第305話 連合軍の情報1
ベルケは連合軍の様子をエーペンシュタインに尋ねた。
防備を固めるには相手の出方に対応しなければならず、敵の動きに注意を傾ける必要がある。
できる限り連合軍の情報を得られるようベルケは準備を進めていた。
「何か作戦を考えているようです。王国の大型爆撃機が王国本土に終結しています」
王国が開発した大型爆撃機だが忠弥の方針で帝国への本土爆撃は行われず、もっぱら塹壕の後方地帯への爆撃に使われている。
一度王国が単独で戦略爆撃を行ったがベルケが予め配備していた戦闘機隊により迎撃された。
護衛戦闘機が随伴できない領域で徹底的に迎撃されたため多大な犠牲を払い、王国爆撃隊の撃墜、帰還後廃棄処分を含めた最終損失は三割以上。
部隊は全滅した、と言えた。
以降、夜間爆撃か、護衛戦闘機が飛べる範囲での爆撃に専念している。
その大型爆撃機が王国本土に引き上げているのは怪しい。
「他には?」
「それが、王国本土に掩体壕建設部隊が設立されています」
「掩体壕?」
「はい、我々の爆撃に対抗するため、と言ってますが」
帝国内部にも中立国などを通じて王国や皇国の情報が入ってくる。
特にこれらの国が議会があり、戦時中とはいえ予算審議が必要であり、部隊設立などは予算案を通さなければ許可されない。
だから、相手の議会審議を注目するのは当然だった。
その中で新たに生まれた部隊にエーペンシュタインは注目していた。
「我々が爆撃しているのだから爆撃からの防御施設を作るのは当然だろう」
王国本土への爆撃は犠牲が大きすぎるが、敵の戦闘機を王国本土にヘア付けるために今も散発的に爆撃している。
大概は、敵基地から離れた防御の弱い箇所に爆弾を落とすだけだが、時ロイ大きな成果を狙える飛行船基地や、集結地となってる飛行場への効果的な奇襲爆撃を行う事もしている。
その対処に重要施設の防御、掩体壕の建設を行うのは当然と言えた。
「ですが、その掩体壕の構造が我々のブンカーとの似ています。航空機用なのに潜水艦用のブンカーと同じ構造というのは変です」
ベルケは黙ったままだがエーペンシュタインの意見に同意した。
潜水艦と飛行機では大きさが違う。潜水艦はほんの数十メートルだが飛行船は二〇〇メートルと戦艦級の大きさだ。
整備作業機械のみ入れるとしても潜水艦用のブンカーと似ているのはあり得ない。
「他に怪しいところはあるか?」
「皇国空軍と王国軍が合同で地上警備部隊を編成しています」
「前線飛行場の警備に必要だろう」
最低限の燃料補給と不時着のため最前線に飛行場を建設することがある。
だが最前線に近いため、敵の攻撃を受ける事があり、警備と敵の攻撃の排除のために空軍でも地上部隊を設立している。
陸軍の部隊に守って貰う手はずだったが、前線で激戦が展開されると、後方の飛行場守備隊を引き上げそのまま前線に投入。二度と守備隊が配置されず、時折来る少数の襲撃部隊――海まで繋がる塹壕だが全てに兵員を貼り付ける事は出来ず、隙間が各所にあり、そこから侵入され後方に回られることが度々あって飛行場が襲われた。
陸軍、地上部隊に頼れないと空軍あるいは航空隊は判断し独自の守備隊が必要という考えが生まれ、前線飛行場守備隊が編制され配備された。
その事情は帝国も連合軍も同じだった。
「ですが編成がおかしいです。構成員の殆どが士官と下士官で兵隊は下士官と同じくらいの人数です。それも激戦を経験済みです」
命令する士官と監督する下士官に兵隊が従うのが軍隊の構造だ。
士官二名で下士官六名、兵隊二五名が平均的な割合だ。
下士官と兵士が同じ割合である事はあり得ない。
「基幹要員が先に集まっているだけではないのか?」
新規部隊の場合、先に士官と下士官が集まり、周りと調整してから兵隊を受け入れる。
その方が兵隊へ給養、食糧や兵舎、装備品の手配などを予め準備出来るので混乱が少ない。
「ですが、編成されてから既に数週間経っています。保有している武装も陣地防御用の大砲や重機関銃ではなく軽機関銃や短機関銃や自動拳銃など個人装備が殆ど。車両はバイクのみ。飛行場防衛のハズなのに対空砲を持ってません。しかも既に戦闘訓練を行っているようです、それも王国本土に建設した例のブンカーで。あまりにも変です」
ベルケもエーペンシュタインも元陸軍将校であり、新部隊の立ち上げにも関わった事があり、事情はよく分かる。
編成作業が始まってから、数週間経ち基幹要員のみで活動を行うなど変だ。
総力戦の最中なら、毎日徴兵しているので、数週間の間、新たな兵隊が配置されないのはおかしい。
装備もエーペンシュタインの言うとおりおかしい。
飛行場に襲撃をかける部隊は個人携帯火器のみだが、防御側が、移動する必要の無い拠点防御部隊ならば、重火器を陣地に据え付けておき、圧倒的な火力で少数の歩兵部隊を殲滅すればよい。
スポーツではないので相手と同じ武装、兵力で戦う必要などない。
あまりにも異質すぎる部隊だ。
ベルケには幾ら考えてもこの部隊がどのように活用されるのか理解できず、得体の知れない恐怖で背筋が凍り付いた。
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