第306話 突撃隊

「まるで、今度の反攻に使われる突撃隊のような編成だな」


 皇国空軍で編制されている新部隊の内容を聞いたベルケは呟いた。

 陸軍の同期から聞いた東部戦線で活躍されたとされる帝国軍の突撃隊。

 前線を密かに地上から敵の前線後方へ侵入し、敵の要衝、砲兵陣地や物資集積所、司令部を襲撃する部隊。

 その編成に、皇国空軍が編成した飛行場警備部隊は似ている。

 強固に防御された東部戦線の敵陣地をあっさりと突破し、敵軍を混乱させ瓦解させ、一挙に制圧した新部隊。

 活躍が盛大に報告され、宣伝され久方ぶりの勝利に帝国は沸き立ったものだ。

 はじめはプロパガンダかと思ったが、報道された通りの活躍ぶりだったそうだ。

 この突撃隊の成功に喜んだ帝国軍上層部は直ちに類似した部隊の編成に着手。

 来るべき西部戦線での反攻作戦で投入しようと準備をしていた。

 彼らを航空隊が援護するためにベルケも突撃隊の詳細を聞かされており詳しい。

 だからこそ類似性に気がついた。

 だが、どうして空軍にこんな部隊が必要なのか。

 ベルケには幾ら考えても理解できず、得体の知れない恐怖で背筋が凍り付いた。


「新部隊を飛行船に乗せてブルッヘへ乗り込みブンカーへ下ろして占領するつもりでしょうか?」


 黙り込んだベルケにエーペンシュタインが私見を披露した。


「飛行船で運べる人数にまで厳選して少数精鋭で攻撃を。練度も実戦経験もある精鋭に個人携帯火器を充実させ一人一人の戦闘力を高め、確実に占領する」

「たしかに飛行船で空輸すれば少数ならば迅速に占領できるだろう」


 常に兵隊が戦闘準備を整えている訳ではない。

 通常は、見張りと警戒待機のために三割程度。再編成中なら休養も必要なので二割、下手したら一割程度しか即座に応戦できない。

 そこへ奇襲を仕掛ければ、短時間で制圧できる可能性がある。


「だが最初の奇襲でブンカー周辺を占領出来ても維持する事は出来ない。我が軍の包囲で孤立するだけだ」


 帝国陸軍の大半は前線に張り付いているが、再編成と訓練、上陸作戦への警戒のためにブルッヘ周辺には陸軍の部隊が軍団単位で配備されている。

 飛行船で運べる人数は最大限に見積もっても一個大隊六〇〇名だろう。

 数隻飛行船を動員しても、運べるのは彼らへの物資、装備の輸送を考慮にいれると合計して一個連隊二〇〇〇名程度。

 大砲などの重装備や食料などの機材も考えるとそれが限界だ。

 再編成作業中とはいえ、ブルッヘ周辺にいる一個軍団五万人の前に、そんな少数の兵士など本格的な反撃を受ければ消し飛ぶ。


「周囲の水路を陣地にして防御するのでしょうか?」


 ブルッヘ周辺に網の目のように流れる運河を水堀にして防御すればかなりの抵抗が期待できる。


「それでも絶対数が足りなすぎる。後続部隊が派遣できない」


 突撃隊は少数の奇襲部隊であり、占領は出来ない。

 敵を混乱させたところで、味方の主力部隊が進出し陣地を制圧することで占領する。

 だがこれは陸地だから出来る戦法だ。

 ブルッヘの場合、西部戦線から離れすぎており、空か海から後続部隊を送り込む必要があり、飛行船の数から考えて現実的ではない。


「数回に分けて運ぶにしても積み下ろしの手間を考えるとあり得ない。飛行船が大陸に下りてきたところを戦闘機で襲撃できる。補給の度に何度も訪れるなら襲撃の機会は多い。それは忠弥さんも分かっているはずだ沿岸にたどり着く前に撃墜できる」


 輸送力の大きな飛行船だが水素の固まりであり、ロケット弾一発で吹き飛ばせる。

 もし、制空権を奪われても、ゲリラ的な襲撃をかけて撃破することは可能だ。

 最悪の場合、ベルケは大陸にやってきた連合の飛行船に向かって単身で突っ込み、撃破するくらいの腕と覚悟はあった。

 忠弥もそのくらいのことは考えているハズであり、決して無闇に飛行船を失うような無謀な事はしないだろう、とベルケは考えていた。


「途中からは船。作戦が軌道に乗った後、沿岸部を制圧した後は船で補給するのでは?」

「この辺りの港は全て我々の制圧下だし、遠浅で小さい船しか使えない。しかも、沖合から上陸する羽目になる」


 潜水艦施設への艦砲射撃を警戒してわざわざ小型船しか侵入できない場所を選んで建設しており、上陸作戦にも警戒している。

 港を使わず陸に上がるのは非常に手間であり、その間は無防備だ。

 一方守備側である帝国は鉄道などを使い、迅速に上陸地点へ急行出来る。

 船から上がったばかりの敵が準備不足のところを帝国軍地上部隊が重火器などを使い、物量を以て撃破する事が出来る。

 その程度の事は、塹壕戦での高い授業料――何万もの死傷者で帝国も連合国も学習している。

 王国の運命がかかっているとはいえ、とても実行できない。


「しかし、何か企んでいるな」


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