第304話 ベルケのブルッヘ防衛体制

 黒鳥が飛来したから次の攻撃目標はブルッヘだ。

 ベルケの判断に同意したエーペンシュタインは、元気よく返事をして、ブルッヘ周辺の地図を出した。

 地図が広がるとエーペンシュタインは地図に鉛筆で描き込みながら言う。


「沿岸部には沿岸砲台があり敵の接近を防いでいます。沖合には機雷原があり、敵の艦隊が接近できないようにしてあります。我々の飛行場は非常用の不時着用を除いて全て、敵の艦砲射撃の範囲から離れたところに建設しており、敵の攻撃は受けません」


 潜水艦基地もそうだが、航空隊の基地が王国海軍の艦砲射撃を浴びることをベルケは警戒しており、離れた場所に建設していた。

 沿岸砲台から少し離れているが、安全の為には仕方ない。

 飛行場には機体の他、燃料弾薬、整備機材など航空隊の活動を支えるための機材が置かれている。

 敵の艦砲射撃で破壊される訳にはいかない。


「敵艦艇がやってきた場合は?」

「敵機の攻撃の恐れもあり戦闘機を発進させます。それと地上攻撃機ファルツを用意しています」


 ファルツは帝国航空隊が整備している地上攻撃機だ。

 爆弾を搭載し地上攻撃を行う復座機で、敵の砲兵陣地や機関銃座を破壊するために開発された。


「彼らもここで機種転換しています。敵が砲艦や閉塞船がやってきたら出撃し撃破するよう命じています」


 さすがに魚雷は重すぎて載せられないが、甲板を破壊する程度は出来る。

 十分な戦力になるとベルケ達は考えていた。


「ブンカーの方は?」

「潜水艦基地はブンカーで覆われております。ここは内陸にあり海までは運河と水路で結ばれています。航空隊の飛行場はこの運河周辺に建設。多数の航空隊を配備しています」

「航空隊の運用状況は?」

「現状、空中迎撃戦闘機隊は二隻を使い、常時一隻は上空に待機しています。飛行場も海岸部だけで三箇所が稼働、更に二箇所が建設中で近日中に竣工します。他にも内陸部に飛行場を建設し、支援態勢を整えています」

「飛行場に配備する航空隊は? 前線は飛行機を欲しているぞ」


 西部戦線は塹壕を挟んで激戦になっており、空中でも制空権争いが激しい。

 航空機の増援要請は日常茶飯事だ。


「消耗して前線から再編成作業をブルッヘ周辺で行うようにしました。訓練の一環で彼らにも迎撃配置に付かせています。空襲があれば彼らも出撃します。勿論訓練も必要ですが訓練コースが哨戒に使えるようにしています。勿論、固有の迎撃戦闘機隊も配置しています」


 部隊の再編成作業を占領地で行い、警備をかねて駐留させるのは古来からの常套手段だった。

 航空隊にも応用したが上手くいっている。訓練がてら哨戒と警戒に飛行機を飛ばして、敵の攻撃を察知するのは良い手だった。

 雑多な部隊の寄せ集めだったが、実戦経験があるし数も揃っていて、十分に使える部隊であり防衛体制だった。


「ブンカーの近くに飛行場は?」

「建設したかったのですが、潜水艦基地拡張のために平地は奪われました。また湖周辺のため軟弱地が多く飛行場は作れませんでした」


 離着陸には強固な滑走路が必要であり軟弱な地盤に飛行機は下ろせない。

 湖周辺の軟弱な泥地に飛行場を作ることは出来なかった。


「しかし、周辺や内陸部に飛行場を建設。さらに防空監視所を建設し、敵機の侵入あり次第出撃、確実に迎撃出来るよう態勢を構築しています」

「よろしい」


 ブンカーの近くに飛行場を建設できなかったのは痛い。

 だが、防空体制――防空組織と監視網を作り上げることで効果的に、周囲で敵機を迎撃出来る態勢を整えた。

 後方から戦闘機を送り込み迎撃出来るようにしてある。


「しかし、厳重すぎませんか? 敵が送り込めるのは爆撃機くらいです。空中空母が来ても地上飛行場に待機している航空隊が迎撃に上がります。ブンカー自体もかなりの防御力を誇ります」

「忠弥さんを甘く見るな。また飛行船の二の舞になるぞ」

「はい! 申し訳ありません」


 かつて飛行船部隊の基地を攻撃され、エンジン整備工場が破壊されて王国本土への爆撃が中断したことがあった。

 無防備な都市に爆撃を行う事に反発はあったが、飛行船部隊は仲間であり、攻撃される事を歓迎などしていない。

 だがエーペンシュタインは攻撃されたとき飛行船基地いたのに破壊されて仕舞った。このことを深く後悔していた。

 二度と同じ事が起こらないようにと誓っていたが、油断があった。

 ベルケに指摘され、改めて誓った。


「それで敵の様子は?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る