了解」


 これ以上被害を拡大させないことが重要だ。

 モフェットは、一艦でも、そして一人でも助ける為に艦隊に離脱を命じた。




「敵艦隊、離脱していきます」


「追撃しますか?」


「いや、十分でしょう」


 名雲の問いかけに忠弥は首を横に振った。

 勝敗は既に決しており、これ以上の攻撃は不要だ。

 追撃戦で戦果を拡大する事も出来るが、これ以上の攻撃は虐殺と言われる可能性が高い。


「でも、空母くらいは沈めておいた方が良かったかな」


 少し欲目を出すが、仕留める事は不可能だろう。

 それに、三段空母が戦力にならないことは自明だ。

 むしろお荷物を抱えて貰った方が良いかもしれない。

 いっそ、唯一の空母として残して貰おうか。


「追撃しなくて大丈夫なの?」


 昴が尋ねてくる。


「大丈夫さ。もう、メイフラワー合衆国は攻めて来られないよ」


「どうして?」


「ラジオを点けて艦内スピーカーで流して」


 忠弥の命令で乗組員が操作する。

 するとスピーカーから碧子の声が流れ始めた。


『我々は、今ここにメイフラワー合衆国に対してアルヘンティーナへの干渉を止めるように勧告する』

  

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